教育オピニオン
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「むずかしい学級」「むずかしい子ども」との関係づくりのコツ
奈良県公立小学校小野 領一
2023/6/1 掲載

「むずかしい」学級だと感じてしまう理由は?


 「むずかしい」学級とは一体どんな学級なのでしょうか?公にはされていませんが、どの自治体にもおそらく「教育困難校」とよばれる学校が存在するでしょう。「教育困難校」では、子どもたちの学力の低さや非行などの問題行動が原因で教育活動が困難な状態になることが多く、「むずかしい」学級がたくさん出てきます。私自身、そういった小学校で約10年間勤務しましたが、そこでの学級づくりは本当に難しかったです。
 一方で、子どもたちの学力が比較的高く、非行などの問題もほとんどない、いわゆる「落ち着いた学校」もあるでしょう。そういった学校でも、時々問題行動を起こす子どもたちが多く在籍する「むずかしい」学級が出てくることがあります。実はこれら両極にある学校での「むずかしい」学級にはある共通項があるのです。
 それは、

教師が子どもたちを統制的にハンドリングしにくい学級であること

 
 非行などの問題行動が多い。
 発達に課題を有している。

 おそらく、「教育困難校」であっても「落ち着いた学校」であっても、「むずかしい」学級とされている学級は、こういった子どもたちが多く在籍していると考えられるのです。つまり、「むずかしい」学級とは、子どもたちをハンドリングすることを前提に成り立っている従来の日本型教育が通用しにくい学級なのです。
 さらに、「これから」の学校はますます「むずかしい」学級が増えることが予想されます。GIGAスクール構想によって子どもたちの個別化が加速すること。社会情勢の変化によって子どもたちの価値観がさらに多様化していくこと。スマホやタブレットによって子どもたちの持つ情報量がもっと大きく増えていくこと。こういったこともあいまって、より一層教師が子どもたちをハンドリングすることが難しくなっていくと考えられるからです。

子どもたちを統制的にハンドリングすることを手放す勇気!


 「むずかしい」学級をどうにかするポイントは、私たちが子どもたちを統制的にハンドリングしようとする今までのやり方を手放す勇気を持てるかどうかです。
 私たちが決して忘れてはならないことが、「問題行動」を起こす子どもたちとは、あくまでも従来の日本型教育の中の枠に収まりきらない子どもたちを指すことが多いということです。私たちは子どもの成長のために子どもを指導しているはずです。でも、いつのまにか無意識の内に子どもを各学校のルールや教師が定めたルールの枠の中に入れこむことが目的にすり替わってしまうことが多いのです。
 私たちは、日本の学校教育で多くの教師が暗黙的に「普通」だとする学級を作り上げるために、「むずかしい」学級であればあるほど子どもたちをハンドリングしようとしてしまいがちです。
 その結果として、子どもたちへの叱責が増え、学級の状態がどんどん不安定になってしまいます。教師が子どもたちを統制的にハンドリングして教育することを手放せば、従来の日本型教育の中の枠に収まりきらない子どもたちは「問題行動」を起こす子どもたちではなくなるはずです。

教師の役割を「教育環境デザイナー」に


 私は子どもたちを「教え導く」のではなく、子どもたちが生き生きと毎日をハッピーに過ごせるような「教育環境」をデザインすることを意識しています。
 例えば、3年生の国語教材である『まいごのかぎ』であれば、

自分だけのまいごのかぎをつくって、かぎをさしにいこう!

といった学習課題を設定します。
 すると、子どもたちは自分たちで教科書を読み進め、友だちと相談しながら楽しんで学習していました。授業の終末には、アナザーストーリーを考える子ども。お気に入りの場面の絵を描く子ども。クイズブックをつくる子ども。お気に入りの場面の音読発表する子ども。それらをみんなと共有しました。こういった授業を展開することで、静かに行儀よく座っている子どもだけが評価されることが少なくなります。結果として、教師は従来の日本型教育の枠よりも大きい枠で子どもたちをみることが出来るようになります。子どもたちにとっても、「やらされ感」を感じにくくなり意欲的に学習に取り組むようになります。

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※まいごのかぎをさす様子

 授業づくりや学級づくりで、子どもたちが楽しめるような「教育環境」をデザインする上で私が大切にしているポイントは3つです。まず、子どもたちに「自己選択」をさせる機会を多く設けます。次に「遊び」のエッセンスを加えます。さいごに、教師が子どもたちの「秩序」を守ってあげることです。子どもたちが自由に伸び伸びと活動出来るように、他者を精神的、肉体的に傷つける行為は絶対にゆるさないことです。
 こういった視点を教師一人ではなく、学校全体で共有出来れば、もっとゆとりをもって「学級づくり」が出来るのではと考えています。
 本稿がみなさんの「困りごと」を軽減する一助となれば幸いです。

小野 領一おの りょういち

1984年、奈良県生まれ。
近畿大学を卒業後、大阪教育大学第二部へ進学。現在、奈良県公立小学校にて勤務。関西教育サークル「かれ笑らいす」代表。

子どもたちの授業態度や学力の低さ、非行などの問題行動が原因で教育活動が困難な状態になることが多い学校で勤務をしてきた。そういった学校では「教師と子どもたちとの信頼関係」と「子どもたち同士の人間関係」の構築を優先しなければならないことを強く感じた。そこから、奈良教育大学教職大学院に進学し、学習に関する指導行動ではなく、主にそれ以外の集団育成に関わる指導行動に焦点を当て2年間研究をおこなう。現在も「困難な学級での学級マネージメント」と「力量のある教員の指導方法に共通項はあるのか?」といったことについて研究を行っている。

著書に、『学級崩壊崖っぷちでも乗り切れる!頑張らないクラスづくりのコツ』(明治図書)がある。
編著や共著に『Withコロナ時代のクラスを「つなげる」ネタ73』(黎明書房)『ロケットスタートシリーズ 学級づくり&授業づくりスキル 学級通信』(明治図書)『教える 繋げる 育てる 授業がクラスを変える! 学級づくりの3D理論』(明治図書)『気になる子を伸ばす指導』(明治図書)『ゼロから学べる仕事術』(明治図書)など他多数。

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