教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
公共育にもの申す―塾だからできる支援
花まる学習会代表高濱 正伸
2013/3/14 掲載

 私が主宰する花まる学習会では、某県を中心に公教育支援に入って8年目になる。交通費と給食という御礼のみで、なぜ続けてきたかというと、そもそも20年前に「塾という在野でモデルを作り、いつか公教育を改革すること」をスタート時の目標として設立したので、受け入れてさえくれればやりたかったからである。
 最初はへっぴり腰で「とにかく先生の日常業務に新しい仕事を増やさないこと」に注意して、月1回の「思考力指導」の授業を、1日かけて全学年に行うというものであった。表面的な反発はまったくなかったわけではないが、一人ひとりの先生方は、みんな子ども思いでまじめな良い方ばかりだったし、中には非常に好意的に応援してくれる方もいらっしゃった。8年たってその数は増え続けている。
 時間をかけて信頼を得てからは、クラス全体で「問題作成(私が作っている「なぞぺー」というパズルを土台として、パズルの問題をたくさん作ってもらうこと)」をお願いして協力していただいたり、花まる漢字テスト(略称「花漢」)という漢字検定のシステムを、学期ごとに行うことを承諾していただいたりして、確実にかかわりは深いものに育っている。
 最近では、その現場で教頭先生だった方が異動で校長先生になられた学校で、同じシステムが始まったり、先生や役所の方がそこを見学に来た別の県の公立小から、とうとう弊社社員が自治体に年間常駐の形で学校支援をしてほしいという依頼まで来るようになった。きっと最初の感覚としては異物であったろう私たちを、温かく受け入れ協力してくださった、これまでかかわった先生方に心から感謝したい。

 さて、もし夢がかなうならば、公設民営で、人事と予算に責任を持つような形で、やる気のある先生方と共に、新時代の公立のモデル校を構築したいという思いを持ってはいるが、カスミのような夢を語っても仕方ないので、ここでは公教育に足りないと思われる1点を指摘するにとどめる。
 私は今、「学び方の学ばせ方」についての本を書いている(明治図書より近刊予定)。特に、学校の先生方向けに、児童・生徒の学び方指導、ノート指導法をどうすべきかを紹介するものだ。現在の学校制度の中では、「台形の面積の公式は5年生」「2次方程式の解の求め方は中学3年生」というように、知識をいつ教えるかというスケジュール表(指導要領)はあるけれど、個々の生徒がたとえば「テストで間違った問題を、どう次に活かすべく定着させればよいのか」という点での「具体的な学習の仕方」の指導法は、体系化された形では存在しない。
 もちろん現場の先生方が、それぞれ困っている子にアドバイスはされているということもあるだろうが、我々の教室に通っている子たちから聞く最大公約数の声は、「学校では教えてくれない」である。先生方が悪いのではなく、制度の問題。日本中に、ものすごい数の学習塾が存在し成立しているのは、そこに陥穽があるせいで、「どう勉強すればよいかを教えてほしい」というニーズが発生しているからだとも言える。
 「勉強をする」とは「ドリルなどをひたすらたくさん解くことだ」ととらえている生徒や親もたくさんいるが、もちろん誤りだ。学習の量はもちろん大切だけれど、一番大事なのはできなかったときの対処である。「1問を大切にして、『だいたい分かった』などという自分だましに走らず、やった以上絶対に理解して前に進む。分からないままにしない」という原則を見失わず、@何が分かっていないかを見極め、A今後できるようにするための教訓を引き出し、B完全に定着するまで、よい期間をおいて反復する、ということだ。この本では、そういうことができる子になるための低学年時代からの指導や、高学年以降を中心としたノート指導法などについてまとめた。

 塾が学校と異なる最大の点は、生徒から「授業が分かりにくい」と言われたり、生徒の学力が伸びなかったら、即、メシの食い上げであることだ。養うべき家族を抱えつつ日々その切実の中で教えているので、必然的に学習の仕方の指導には注目せざるを得ない。だからノウハウもたまっている。私たちの花まる学習会だけでなく、全国津々浦々の個人塾から都会の大手学習塾まで、それは必ず持っているはずだ。
 外部リソースとして、近くの学習塾にも協力を要請してみてはどうだろうか。学校も助かるし塾も誇らしい。

高濱 正伸たかはま まさのぶ

花まる学習会代表

1959年熊本県生まれ。県立熊本高校卒業。東京大学・同大学院卒。
学生時代から予備校等で受験生を指導する中で、学力の伸び悩み・人間関係での挫折とひきこもり傾向などの諸問題が、幼児期・児童期の環境と体験に基づいていると確信。
1993年、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した学習教室「花まる学習会」を設立。
その後、小学4年生〜中学3年生を対象に、「本格的な学習方法」を伝授する学習塾「スクールFC」を設立。子どもたちの「生き抜く力」を育てることを重視している。算数オリンピック問題作成委員・決勝大会総合解説員を経て、現在、算数オリンピック委員会の理事。
また、埼玉県内の医師やカウンセラーから組織されたボランティア組織の一員として、長年、いじめ・不登校・家庭内暴力などの実践的問題解決の最前線でケースに取り組んできた。現在は、NPO法人子育て応援隊むぎぐみの理事長も務める。2010年の『情熱大陸』をはじめ、多くのテレビ番組に出演、メディアにも数多く取り上げられている。

【主な著書】『小3までに育てたい算数脳』(2005年、健康ジャーナル社)/『算数脳パズルなぞぺ〜』シリーズ(2006年〜、草思社)/『「生きる力」をはぐくむ子育て』(2007年、角川SSC)/『わが子を「メシが食える大人」に育てる』(2010年、廣済堂出版)他多数。

コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 恊働学欲
    • 2013/3/21 20:31:51
    私は子どもの頃、オール1の成績でした。「分からないという子どもの分からなさが分からない」「分かる授業よりも、わかりたくなる授業」・・・この辺りに問題があるのではないかと感じます。塾か公立かというディコトミーで捉えること事態が危ない。公教育の優れた実践家を数多く知っている者としては、こういう公教育の知見も生かしたいもの。理解研究は事例研究であり(白水・波多野)ここを疎かにすると体系化もシステム化も意味を失う。公立化が効率化が単純にとって変わることの危うさ、ハイパーメリトクラシーとモダンの枠に留まる基礎基本の重視をどう整理するか。ハイステイクスな分かりやすい大衆学力観をどう変革していくかだ大事ですね。
コメントの受付は終了しました。