教育オピニオン
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特別支援学級でのICT機器の活用について
神奈川県横浜市立仏向小学校東森 清仁
2022/3/1 掲載

 GIGAスクール構想の前倒しに伴い、多くの学校で児童の手元に一人一台の端末が行き届きました。これから、児童は手元に届いた端末を活用して様々な学習にチャレンジしていくことと思います。
 本校では、数年前からタブレット端末を活用した実践を積み重ねてきましたので、その中から児童が学習で実際に使用したアプリと、その活用のポイントについて説明していきたいと思います。

オススメアプリと授業での活用事例


〇ビジュアルプログラミング「Viscuit」

 「Viscuit」(合同会社デジタルポケット)は、数値入力を伴わずに使用できるプログラミングアプリで、国内でも多くの学校で実践が行われています。イラストを組み合わせることで、「順次処理」「条件分岐」「繰り返し」などのプログラムを簡単に作成することができます。

図1

 『スイミー』(レオ・レオニ)の赤い魚が泳いでいる海の場面の様子をみんなで作成し、舞台に大きく投影して音読劇を行ったり、道徳の授業の一環として「自分の顔をタッチすると得意なことや苦手なことが飛び出してくる」といったプログラムを作成して、自分自身の内面を見つめる活動を行ったりと、アイデアを工夫して様々な実践に活用することができました。

 また、ビジュアルデザインにも優れているため、二次元の動く模様を作成してプロジェクションマッピングを行うなど、様々な実践事例が紹介されています。

 他のプログラミングアプリと比べるとかなり直感的に操作できる上に、プログラムのやり直し等も比較的容易に行うことができますので、特別支援学級に限らず低学年でのプログラミング学習の導入にもおすすめできるアプリです。

〇授業支援ツール「ロイロノート・スクール」

 「ロイロノート・スクール」(株式会社LoiLo)は、担任から送られたカードに答えを記入して送り返したり、児童の回答を共有したりといったクラウドベースでのやり取りが基本機能となります。

図2

 また、カードをつなぎ合わせてスライドを作成し、プレゼンテーションを行ったり、担任からのアンケートに答えたりと豊富な機能が用意されていますので、アイデア次第で活用の場面が広がります。
 学習発表会では、まちたんけんで発見したことをスライドに作成して児童一人ひとりが発表を行いました。スライド作成の際には、写真や動画を取り込んだり、文字を書き込む際に音声入力を活用したりと児童が自ら工夫をする姿を見ることができました。
 一つ一つの機能を詳しく担任が教えるということではなく、ある程度子供たちが自由に操作する時間を確保してあげることで、新しい機能を発見したり、自分にあった操作方法を工夫したりといった活動につながっていったと感じています。

〇豊富なコンテンツが満載「NHK for School」

 iPadには「NHK for School」(日本放送協会)の公式アプリが用意されています。

図3

『NHK for School公式アプリ』より

「おすすめ」の項目を選択すると、児童の学年や興味に応じた番組が一覧で表示されたり、先生が作った「プレイリスト」を読み込んだりするなど、様々な機能があります。

 アプリで番組を視聴すると端末ごとに視聴履歴が記録され、「みたよ」マークが表示されるので、どの番組を視聴したかも分かりやすくなっています。

 NHKが作成しているということで、安心して活用できる魅力的な番組コンテンツがたくさん用意されていることも大きな特徴です。例えば、「ストレッチマン・ゴールド」では特別支援学校や特別支援学級の児童が生活の中で必要なスキルを、番組を視聴しながら楽しく学べる内容になっています。

 アプリではなくWebブラウザから「先生モード」で閲覧すると、授業で使えるワークシートや指導案などをダウンロードすることができたり、「番組で伝えたい指導のポイント」を番組制作委員の先生たちが詳しく説明してくれていたりするので、指導する側のスキルアップにもつながります。

 また、GIGAスクール時代に向けて、情報モラルやメディアリテラシーについて学んでいくためにも「メディアタイムズ」「@media」「スマホ・リアル・ストーリー」などの番組は、ぜひ一度視聴しておくことをお勧めします。

アプリ活用における、支援のポイント


〇視覚的・聴覚的な分かりやすさ 
 今回紹介したアプリの共通点として、「視覚的に理解がしやすい」「直感的に操作しやすい」という点があります。文字を読んだり、文章を理解したりすることが苦手な子も、視覚的あるいは音声の情報を元にどんどんと操作にチャレンジし、習熟していくことが可能です。
 自分たちが最初に教室でViscuitを使用した際には、大きく拡大印刷した各種アイコンを黒板に貼って操作方法を説明していましたが、最近はアプリ内に解説機能(チュートリアル)が埋め込まれていることも増えてきました。

〇安心して失敗できる環境作り 
 Viscuitやロイロノート・スクールは、「やり直し」がとても簡単です。「やり直し」が簡単ということは、「安心して失敗することができる」ということにつながります。安心して失敗できる環境があることは、見通しを持つことが苦手な児童や、失敗に対して抵抗感の強い子にとってはこの上ない支援となります。

〇端末を活用できる時間の確保  
 子供たちが自分達で色々な機能を見つけたり、教えあっていったりできるようになれば加速度的にスキルが向上していきます。逆に、指定された時間で指示された操作だけを行っていては新しい発見や発想は生まれません。スキル向上のためにも、ある程度子供たちが機器やアプリに触れる時間を確保してあげることが大切です。

おわりに


 今回、特別支援学級におけるアプリ活用の実践事例を中心に説明をさせていただきました。もちろん、学級や児童の実態に応じて支援のあり方は違いますので、今回の記事が各学校や学級での実践に少しでもお役に立てれば幸いです。

 GIGAスクール構想の「GIGA」は、Global and Innovation Gateway for Allという言葉の頭文字です。文科省のリーフレットでは「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、子供たち一人一人に公正に個別最適化され、資質・能力を一層確実に育成できる教育ICT環境の実現へ」と説明されています。
 最後の「A」には、誰一人取り残さない、全ての児童・生徒に向けてという意味が込められているということを最後にお伝えして、結びの言葉とさせていただきたいと思います。

東森 清仁ひがしもり きよひと

神奈川県横浜市立仏向小学校 主幹教諭・教務主任・特別支援学級主任。
【研究組織】全国放送教育研究会連盟 全国ブロック担当部長、横浜市小学校情報教育研究会 総務部長、横浜市GIGAスクールブロジェクト推進委員。
【その他】NHKストレッチマン・ゴールド番組委員、NHK 教育放送企画検討会議、JSET教育の情報化SIG×NHKforSchool・ICT研修ファシリテーター3期生、BPO青少年委員会会議
Viscuitファシリテーター。
【実践発表・表彰等】全国大会実践発表・模擬授業発表、日本学校視聴覚教育連盟賞受賞
日本教育公務員弘済会優秀賞、他。

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