教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
今、求められる学校の「クラウドバイデフォルト」
東京学芸大学 准教授大村 龍太郎
2023/2/1 掲載

GIGAの本質はクラウド化


 GIGAスクール構想により、児童生徒に1人1台端末が配布され、地域によって充実度の差はありますがネットワーク環境もかなり整ってきました。
「子どもたちが授業中にPCを当たり前に使うようになるのだ」
「これからの社会を生きていく子どもたちには、端末を文房具として使えるような力が大切だ」
「インターネットを子どもも教師も適切に活用し、情報活用能力を高めたり、教科等の学びに生かしたりすることが大切だ」
 などと言われたり、イメージが浮かんだりします。もちろん、それらは大切なことです。しかし、GIGAによる教室環境の変化、道具の変化、授業の変化、何より子どもの学び方の変化に最も影響を与えるのは、間違いなく「クラウド活用が前提となること」です。逆に言えば、そこにGIGAの本質を見出さないのであれば、端末もネットワーク環境もその便利さは半減してしまいます。「ないほうが授業がやりやすい」などと感じてしまうことにもなりかねません。
 クラウド活用が前提となる学級や授業におけるキーワードの一つは、「現在進行形共有」であり、その便利さを子どもの学びやすさと学びの深まりに生かす授業づくりが可能になります。それはどういうことなのか、次項で考えてみましょう。

クラウド活用を前提とした授業はどうなるか


 私たちは、「作成物を見合う」「友達と考えを交流する」というとき、完全ではなくとも、ある程度「形になったもの」を共有することをイメージします。それも大切な学びですが、「現在進行形共有」の便利さは、「つくっている最中」自体も、友達との物理的な距離にかかわらずいつでも共有できる教室になるということです。
 クラウドでいつでもつながっているのですから、端末上で子どもが課題に対して考えをつくるときに、「友達はどんな考えをつくったのかな」だけでなく、「友達はどのように考えをつくっているのかな。どのような見方・考え方や手順でつくっているのかな」というプロセスまで含めて、自分の状況に応じて自己決定的に見合うことができるのです。戸惑っている自分を自覚した子どもは、友達の考えのつくり方を参照して「まねぶ」ことができる。自分がもっている情報や見方・考え方だけで考えをつくりたい子どもは、友達のものを参照せずに活動するのももちろんよいでしょう。その子は「後から友達の考えを参照する」ことも可能なわけですから、自分の考えと友達の考えを比較することも画面上で容易にできるわけです。先生も子どもたちの状況を格段に把握しやすくなるのは言うまでもありません。
 例えば、算数科の授業においては、よく自力解決の時間が設けられますね。私の専門は授業研究・学級経営研究ですから、授業マニアの私としては、自力解決の価値ももちろんわかりますし、大切な時間だとは思います。ただ、考えをつくることが難しい子どもにとっては苦痛になったり、無理に考えをつくらせるために事前にほぼ答えのような見通しをもたせたり、先生がヒントを与えすぎたりする場面を見かけることがあります。そのような子どもが、「友達はどのように考えをつくっているのだろう」と参照して自ら「まねぶ」ことは、むしろ素敵なことではないでしょうか。先生方も、指導案をつくるとき、先人のそれを参考にするのと同じことです。まねてはいけない、自分で考えなさいと言いますが、まねぶことは学びの原点のはずです。また、他者からの強制ではなく、「私はまねぶ」「私は自分の力だけで考えてみる」などを自己決定することは、自らの学習を調整する姿でもあります。
 社会科であれば、それぞれが調べた資料の共有はもちろん、それをどう関連付けて社会的事象の因果関係をあばこうとしているのかを参照し合ったり、それによって自分なりの見方が新たに芽生えたりすることもあります。理科であれば、各班や各自の実験結果の即時共有で、結果の再現性があるかを確認したり、結果が異なればそれは誤差の範囲なのかと検討し、実験を再度行うか、複数の結果をもとに考察に進むかを判断したりすることも科学的な思考として重要な学びです。
 現在進行形共有ができるからこそ、そのような学びやすさや深まりのある授業を実現するのに便利な道具になりうるわけです。

日常的なクラウド活用を実現するポイント


 道具は便利であるからこそ意義をもちます。ただし、ここまででお分かりになったと思いますが、それは道具に「慣れたとしたら」の話です。自転車と同じで、慣れる前(乗れるようになる前)は不便なのは当たり前です。それは慣れていないからであって、その状態で道具の価値を判断するのはナンセンスです。子どもも先生も便利さを享受できず不幸になります。そこで、以下がポイントになります。

  • 先生方が、授業や教育活動ではなく、職員室の仕事等で活用し、クラウド前提の道具に慣れて便利さを実感するのが先(自分が本当に便利だと感じていないのに子どもにはすすめられないですよね)
  • 制約しすぎず、子どもに日常の係活動等でもチャット機能やアンケート機能などでの意見交流や情報共有を認める。可能な範囲でたくさん道具に触れさせる(包丁と同じで、正しい使い方やモラルを学ぶことが肝要なのであり、道具自体に罪はありません)
  • 研究授業の協議などを行うとき、まだ子どもが使い慣れていないのであれば、「手段が目的化している」という批判ばかりしない(使い慣れることもねらいに入っているのだから、慣れるまでは教科等のねらいだけでなく、道具の使い慣れもねらいに含めて参観したいものですね)

 クラウドの便利さを先生方も子どもも実感しながら活用し、その恩恵を享受したいですね。

大村 龍太郎おおむら りょうたろう

東京学芸大学 教育学部 教育学講座 准教授
福岡県小学校教諭等を経て現職。一般社団法人STEAM JAPAN理事。専門は教育方法学。「教科等固有の価値と教科等横断的・汎用的な価値の両者を重視した学習者主体の授業研究(ICT活用含む)」、「互いの自由と共同体の価値を実感する学級経営研究」を関連的・複合的に研究している。
【論文・著書等】
「生活科の「見方・考え方」から芽生える中学年教科等の「見方・考え方」の自覚を促す教師の構えと関わり」、「小学校における特別活動と「学級目標」の系統的関連を図る指導とその効果」、高橋純編著『はじめての授業のデジタルトランスフォーメーション』東洋館出版(分担執筆)、小学校社会科授業づくり研究会『小学校社会科 Before&Afterでよくわかる! 子どもの追究力を高める教材&発問モデル』明治図書(分担執筆)、等。

コメントの受付は終了しました。