教育オピニオン
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通常の学級で行うポジティブ行動支援
香里ヌヴェール学院小学校松山 康成
2022/3/31 掲載

1 子どもたちのステキな行動を引き出す「ポジティブ行動支援」


 新しい教室・仲間・先生に目を輝かしている子どもたち。今年1年この学級で、子どもたち自らの「ステキな行動」がたくさん見られ、みんなが笑顔で過ごすこと、自分の力や個性を発揮できることを、どの先生も願っていることだと思います。そのような学級を実現するための方法として、ここでは「ポジティブ行動支援」に基づいた学級運営の方法について紹介したいと思います。
 ポジティブ行動支援(Positive Behavior Support)とは,子どものステキな行動(子どものより良い生活や,子ども本人にとって価値を感じられる成果につながる行動)を,周りの仲間や先生がポジティブに支援する(罰的な方法ではなく,肯定的,教育的,予防的な方法で支援すること)というものです。

(参考:入門シリーズ02 PBSとはhttps://www.youtube.com/watch?v=MsOF6SxqfgU

 
具体的には、(1)子どもたちの行動の前のきっかけ・状況(Antecedent),(2)子どもたちの行動(Behavior),(3)その行動の後に起こる結果(Consequence),これらを詳細に検討していきます。これは,それぞれの頭文字をとって行動のABCフレームとも言われます(図1)。

図1

図1 ABCフレーム

 
 ポジティブ行動支援では、子どものステキな行動を引き出すような行動のきっかけ(A)を積極的に作り、ステキな行動(B)ができたら、それに対してステキな結果が伴う(C)ようにすることで、子どもやちがステキな行動を自発しやすく、続けやすい環境をつくっていきます。

(参考:入門シリーズ03 行動を理解するためのABCの枠組みhttps://www.youtube.com/watch?v=mGytu9GUvVc&t=149s

 
 学校の先生は、どのように声かけをしたら子どもたちが行動できるのか、また授業場面であれば学習できるのか、という行動のきっかけづくりのプロであります。しかしながら、先生のきっかけによって生起されたステキな行動を、先生は“普通”や“当たり前”と認識してしまうことが多く、できていない子や問題のある行動に注目してしまいがちです。“普通”“当たり前”と認識されたステキな行動には声をかけず、問題と見なされた行動にはネガティブな声かけをしてしまうということがよくあります。こうして、学級のしんどい状況は生まれていってしまいます。そこで大切なことは、子どもたちのステキな行動を引き出すきっかけづくりとともに、ステキな行動に対する承認や称賛などのフィードバックを行うことで、ステキな行動を引き出すということです。一般的に、ステキな行動と問題行動は同時に行うことができません。ですので、教室でステキな行動が増加することは、必然的に問題行動が減少するということになります(図2)。
 ここでは、そのフィードバックの方法として、先生と子どもたちによる実践を紹介します。

図2

図2 ポジティブ行動支援の考え方

参考:入門シリーズ04 強化に基づく支援のあり方https://www.youtube.com/watch?v=ORgLP4rvjHI&t=36s

 
2 “先生が”行動を認める


 子どもたちのステキな行動を先生が認めるために、まずどのような行動が“ステキな行動”なのかを、子どもたちと共有する必要があります。学級目標や学校教育目標に基づいて、学級で大切にしたい価値を決め、その価値の実現のために必要なステキな行動を、肯定的な言葉で、学校生活の場面ごとに整理します(池島・松山, 2014、表1)。

表1 ステキな行動表

図3

 
 このステキな行動表の活用の際は、以下の3点について留意することを子どもたちと確認しましょう。
 
1.ここに示された行動は、みんなの願いが含まれている。
2.このステキな行動表は、どのような行動が大切かを確認するためのものである。
3.ここに示された行動ができていないからと、友達を注意しない。
 
