教育オピニオン
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新聞をさまざまな学習活動に活用しよう
東京都文京区立音羽中学校主任教諭穐田 剛
2014/7/15 掲載

 本校は、区内新聞販売店の皆さまのご厚意により、朝刊6紙(朝日・読売・毎日・東京・産経・日経)が毎朝、全クラス分無償で配達されています。しかし、十分に活用されないまま、リサイクルに回されることも多く、その活用方法が課題となっていました。

1.新聞を授業に活用する

 そこで、2011年から私は、社会科の授業で、毎回「新聞の音読」を導入時に行う活動を始めました。記事の内容については、@授業の単元に関連したもの、A時事ワードを解説しているもの、B現在話題になっているもの、の3種類から1つを授業ごとに選びました。
 例えば、朝日新聞の「ニュースがわからん」(現在は「いちからわかる」に改称)は@、Bの素材として適していますし、読売新聞の「時事ワード」はAの学習の際に大変効果的です。他にも、毎日新聞の「なるほどり」や産経新聞の「おやこまめちしき」など、中学生向けに大変わかりやすく書かれた紙面はどの新聞にも必ずあります。私自身が毎日必ず新聞に目を通し、教材として役立つ記事を日々探しています。
 学習活動そのものは、授業の導入で、1人1文ずつ交代で音読し最後に生徒自身が興味や関心をもった文章に線を引くというシンプルなものです。しかし、私の予想以上に真剣に取り組み、新聞を読む習慣を定着させるよい契機となりました。授業が始まると生徒のほうから、「今日は何の記事?」「このシリーズは文字が多いんだよな」という声が出るようになりました。
 こんなこともありました。ローマ法王退位の記事を取り上げた時、「新たに法王を選出するコンクラーベという言葉の語感が面白い」とある生徒が言いました。数日後、その生徒が授業の前に私の所に来て、「先生、コンクラーベが終わりました」と言ってきました。私が「新聞には出ていなかったよ」と言うと、「朝のニュースで見ました」と笑顔で答えました。この生徒にとって、コンクラーベが自分の関心事になって常に気になっていたようでした。授業の後も興味を持ち続けてくれたことに感激しました。

2.新聞スクラップと新聞記事コンテスト

 そして、2012年から「新聞スクラップ」を毎日行うことにしました。この学習活動は、届けていただいている新聞があまり活用されていない現状の解決策を1年生の学級委員に考えさせ、その学級委員の発案により始まりました。その内容は、生活班が週単位で、毎日、新聞ノートに興味や関心を持った記事を貼り、その記事についての感想を記入するというものです。私が考えていた以上に、様々なジャンルの記事が集まり、生徒たちの興味や関心の幅の広さに驚きました。
 あるとき、スクラップブックの中に「ある新聞記事では奇跡の一本松の樹齢は二百六十歳以上とあるのに、他の記事では百七十三歳。本当はどちらなのだろう」という感想がありました。私は授業の中でこの感想を取り上げ、2つの新聞を読み比べたことや気づきの素晴らしさを説明しました。「授業でほめてくれてありがとうございます」と嬉しそうにお礼を言う生徒に、「よく気づいたね。こちらこそありがとう」と伝えました。
 さらに、クラスごとにスクラップされた記事を学年全員で読む機会を設ける目的で始まったのが「新聞記事コンテスト」です。全クラスから選ばれた記事を廊下に掲示し、学年全員が投票。その学期で一番面白かった記事を決定するというものです。これまでに6回実施しています。1位に選ばれた記事の見出しを見ると、「金星、炎に浮かぶ」(1年生1学期)、「ミッキーもびっくり!?3億5000万円ツリー」(1年生2学期)、「オスプレイ低空訓練」(1年生3学期)、「じぇじぇじぇ 朝ドラあまちゃんが好調」(2年生1学期)、「台風18号初の特別警報」(2年生2学期)、「強まる領土教育」(2年生3学期)など、多岐に渡っています。現在も継続中で、卒業前には3年間のコンテスト記事をすべて掲示する予定です(この学習活動の詳細につきましては、東京新聞教育賞HPの論文(PDF)をご覧ください)。

3.新聞記事は学習教材の宝庫

 これらの学習活動を通して、私自身が新聞という情報メディアの素晴らしさについて改めて気づくことができました。記事を選ぶためには、紙面に万遍なく目を通す必要があり、その際に自分の興味・関心以外の記事も読むことができます。また、同じ記事を他紙と比較することで、1つのできごとについて様々な見方や考え方があることを学ぶことができます。まさに新聞は、学習教材の宝庫であるということを心から実感しました。メディアリテラシー育成の一環として、自ら情報に触れ、その内容を正確に理解し、自分の意見を考える上で、新聞ほど効果的な学習教材はないといえるでしょう。今後も新聞記事の活用を工夫して、生徒一人ひとりの興味・関心を喚起し、情報収集力や情報編集力の向上に努めていきたいと考えております。

穐田 剛あきた たけし

東京都文京区立音羽中学校

1971年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業。玉川大学通信課程で教員免許状取得。「新聞記事を活用した学習活動の探求」で第15回東京新聞教育賞受賞。現在、東京都文京区立音羽中学校主任教諭。

コメントの一覧
7件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2014/7/16 20:50:53
    新聞活用の重要性がよく分かりました。さらなる発展を期待しております。
    • 2
    • 名無しさん
    • 2014/7/17 23:37:58
    生徒が新聞を通して、いまの日本や世界を見つめ考えるきっかけをつくる取り組みであり、その有用性や多様性をとても感じました。同時に、先生の指導力や熱意、生徒の意欲に対し、非常に感心しました。
    • 3
    • 名無しさん
    • 2014/7/18 9:04:49
    素晴らしい取り組みですが、デジタルと紙ベースの新聞両方を活用させるリテラシーを身につけさせる必要があるのではと思います。
    • 4
    • 2014/7/22 19:59:55
    「ある新聞記事では奇跡の一本松の樹齢は二百六十歳以上とあるのに、他の記事では百七十三歳。本当はどちらなのだろう」・・・・
    >メディアリテラシー育成の実践としてあげたわかりやすい例ですね。
    >こんな小さな記事に着目した生徒に対しての接し方がいいですね。新聞と言うと、大上段に構えてしまいがちですから。子どもの目線に沿っています。生徒も安心して新聞に興味を持てたと思います。
    >沢山の情報がつまった新聞を教材としたことは、生徒にとっても有意義(ハッピー)です。先生のご活躍が楽しみです。
    • 5
    • 名無しさん
    • 2014/7/23 12:51:25
    新聞活用は昔、始めたことがありますが、結局挫折しました。今回の記事で、何よりも継続することの大切を実感しました。そのためには、負担のない方法を考えることがより重要なんですね。とても参考になりました。
    • 6
    • 2014/7/23 18:52:44
    こんばんわ!
    「負担のない方法」
    >子どもに新聞を読ませるのは大変です。授業だから仕方なくでもいいとは思いますが、どうでしょうか、見出しだけでも読んでくるというのは。

    >見出しランキングで1位になった記事を先生が読んであげると言うのは。でも、先生の負担になったりしてね。
    • 7
    • 名無しさん
    • 2014/8/11 10:58:11
    この取り組みを読んで、私も新聞活用を考えてみようと思いました。
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