考え、議論する道徳授業を創る!問いでわかる道徳授業づくり・実践講座
考え、議論する道徳授業にお悩みの先生必見!授業づくりの要である問い(発問)をもとに、授業展開のポイント・指導のコツをアドバイスします。
道徳授業づくり実践講座(4)
モラルジレンマ授業での問いとは?
立命館大学大学院教授荒木 寿友
2018/9/25 掲載

 「考え、議論する道徳」という学習方法が提示されて以降、モラルジレンマ授業に関心が集まってきているように感じます。ジレンマ教材によって子どもたちの頭の中はモヤモヤとしますし、ディスカッションによって子どもたちは自分の考えを表現していきます。「考えること」と「議論すること」が見事にミックスされているのが、モラルジレンマ授業であり、またジレンマ資料と指導案がパッケージ化されているものが多いので、先生方にとっても扱いやすいのではないでしょうか。
 こういった理由からか、最近は校内研修でモラルジレンマを扱う学校が増えてきたり、あるいは京都府内の美濃山小学校ではモラルジレンマと演劇を結びつけ、葛藤場面を実際に演じるという取り組み(こうすることでよりリアルに葛藤場面や最終的な判断を考えることができる)をしたりするようになりました。

モラルジレンマ授業とは

 モラルジレンマ授業については、すでにいろいろなところで紹介されています(私の書籍『ゼロから学べる道徳科授業づくり』などでも紹介しています)。アメリカの道徳心理学者・コールバーグによって発案されたこの手法は、日本の道徳性発達研究会(現在は日本道徳性発達実践学会)によって30年以上前から改良がなされ、教育現場で用いられるようになりました。
 モラルジレンマの大きな特徴は、物語(実話もあります)においてニつの道徳的価値が対立するように描かれていることです(「おやつを食べたいけど痩せたい」というような欲求の対立ではありません)。「生命と法」、あるいは「友情と正直」、「自己実現と他者への信頼」、中には「一人の生命と多数の生命」で描かれているものもあります。この対立こそが、私たちに認知的不均衡(要は、どっちつかずでスッキリとしないモヤモヤした状態)を生み出します。同時に私たちはこういったバランスの取れていないモヤモヤした状態は嫌なので、なんとかバランスが取れるように考えようとします。この不均衡から均衡へという頭の中の状態が、成長であり発達であるといえます。
 ですので、モラルジレンマの授業では、なぜそのように考えるのかという、子どもたちの判断理由付けがもっとも重要視されます。判断理由付けをなんとかして筋の通ったものにしていこうとすることが、子どもの道徳性の発達に大きく関わっていくからです。

モラルジレンマ資料における問い

 「なんとかして筋の通ったものにしていく」と先ほど書きましたが、ここをいかに教師が揺さぶっていくか、それが授業中の「問い」の大きな役割になってきます。モラルジレンマ授業を展開する際には、一般的には以下のような問いを準備します。

1.役割取得を促していく問い
2.行為の結果を類推する問い
3.認知的不均衡を促す問い
4.道徳的判断を求める問い

 これらの問いは、モラルジレンマに限らず、他の教材においても活用していくことができる問いでもあります。一つひとつ見ていきましょう。

1.役割取得を促していく問い
 役割取得とは、簡単にいえば、他者の立場に立って物事を考えてみるということです。物語の中には様々な登場人物がいます。「Aさんの立場であればこう考えるけど、それを知ったBさんはどう考えるだろう?」というような問いで、さまざまな立場から物事を捉えていけるように促します。基本的には主人公のAさん、それともっとも関係のあるBさんという二者において役割取得を促していきますが、学年が上がっていけば(たとえば小学校高学年以上であれば)、物語中にはメインとして登場しない人物の視点を考えさせてもおもしろいかもしれません。「それを知った周りの人はどう考えるだろう?」などは、これに該当します。
 大切なことは、さまざまな立場の人の考え方や主義主張を想像することで、「こっちを立てればあっちが立たず」の状態をつくりだしていくことです。それがモヤモヤした不均衡な状況を生み出していきます。

