考え、議論する道徳授業を創る!問いでわかる道徳授業づくり・実践講座
考え、議論する道徳授業にお悩みの先生必見!授業づくりの要である問い(発問)をもとに、授業展開のポイント・指導のコツをアドバイスします。
道徳授業づくり実践講座(3)
メッセージ性の強い教材をどう扱う?
立命館大学大学院教授荒木 寿友
2018/8/25 掲載

 夏休みも終盤。充実した休みを過ごすことができましたでしょうか? 心身ともにリフレッシュして新学期を迎えたいものですね。

メッセージ性の強い教材

 本やテレビ、インターネットなどを見ていると、「子どもたちに読ませたい!見せたい!」という強い衝動に駆られる「ネタ」に出会うことがあります。社会科などの教科であれば、そういった「素材」がまさしく「教材」へと姿を変えて、授業の中で生かされていきます。たとえば旅行中に撮った写真、YouTubeなどインターネットで見た動画、小説やエッセイの一節、ニュース画像など子どもたちの興味や関心を引き出したり、教科での学びを深めていったりする素材が多くあります。
 道徳の場合も、そういう素材は溢れています。でも、道徳の場合は、どちらかといえばかなりメッセージ性の強いもの、たとえばある道徳的価値の大切さについて説いているものなどを、子どもたちに思わず伝えたくなってしまいます。困難から這い上がってきた偉人の話やスポーツ選手の話など、いわゆる「いい話」や「すごい話」はインパクトがあり、子どもたちに響きやすいものになります。とりわけトップアスリートは、私たち一般人からは想像もつかないような困難に立ち向かい栄光を手にしているのですから、彼らの生き方から学ぶべきところはたくさんありますし、そういったドキュメントなどを見ると、「すごいよねー!」と子どもたちに伝えたくなるのも当然です(実は私も個人的にはそういう話が大好きで、時々大学の授業で学生に紹介しています)。
 実際、道徳の教材には、多くの偉人(杉原千畝、小川笙船、マザー・テレサなど)やスポーツ選手(イチロー、大谷翔平、佐藤真海、内村航平、錦織圭など)が登場します。
 ただ、気をつけなければならないのは、そういった「いい話」「すごい話」を単に紹介するだけでは、子どもたちも「すごいねー」という感想だけで終わってしまう可能性が高いということです。その偉人・選手のファンを増やすという目的であれば、「すごい人だ!」という感想で終わってもいいのですが、授業で扱う以上、やはり工夫が必要になってきます。
 道徳科の目標に照らし合わせると、道徳科の授業は

1.自己を見つめる(自己内対話)
2.多面的・多角的に物事を考える(多様性の確保)
3.自分の生き方(人間としての生き方)について考える(将来への展望)

という学習活動を含む必要があります。
 偉人やスポーツ選手の話は非常にインパクトが強いので、こういった学習活動が影に隠れてしまいがちになります。
 ではどうすればいいのでしょうか? 私も大好きなサッカー選手の一人である長谷部誠さんの『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』(幻冬舎、2011年)の一節が道徳の副読本に取り上げられていましたので、それを参考に授業づくりを考えてみましょう。

今月の題材
「遅刻が努力を無駄にする。」(『キラリ☆道徳1』正進社)
対象学年
中学生
内容項目
A-(2) 節度、節制 (関連項目:A-(1)自主、自律、自由と責任、A-(3) 個性の伸長)
授業のねらい
生徒自身がこれまでの人生の中で成長したことを振り返り、成長していくために必要な行動習慣を長谷部誠のエッセイを参考にしながら考えることを通じて、今後も自らが意図的に成長場面を作り出していこうとする道徳的実践意欲と態度を育てる
あらすじ
子どものときから常に集合時間の1時間前には到着をして準備を始める。早く到着することによって、その日の練習の課題などを頭の中で整理し、限られた練習時間を有効に活用できるようにしている。当然、遅刻もすることがない。遅刻は周りにとっても、自分にとってもプラスに作用することはない。相手の時間を奪うだけでなく、自分の信頼をも奪ってしまうものだからだ。時間に遅れるということは甘さがあり、本気で取り組んでいないということになる。普段の頑張りを無駄にしないためにも、時間についてはルーズにならない方がいい。