 ここに示されたステキな行動や、目標や価値に基づくステキな行動が見られたときに、先生から積極的に認めていきます。ポイントは「即時に」、そして「相手のパーソナリティに沿うように」です。「即時に」というのは、子どものステキな行動が見られた直後に速やかに承認・称賛するということです。即時にフィードバックを行うことで、具体的にどの場面、どの行動に対してのものなのかを子どもが認識することができます。「相手のパーソナリティに沿うように」というのは、子どもたちそれぞれの個性や性格などに合わせて声かけを行うということです。子どもによってはたくさん褒めることによって、いいリアクションが見られることもありますし、小さな声やジェスチャーなどで伝えた方がいい子もいると思います。そういった配慮によって、効果的なフィードバックが実現します。
 
3 “子ども同士で”認め合う


 フィードバックは、先生からだけでなく、子ども同士でも行うことができます。仲間から具体的な行動に対して承認や称賛が行われることは、子どもたちにとっても喜ばしいことですし、先生一人が行うよりもより多くのフィードバックが行われます。また、子ども同士がステキな行動に着目し合うことで、学級の雰囲気もあたたかなものになることが期待できます。また子どもたちの価値観で渡されるカードは、自分たちの環境をよりよくしたいという気持ちが込められています。
 子ども同士で認め合う場合は、「ポジティブカード(図3)」を活用することで、フィードバックした内容を記録したり、学級で共有したりすることができます(松山・枝廣・池島, 2016;栗原, 2018)。

図4

図3 ポジティブカード

 カードは、授業時間に学び合いを行った際や、グループで取り組みを行った際に、友達との関わりのフィードバックのためのツールとして用います。また学級活動等で、班やグループで関わりの振り返りのツールとして用いたりして機会を増やすことで、効果は高まります。カードには、相手の名前、行動を見た日、場面、具体的な行動内容、差出人の5点を記入します。
 何も意識せずに活動するだけでは、子どもたちは行動を認め合うことはできません。また、学級には誰からでも認められる子や、みんなからなかなか認められることが難しい子、さらには他者を認めることが難しい子もいます。そこでこのカードは、取り組みの前に「ステキな行動に着目しよう」と声かけをすることで、取り組みがスムーズに行えます。

 ここまでの手順で、ポジティブ行動支援によって子どもたちのステキな行動が生まれ、先生や子どもたちにとって過ごしやすい学級をつくることができると思います。ここで紹介した実践は、ポジティブ行動支援のほんの一部分です。ポジティブ行動支援は学級全体の支援だけでなく、個別支援の充実、またデータに基づく行動支援の実現など子どもたちと先生方の行動を支援する多様なフレームワークです。下記に示した参考文献などをご参照の上、ぜひポジティブ行動支援を学んで頂けることを願っています。

〈参考文献〉
日本ポジティブ行動支援ネットワーク公式チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCXADWsGaG2ZKt-T0vE4MXYQ
池島徳大・松山康成. (2014). 学級における規範意識向上を目指した取り組みとその検討−“PBISプログラム”を活用した開発的生徒指導実践 奈良教育大学教職大学院研究紀要 「学校教育実践研究」 6 1-29
松山康成・枝廣和憲・池島徳大. (2016謝と賞賛を伝え合うポジティブカードの有効性の検討−対人的感謝と学校環境適応感に及ぼす影響− ピア・サポート研究 13 25-38
栗原慎二. (2018). ポジティブな行動が増え、問題行動が激減! PBIS実践マニュアル&実践集 ほんの森出版

松山 康成まつやま やすなり

香里ヌヴェール学院小学校教諭・博士(心理学)・公認心理師
1987年大阪府生まれ。2020年度まで12年間大阪府公立小学校で勤務し現在に至る。学校での実践と同時に海外視察や理論研究などに取り組み,現在は日本ポジティブ行動支援ネットワーク理事や東京都足立区教育委員会特別支援教育アドバイザーを務める。著書に「授業をアクティブにする! 365日の工夫 小学5年」(明治図書出版),「いじめ予防スキルアップガイド: エビデンスに基づく安心・安全な学校づくりの実践」(金子書房)などがある。

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