考え、議論する道徳授業を創る!問いでわかる道徳授業づくり・実践講座
考え、議論する道徳授業にお悩みの先生必見!授業づくりの要である問い(発問)をもとに、授業展開のポイント・指導のコツをアドバイスします。
道徳授業づくり実践講座(9)
全校で道徳の授業をやってみる!全校道徳の挑戦
立命館大学大学院教授荒木 寿友
2019/2/25 掲載

 先日、私の娘が通う小学校で道徳の授業参観がありました(私は仕事で見に行けませんでしたが)。近所のお母さんが、「道徳だから行かないでおこうかな」とつぶやいているのを知って、道徳に対する世間の認知度ってそんなものかぁと改めて気づいた次第です(笑)。もっとメジャーになるようがんばります!

全校道徳って何ですか?

 今回は、道徳の「問い」そのものというよりも、ある種めずらしい道徳の授業形態、全校道徳の実施について考えていこうと思います。
 道徳の授業は学級(学年)単位で行われることが一般的で、学習指導要領(小学校)も低学年、中学年、高学年と分けて記載されています。発達年齢が近い方が認知的な能力が似ているため、読み物教材も扱いやすいですし、子どもたちの生活経験も同じような過程を経ているので、授業が進めやすいのはいうまでもありません。また、それぞれの発達年齢で獲得していく事柄も異なります。
 全校道徳は、基本的には縦割りの班による異学年集団で構成されます。小学校であれば1年生から6年生で一つの班になり、そのグループで道徳的価値に焦点を当てた話し合いなどを行っていきます。全校道徳は異学年で集まってともに考えるというのが特徴であるといえます。

全校道徳のメリット

 通常の学級で実施される道徳の授業の方がメリットは多そうなのですが、全校道徳にも利点はあります。以下三つの点から考えてみましょう。
 第一に、異学年集団だからこそ出てくるアイデアや意見の多様性を担保できるという点です。学級を単位とした道徳の授業は、良くも悪くも同質性の高い集団がベースになりますので、多様な意見が出てきそうで実は出てきにくかったりします。小学校低学年と中学年では考え方が異なるのは当然のことです。高学年では発達的に乗り越えたような「問題」であっても、低学年ではまさに困難のさなかにいることも考えられます。
 第二に、高学年児童のファシリテーション力やリーダーシップを育てることができるということです。教師が進めていく授業とは異なり、全校道徳では高学年の児童が中心となって話し合い活動を進めていく必要があります。そのときに取り上げられている道徳的価値に基づいて、アイデアを出し合い、話の交通整理をして、時には発言しにくそうな子には声掛けをしていくなど、自分たちで話し合いを進めていく力を獲得していくことができます。
 第三に、異学年の子どもたちが活動をともにすることで、低学年の子どもにとっては上級生が身近なロールモデルになる点があげられます。その場をやりくりしている上級生は、低学年の児童から見ればかっこいいものです。身近なかっこいい存在が低学年の憧れになり、成長を加速させていきます。

全校道徳の進め方のコツ

道徳の授業の成立要件
 道徳の授業が道徳の授業として成立するためには、どういう条件をクリアしておく必要があるのでしょうか。学習指導要領道徳科の目標には次のように書いてあります。※()内は中学校学習指導要領

よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え、自己(人間として)の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる。

 ここから明らかになることは、道徳の授業の学習には、自己を見つめる活動、多面的・多角的に考える活動、そして生き方について考える活動という三つの学習活動が記されているということです。となると、全校道徳にしろ、学級での道徳にしろ、こういった学習活動が含まれている必要があります(必ずこれら三つの活動がなければならないというわけではないと思いますが)。全校道徳を実施するにあたっても、一応の目安にはなると思います。

問いは端的に
 何百人の全校児童生徒が一堂に会して道徳の授業をするわけですから、通常の進め方とは異なってきます。範読に10分もかかる読み物教材はあまり適切ではないでしょう。また、教師と子どものやりとりによって授業を進めるわけではないので、問いはかなり厳選しておく必要があります
 たとえば、インクルーシブ教育において先駆的な取り組みをしている大阪市の大空小学校では、これまで以下のようなテーマで全校道徳が実施されてきました。該当する内容項目もあげておきます。