 時間にルーズな子どもがいたら、読ませたくなってしまう文章ですよね。「長谷部さんはこういうマイルールを作って遅刻をしないようにしているんだよ、だからあなたも長谷部さんを見習って遅刻しないようにしてね」なんてことを伝えたくなってしまう、そんなエッセイです。
 実際、これを読んだ子どもたちは、「さすが日本代表のキャプテンを長年務めることができるような人は、こういう厳格なルールを自分に課したりしているんだな。すごいな」という感想を抱くでしょう。中には、特にサッカーなどスポーツをしている子どもたちは、「私も長谷部さんのように遅刻しないようにしよう」と思うかもしれません。
 でも、道徳科の目標をもう一度思い出してください。ここを落とし所にしてしまうと、3つの学習活動が弱くなってしまって、「遅刻をしないこと」ということのみがメッセージとして伝わってしまうことになります。道徳の教材はあくまで道徳的価値について考えを深めていく「きっかけ」になるものであって、教材そのものを教え込んでいくものではありません。

授業の進め方

この授業のポイントは、長谷部さんのエッセイを最初に読まないということです。繰り返しになりますが、これを先に読んでしまうと、「遅刻をしない」というメッセージのみが子どもたちに伝わってしまうからです。
 そこで私はミニワークから入ってみることをおすすめします。最初の指示は以下の通りになります。

これまでの人生の中で、自分自身が成長できたというエピソード(思い出)を書いてください。いくつでもかまいません。(他人に公開できる範囲内でかまいません)

 ここで子どもたちはいくつかの成長場面を思い出し、その話を書き出します。いわゆる「自己を見つめる」作業になります。時間は10分程度でいいでしょう。授業者が自分の成長場面を一例として話をしてもいいかもしれません。ある程度書けたら、ペアや班で5分程度共有しましょう。
 「みんなはこれまでたくさん成長してきたんですね。これからももっと成長してほしいなぁと先生は思っています。そこで次のことを考えてみてください」というような言葉かけをしてから、この授業の中心的な問いに入ります。

問い「これからも成長を継続的に生じさせるためには、具体的にどのような『習慣』が必要になってくると思いますか? いくつでもかまいません」

 以下のようなフォーマットを準備しておいて、それに当てはめていってもいいかもしれません。

 ○○を成長させる そのために必要な習慣は△△ なぜならば・・・

 10分程度時間を取って、その後時間があれば全体で共有します(人間としての生き方を多面的・多角的に捉える時間になります)。
 子どもたちが自分が成長していくための習慣を考えることができたら、ここで長谷部さんのエッセイの登場です。おそらく15分は授業時間が残っているはずです。範読後、以下のように問いかけてみましょう。

長谷部さん自身は自分が成長していくために遅刻をしないことを習慣として掲げていますが(実はこれ以外にもたくさんの習慣を本の中で上げています!)、このエッセイを踏まえて、さらに自分が書いた習慣に付け加えたいものがあれば書き加えてください。できた人は今日の振り返りを書いてください。

 長谷部さんの文章を最後に出すことによって、長谷部さんの意見に左右されることなくまずは自分自身を見つめることが可能になり、自主的に、そして意図的に成長場面を作り出すことが可能になってきます。さらにその過程において、自分を見つめたりこれからの生き方についても考えたりすることができます。かつ、トップアスリートの生き方も伝えることができます。
 メッセージ性の強い話は、いい話であるからこそ、逆に道徳的価値の伝達型(お説教)になりやすい側面を持っています。お説教にならず子どもたちが考えることができるように工夫していく必要がありますね。

荒木 寿友あらき かずとも

1972年宮崎県生まれ,兵庫県育ち。2002年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は道徳教育、教育方法、ワークショップ、カリキュラム開発。現在,立命館大学大学院教職研究科教授。NPO法人EN Lab.代表理事。元セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン,アドバイザー。NPO法人cobon理事。国内外、大人子どもを問わず、さまざまなワークショップを展開する。
単著に『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013年)、共著に『モラルの心理学』(北大路書房、2015年)、『考える道徳を創る「私たちの道徳」教材別ワークシート集』(明治図書、2015年)、『やさしく学ぶ道徳教育』(ミネルヴァ書房、2016年)、『戦後日本教育方法論史 下』(ミネルヴァ書房、2017年)など。

(構成:林)

特集 「特別の教科 道徳」
コメントの受付は終了しました。