スペシャリスト直伝! 高学年担任の指導の極意
「最高学年を最高のクラスにしたい!」そんな思いを実現するために必要な様々な指導の極意を伝授します。
スペシャリスト直伝! 高学年担任の指導の極意(9)
感謝をもって「別れ」に向き合えるように
北海道旭川市立啓明小学校宇野 弘恵
2019/2/10 掲載
  • 高学年担任の指導の極意
  • 学級経営

 

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 進級、進学に伴って「別れ」の季節がやってきます。人生には別れがつきものですから、進級や進学を通して、子どもたちも「別れ」というものを学んでいくのだと思います。
 5年生は、他者に貢献することを通して「別れ」に向き合い、6年生は、自分たちの卒業式であるという思いをもつことで「別れ」への実感をもちます。
 どちらも、一人ひとりの思いを全体につなげていくことがポイントです。

5年生は「6年生の卒業式」を意識する

 5年生がこれまでかかわってきた行事の大部分が「自分のために動く行事」です。卒業式は、6年生のための行事(もちろん在校生が参加する目的はありますが)であり、5年生にとっては「自分以外の人のために動く」行事です。卒業式を「社会貢献」することに幸せを感じられるような場にし、次年度の意欲につなげます。

6年生のために、できることを考える

 在校生が卒業式にどうかかわるかは学校によって様々ですが、次年度、最高学年になることを鑑みると、全員が何かしらの役割を担えるようにしたいものです。5年生時にこうした経験があれば、自分が卒業する時に大変だった思いなどが理解でき、感謝の気持ちが自ずと湧くからです。
 役割をこちらから提示してもよいですが、できれば「してあげたいこと」を自分たちで考えさせたいものです。個人で紙に書かせて提出させてもいいですし、グループで一つ決めたり学級会などでピックアップしてから分担したりしてもいいでしょう。「自分はこれをして盛り上げたい」「この活動で気持ちを表現したい」と、それぞれが思えることが重要です。
(実施例)
・お祝いメッセージ(体育館、廊下、保護者控室、教室など)
・「あとは任せてください」状
・思い出ロード(6年生の活躍画像を廊下に掲示)    
・教室のくす玉 
・教室ピカピカにする
・廊下の装飾 など
 装飾などはパーツの分担を決め、「会社」「工場」に見立てて楽しみながら行うのがコツです。

できる「もの」ではなく「こと」を考える

 卒業式で6年生を引きたたせるのが在校生の役目。感謝とお祝いの気持ちを込めて、式を盛り上げたいものです。
 そこで、一人ひとりにどの場面で貢献するかを尋ねます。「入場の拍手で盛り上げる」「校歌を全力で歌う」「証書授与で空気をつくる」など、自分ができそうなことから選ばせます。複数を選んでももちろんOKですが、「頑張りどころ」がぼけてしまわないように、「どれも頑張るけど、最も心を込めたいところ」というニュアンスで決めさせるとよいでしょう。

6年生は、「自分たちの」卒業式であることを意識する

 小学校生活の集大成である卒業式。ずっと心に残る、いい式にしたいと、子どもも担任も願うでしょう。しかし、どんな卒業式にするかは子どもたち次第。教師がおぜん立てしたレールを歩くのがよい卒業式ではありません。「自分たちは、こんな卒業式にしたい!」という想いをみんなで共有し、「卒業式像」をみんなで決めます。

卒業式のイメージ像を共有する

 卒業式のイメージづくりは、学級ではなく学年で行います。「いい卒業式」「立派な卒業式」という抽象的な言葉ではなく、「ありがとうの気持ちが伝わる式」「頑張るぞいう気持ちが湧いてくる卒業式」のような、自分の想いが具現化できるものがいいでしょう。あるいは、「退場のとき、大きな拍手が湧く卒業式」のように、現象面での達成を目標にしても構いません。いずれにしても、卒業式の具体的な姿を共有することが目的ですので、式終了後に達成できたか否かが自覚できるものにします。

一人ひとりの想いを結集させる

 少し時間はかかりますが、一人ひとりの想いや決意を表明した上で、一つの言葉に集約していくようにします。卒業式像は、「与えられたものではなく、自分から湧いて来たもの」と認識させるためです。自分たちの式を自分たちでつくるという意識があれば、多少の困難にも意欲が萎えることなく頑張ることができるでしょう。
 自分の言葉で語ることを大切にするために、あらかじめプリントに書いたものを読ませたり、意見はすべて板書したりするのも、意識向上のための一手です。

どこに想いを込めるか決めさせる

 6年生は、入場から退場までの間、ずっと緊張しっぱなし。どの瞬間も気が抜けず、全部がんばることを、ある意味強要されるのが卒業式です。
 そうであっても、最も力を入れたい場面を個人で決めさせます。卒業式像に近づくためには、自分はどの場面で想いを具現化するかを決めさせるのです。決めたことは教室内に掲示します。ときどき個人で振り返らせながら、互いに励まし合えるようにします。

卒業式の日は、自分と仲間に「おめでとう」と言える演出をする

・卒業式までのカウントダウンカレンダー
 まずは、担当の日にちを割り振ります。卒業式が「残り0日」になるように設定し、一人に1枚ずつ用紙を配ります。40人学級ならば、卒業式から逆算し、登校日が40日目から掲示できるように割り当てます。日ちにや名前は、マジックで大きく丁寧に書かせます。色付けするのもよいでしょう。みんなに向けて、今までの感謝の気持ちや卒業までの過ごし方など、思い思いの気持ちも綴らせます。
 完成後は教室の目立つところに掲示します。朝の会で、日直が書いた人とメッセージを読み上げます。また、めくり終わったものは捨てずに、教室内に随時掲示していきます。こうすることで、書いた人を最後まで大事にすることができます。

・一人ひとりへの色紙
 一人ひとりに向けたメッセージを渡します。一人ひとりに便せん1枚の手紙を書いていた時期もありました。最近は、子ども自身の記念になることを優先し、手形、名前、メッセージというパッケージングで作成しています。卒業式終了後、一人ひとりにメッセージを言いながら渡すことにしています。
 こうしたものは決して「絶対に渡すべき」というものではありません。別れに際して、「ああ、私も大事にされたんだ」と実感してもらえる手立てがあればいいと考え、私は行っています。

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・黒板の装飾
 学校によっては在校生が飾ったり、自分たちで黒板メッセージを書いたりする場合もあります。私は、他者(とりわけクラスの仲間)とのつながりが見えるような装飾を行いたいので、自分で手掛けることにしています。
 中央にあるのは学級目標。時間をかけてみんなで話し合って決めたもの。周りにあるのは、毎月撮り続けた写真。メッセージを書いたり、子どもたち全員の名前を書いたりしたこともあります。また、真ん中を白くあけておいて、作成したDVDを流したこともありました。
 卒業式が終わって最後の時間を過ごす場所ですから、思い出が湧き出るような演習をしたいものです。

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今月のまとめ

  • 5年生は、他者に貢献することの「喜び」を経験させる。
  • 6年生は、自分たちの卒業という実感をもたせる。
  • 別れの時には、自分と仲間に「ありがとう」がいえる演出をする。

宇野 弘恵うの ひろえ

1969年、北海道生まれ。旭川市内小学校教諭。2002年より教育研修サークル・北の教育文化フェスティバル会員となり、思想信条にとらわれず、今日的課題や現場に必要なこと、教師人生を豊かにすることを学んできた。現在、理事を務める。

(構成:茅野)
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