2.行為の結果を類推する問い
 行為の結果、つまり登場人物がその判断に基づいた行為をしたならば、その結果としてどんなことが生じるのか想像させていく問いです。「もし〜したならば、どうなるだろう?」という形が一般的な問いになります。たとえば「もしそのことを正直に友だちに話したら、どうなるだろう?」、「もしみんなが同じ行動を取り始めてしまったら、どうなるだろう?」などが該当します。この問いは先程の「1.役割取得と促していく問い」と併せて使うことも可能です。たとえば、「もし彼を選手交代させなかったら、周りのチームメイトはどのように考えるだろう?」という問いは、前半で行為の結果を、後半で役割取得を促す問いのつくりになっています。

3.認知的不均衡を促す問い
 「認知的不均衡」という点ではすべての問いに通じるのですが、とりわけこの問いは、子どもの主張とはあえて逆の立場のことを教師が発問したり、あるいはそもそもどういうことなのかということについて問いかけたりするものです。たとえば、「いついかなる時でもきまりは守らなければならないの?」、「親切にするってみんな言っているけど、そもそも親切ってどういうことを言っているの?」などは、子どもたちの「常識や当たり前」に対して働きかけていく問いになります。

4.道徳的判断を求める問い
 これはモラルジレンマに特有の問いになります。「主人公はどうするべきですか」という問いがこれに該当します。「〜した方がいいですか?」というやんわりした聞き方ではなく、「どうするべきですか」と強く聞いているのにはわけがある(哲学者カントの義務論とか絡んでいるのでちょっとややこしい)のですが、簡単にいってしまえば、主人公の判断がいついかなる時でも一貫性を持つような納得できる強い判断になることを求めているからなんです(ブレのない判断が道徳的行為に結びつくというのがカントの考え方なんですね)。この場合はこうするというような状況に依存したものではなく、道徳の原理を子どもたちが見つけ出していこうとするような、そんな想いが「〜すべきですか」には込められています。

モラルジレンマ教材を扱う際のコツ

 さて、以上のような問いで子どもたちの思考に揺さぶりをかけていくわけですが、子どもたちもなんとかしてスッキリとしたいので、どちらかを選ぶという二者択一ではなく「第三の道」を探し始めます。つまり、どちらの道徳的価値も生かしていくような、そんなアイデアを考え始めます。
 でも、これには要注意。現実生活の中ではどちらの価値も生かしていくような、そんな考え方が重宝されますが、道徳科の授業では「道徳的諸価値の理解をもとに」という目標にもあるように、徹底的に道徳的価値に向き合っていく必要があります。この道徳的価値にはどういう意味があるのだろう? そんなことを考え抜いていくことに意味があるのであって、道徳的価値に向き合うことなく安易に第三の道を考えてしまうことは避けた方がいいと思います。できるだけ例外的な発想を消して、上記の問いを参考にしながら道徳的価値に子どもたちが真摯に向き合うという「練習」を授業で繰り返していくことによって、現実生活においてもより広い視野を持った妥当性のある価値判断ができるのではないでしょうか。

 モラルジレンマは先にも述べたように、もうずいぶんと前から制作されています。中には今の時代には合っていないものもあります。たとえば現在、サプライズ誕生日に慣れている子どもたちにとっては、転校してしまう友達に内緒(サプライズ)でお別れ会を企画している最中に、その友達とギクシャクしてしまうモラルジレンマ(「けい子の迷い」)には興味を示さないこともありえます(というか、実際にあった話です)。
 そんなときは、自作でモラルジレンマをつくってみるのも一つの手です。現実生活にはジレンマが溢れています。子どもたちの興味関心を引きそうな、かつ道徳的価値が対立するような、そんなモラルジレンマ教材をつくるのもおもしろいとおもいます。

【参考文献】
荒木紀幸監修、道徳性発達研究会編(2012)『モラルジレンマ教材でする白熱討論の道徳授業 小学校編』明治図書

荒木 寿友あらき かずとも

1972年宮崎県生まれ,兵庫県育ち。2002年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は道徳教育、教育方法、ワークショップ、カリキュラム開発。現在,立命館大学大学院教職研究科教授。NPO法人EN Lab.代表理事。元セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン,アドバイザー。NPO法人cobon理事。国内外、大人子どもを問わず、さまざまなワークショップを展開する。
単著に『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013年)、共著に『モラルの心理学』(北大路書房、2015年)、『考える道徳を創る「私たちの道徳」教材別ワークシート集』(明治図書、2015年)、『やさしく学ぶ道徳教育』(ミネルヴァ書房、2016年)、『戦後日本教育方法論史 下』(ミネルヴァ書房、2017年)など。

(構成:林)
特集 「特別の教科 道徳」
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