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子どもがつながる温かい学級をつくるには、非言語コミュニケーションへの着目が大切という話をしたいと思います。
1.非言語コミュニケーションの重要性
言語コミュニケーションの育成に偏り過ぎていないか
私は教育大学に勤務する関係で小・中学校の授業を参観する機会が多くあります。その際、校内研究についての説明を受けますが、研究主題に関わって最近少し気になることがあります。それは、「自分の考えを伝え合う」「一人ひとりの考えを聞き合う」などの言葉が研究主題としてよく取り上げられていることです。このような言葉が研究主題に入っている学校の教室には、「自分の思いや考えをわかりやすく伝えよう」「話すことを整理して順序よく話そう」というめあてが掲示されています。
これらは、コミュニケーション力の育成をめざす学校での取り組みの表れと思います。しかし、学校の取り組みは言葉によるコミュニケーション、言語コミュニケーションの育成に偏り過ぎていないでしょうか。
コミュニケーションは非言語が7割
ご存じのようにコミュニケーションには、視線、身体接触、表情など言葉以外の媒介を使った非言語コミュニケーションがあります。実は人のコミュニケーションの7割程度は非言語コミュニケーションです。また、言語コミュニケーションが単独で存在することはなく、常に非言語コミュニケーションを伴っています。さらに、言語コミュニケーションは主に情報や考えの伝達を、非言語コミュニケーションは感情や気持ちの伝達を担っています。これらに加え、言語メッセージと非言語メッセージの意味することが矛盾しているとき、人は非言語メッセージの意味するところを相手の本心と捉えます。つまり非言語コミュニケーションとは、互いに相手の非言語メッセージ(視線、身体接触、表情、声の高さ、話す速度、話すタイミングなど)から相手の感情・気持ちを察し、共有する行為であり、人と人とがつながるには非言語コミュニケーションが欠かせないといえます。
2.学級・授業における非言語コミュニケーションとその指導
学級・授業における”同調現象”
学級・授業で非言語コミュニケーションは頻出しています。例えば、次のような場面をみたことはないでしょうか。
「持久走で走っている子どもの横を応援しながら走っている子どもの呼吸のリズム、走り方がシンクロしている」
「一緒にアニメの歌を唱っている子どもの笑顔と身振りがシンクロしている」
「手をつないでお遊戯をしている子どものつないだ手が同じふり幅、速さで動き、笑顔までもがシンクロしている」
これらは、非言語コミュニケーションの同調現象と言われるもので、「自分の気持ちが自分の立っている“ここ”から抜け出して、相手の“そこ”に出かけ、“そこ”まで気持ちをもち出し、“そこ”で起こっていることを身をもって感じとることで、互いの感情、気持ち、内部感覚までも認知・共有する深い非言語コミュニケーション」なのです。
しかし、残念ながら教師も子どもも、この身体の同調現象のもつ意味には気づいていません。
もし、この場面で教師が身体の同調現象のもつ意味を子どもに伝えてあげるとどうでしょうか。
「Aさんがあなたの横を応援しながら走っているとき、Aさんはあなたと同じ速さ、リズム、呼吸で走っていたね。それは、Aさんがあなたの心の中まで自分のアンテナを伸ばし、Bさんの心を感じとっていたから同じ走りになったんだよ」
「Aさんとは普段はあまり話をしないけど、Aさんは私の気持ちをわかっていてくれたのかなあ」と感じ、心の距離が少し近づくかもしれません。
子どもの心をつなぐ指導、分断する指導
さらに、非言語コミュニケーションに着目することで、物事の意味を捉える視点が変化し、教師の指導が変わる可能性もあります。
例えば、このような場面での指導です。
「忘れ物の多いC君が教科書を忘れて黙って座っています。隣のDさんは、それを知っているのか知らないのか、声をかけずに自分の教科書をみています」
どちらの子どもが気になるでしょうか。教科書を忘れたC君でしょうか。それとも声をかけずに自分の教科書をみているDさんでしょうか。
この場面、非言語コミュニケーションに着目すると、教科書を忘れたC君よりもDさんの方が気になります。つまり、C君の体からは、「困った、どうしよう」という非言語メッセージが絶えず表出されていたはずです。こう考えると、この場面では、まずDさんに「C君が困っているよ。気づいてあげて」と声をかけ、次にC君に「もし、Dさんが何かで困っていたら次はC君が助けてあげて」となるかもしれません。決して、C君の忘れたことを注意して終わる指導はしないでしょう。なぜなら、この指導では困っているC君に何もしなったDさんの行動を肯定することになるからです。これでは、子どもの心をつなぐ指導ではなく、分断する指導になります。
子どもの心をつなぎ、温かい学級をつくるには、非言語コミュニケーションに着目した指導が求められるのではないでしょうか。