・平和ってどういうこと(国際理解、国際親善 生命の尊さ)
・みんなが気持ちよく遊ぶために(規則の尊重)
・あいさつはなぜあるのだろう(礼儀)
・チャレンジしてみたいこと(希望と勇気、努力と強い意志)
・どうすると、心がつながる?(感謝 礼儀)
・自分も人も大切にするってどういうこと(思いやり、感謝 相互理解、寛容)

 私が先日大空小学校を伺った際には、20秒ほどの教師による友達関係に関する寸劇が行われました。四人グループで遊んでいるところに、「一緒に遊ぼう」と、一人の友達が入ってきます。でも四人グループは、「別に嫌なわけじゃないけど、今日はこのメンバーで遊ぶって決めたから、ごめん」と断ります。その後、「自分だったらどうするか?」(友情、信頼)という問いが出されました。
 低学年から高学年がともに話し合うために、込み入った情報は不要になります。シンプルに問いを捉えることが重要です。

自分で考える時間を確保する
 テーマが示された後すぐに話し合いができるかというと、そうでもありません。まずはそのテーマ(あるいは道徳的価値)について自分なりに考える時間が必要になります。いわゆる「自己を見つめる活動」です。少しの時間でもいいので、児童生徒が一人で考える時間を確保しましょう。

「ふりかえり」は必ず実施
 全校道徳に限った話ではありませんが、児童生徒のなかには話し合いに積極的に関与できなかったり、あるいは終盤に出た意見に揺さぶられたりすることがあるかもしれません。その日の話し合い活動に対して、児童生徒が自分なりに意味を見出していくためにも、自分の言葉でまとめていく必要があります。教室に戻ってから「ふりかえり」ができるようにしましょう。この時間が「これからの生き方を考える」学習活動につながります。

全校道徳を実施する際の留意点

 全校道徳をいきなりやったとしても、もしかしたらうまくいかないかもしれません。その原因としては、児童生徒全体のつながりが日常から保障されていないことが可能性としてあげられます。また、話し合いを進めていく高学年児童生徒には、ある程度ファシリテーションの技術が必要になってきます。そして何よりも教師が「道徳について教える」という立場を保留する必要が出てきます。むしろ全校道徳を実施するにあたっては、教師は場を設定することに重きをおいて、児童生徒が自ずと育っていくことを見守る覚悟が必要です。
 となると、異学年の交流が一定の頻度で学校教育活動で実施されていなければなりませんし、日常の教科教育などにおいて他者の話を聞く、話をまとめるというファシリテーションの基礎技術を鍛えておく必要があるでしょう。
 子どもを信じて子どもに任せてみる、そんな全校道徳の授業が子どもたちをよりステップアップさせていくのではないでしょうか。チャレンジする価値のある取り組みだと思います。

【参考文献】
大空小学校ホームページ http://swa.city-osaka.ed.jp/swas/index.php?id=e731673
国立教育政策研究所生徒指導研究センター(2011)『子どもの社会性が育つ「異年齢の交流活動」―活動実施の考え方から教師用活動案まで―』

荒木 寿友あらき かずとも

1972年宮崎県生まれ,兵庫県育ち。2002年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は道徳教育、教育方法、ワークショップ、カリキュラム開発。現在,立命館大学大学院教職研究科教授。NPO法人EN Lab.代表理事。元セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン,アドバイザー。NPO法人cobon理事。国内外、大人子どもを問わず、さまざまなワークショップを展開する。
単著に『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013年)、共著に『モラルの心理学』(北大路書房、2015年)、『考える道徳を創る「私たちの道徳」教材別ワークシート集』(明治図書、2015年)、『やさしく学ぶ道徳教育』(ミネルヴァ書房、2016年)、『戦後日本教育方法論史 下』(ミネルヴァ書房、2017年)など。

(構成:佐藤)

コメントの受付は終了しました。