考え、議論する道徳授業を創る!問いでわかる道徳授業づくり・実践講座
考え、議論する道徳授業にお悩みの先生必見!授業づくりの要である問い(発問)をもとに、授業展開のポイント・指導のコツをアドバイスします。
道徳授業づくり実践講座(1)
道徳授業における「問い」とは何か?
立命館大学大学院教授荒木 寿友
2018/6/25 掲載

 さぁ、新しい講座のスタートです。「世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座」は、先月、名残惜しくも終了してしまいましたが、今月からテーマを変えて、より実践に力点をおいた講座を掲載していくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

問いでわかる道徳授業づくりとは?

 授業をつくっていくにあたり、多くの先生がとても重要だと認識すると同時に、とても難しいと感じているのが、「発問」(問い)です。国語科であれ社会科であれ、授業の大きな鍵を握っているのが発問です。特に中心発問(主発問)の良し悪しが授業の成否を左右する、なんてことも言われています。
 では、発問とは何でしょうか? 一般的には「答えを知っている人が知らない人に対して発する問いのこと」を意味します。逆に知らない人が知っている人に対して発する問いのことを「質問」といいますよね。インタビューなんかがその最たる例です。
 それに対して、発問とは、知識を確認していく一問一答型の発問であっても、子どもたちの前提知識や思考に揺さぶりをかけていく中心発問であっても、基本的には、教師が「答え」を知っていて、その「答え」へと児童生徒を導いていくためになされる教育的な活動であるといえます。
 さて、勘の鋭い皆さまならお気づきかもしれませんが、本講座のテーマは「問いでわかる」になっています。実は発問ではないんです。その理由を説明します。
 先にも述べたように、発問の大前提は、「答えを知っている教師が存在する」ということです。一般の教科においては確かにそう捉えることが可能です。答えを知っているからこそ、児童生徒の思考を揺さぶることができますよね。しかし、道徳においては、この大前提が必ずどの授業においても成立するわけではありません。具体的に考えていきましょう。
 * * *
 読み物教材において、「この場面で登場人物はどういった気持ちだったでしょう」という場面を読み取るための問い(場面発問)は、教材の中に答えを推測できる箇所があるために、ある程度教師が答えを予想することが可能です。「そっと」とか「ぎくり」とか、そういった情景描写から心情を理解することはできますよね(こういう発問をすると、児童生徒は一斉に教科書や資料を眺めて、答えを探し始めるのでわかりやすいです)。
 ところが、この場面発問だけで授業が成立するわけではありません。誤解を恐れずに言えば、国語の授業と同じになってしまいます。道徳科の目標に従って、道徳の授業の成立要件をあげるとすると、

・道徳的諸価値の理解に基づいていること(前提)
・自己を見つめること(自我関与、自己内対話)
・多面的・多角的に物事を捉えること(多様なものの見方)
・自分の生き方について考えること(将来への展望)

になると思います。
 つまり、場面発問だけだと、この成立要件に合致しないことになります。道徳の新しい学習指導要領で「登場人物の心情理解のみの指導」にならないように釘を差しているのも、このためです。
 道徳科において大切にされる問いとは、「児童生徒が自分だったらどうするか?」、「自分以外の視点から見るとどう考えられるのか?」、「あの人はどう考えるんだろう?」、「これからどう生きていこうか?」という、まさに「答え」が多種多様である問いであるはずです。つまり、一方的に教師が答えを知っているわけではなく、むしろ、教師の想像を超えたところに児童生徒が導き出す答え(もはや答えというよりも「アイデア」や「想い」といったほうが適切かもしれません)があると私は考えています。
 このような意味から、あえて「発問」という言葉を使わずに、より広い意味で「問い」という言葉を使っています。

ドラえもんで考える「相互理解」

 先日、ある中学校にお呼ばれして道徳の授業を拝見させていただきました。なんとドラえもんの登場人物(のび太、スネ夫、ジャイアン、しずかちゃん、出来杉君)の性格を理解した上で、班座席を考えるというものでした。かなり斬新で、私も初めてこのような実践を見ました。生徒たちはとても熱心にキャラクターの性格を踏まえた上で、班の座席を考えていました。本講座ではそれをベースに私のアイデアも加えて、問いの視点から実践を考えてみようと思います。

資料
ドラえもん
対象学年
中学2年生
主題名
相互理解、寛容 B-9(関連項目:個性の伸長 A-3)
授業のねらい
「ドラえもんの登場人物の性格ならびに自分の性格を捉え、その人物に適切な班の席を決めることを通じて、各登場人物の個性や特性を理解し、それを最大限生かそうとする道徳的判断力を育てる」

問いで見る!授業展開

 この授業では、のび太やしずかちゃんなど合計5名のキャラクターの性格や人間関係を確認するところから始まります。たとえばのび太なら「おとなしくてのんびり屋」、スネ夫は「ずるくて目立ちたがり屋」など、それぞれの生徒が考えていきます。それと同時に、生徒は自分自身の性格も確認しておきます。
 続いて、「登場人物5名に自分自身を加えた6名で班の座席を考えます。どういう席の配置にすると学校生活がさらに充実したものになるだろう」という中心的な問いを提示します。まず個人の作業、その後グループでの共有の時間です。生徒たちは、のび太とジャイアンの関係から隣の席に配置するのはよくないだとか、ジャイアンとスネ夫は離したほうがいいとか、私ならのび太(あるいはジャイアン)のサポートができるかもしれないけど、私もサポートしてほしいので隣は出来杉君がいい!など、いろいろと考えた上で席の配置を考えていきました。まさに十人十色のアイデアが湧き出てきました。
 この問いのポイントは、自我関与にあります。自分がドラえもんのメンバーの一員ならばどういった役割を担うことができるのか、外から眺めて考える場合よりも、もっとリアリティが出てきます。「登場人物5名の班の座席を考えましょう」という問いだと、俯瞰的に眺めることはできる一方で、自分自身がその場に関わるということは極端に少なくなってしまい、結果的に他人事の道徳になってしまう傾向があります。ドラえもんという、生徒たちにとってとても身近なアニメだからこそ、自分を投影することができるのかもしれません。
 また他者と意見交換することにより、キャラクターの捉え方も必ずしも全員一致していないことに気づくことができます。「ジャイアンは乱暴者だけど、しずかちゃんには逆らえないんだよ」という意見を聞いたときには、私も思わず納得してしまいました。

 次回からは、できるだけ指導案をベースにしながら、より効果的な問いについて考えていく予定です。次回もぜひお楽しみに!

荒木 寿友あらき かずとも

1972年宮崎県生まれ,兵庫県育ち。2002年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は道徳教育、教育方法、ワークショップ、カリキュラム開発。現在,立命館大学大学院教職研究科教授。NPO法人EN Lab.代表理事。元セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン,アドバイザー。NPO法人cobon理事。国内外、大人子どもを問わず、さまざまなワークショップを展開する。
単著に『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013年)、共著に『モラルの心理学』(北大路書房、2015年)、『考える道徳を創る「私たちの道徳」教材別ワークシート集』(明治図書、2015年)、『やさしく学ぶ道徳教育』(ミネルヴァ書房、2016年)、『戦後日本教育方法論史 下』(ミネルヴァ書房、2017年)、『教育の方法と技術』(ミネルヴァ書房、2018年)など。

(構成:林)

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