教育オピニオン
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今だからこそ「学校安全」を見直すとき
〜9月1日防災の日によせて〜
鳴門教育大学大学院特命教授阪根 健二
2021/9/1 掲載

1 学校安全とは


 学校安全といっても範囲は広く、不審者対策などの「生活安全」、通学や日常生活に欠かせない「交通安全」、地震や津波などに対応できる「災害安全」などがあります。それだけではなく、アレルギー対策やけがや病気などの「健康管理」や、心の問題である「メンタルヘルス」など多岐にわたっています。つまり、子どもの身体と心の守るために欠かせないものなのですが、あまりも多いため、教師だけでは対応できないという実態があります。
 そこで学校では、子どもたちが安全について必要な事柄を理解し、危険を避けて常に安全に行動したり、他の人や社会の安全のために貢献したりできる力を育成するための「安全教育」、そして、学校生活が安全に営まれるように環境整備を図る「安全管理」に力を入れています。さらに、この両者を円滑に進める「組織活動」の三つの活動を、家庭、地域社会や関係機関・団体等との連携を図りながら進めているのです。

2 コロナ禍と働き方改革の中で


 先生の仕事は「ブラック」だという声が聞かれますが、「教える」という本来の仕事以外に、あまりにも多くの職務があるからです。しかし、どんなに多忙な学校現場であっても、子どもの安全確保だけは避けて通れません。
 ところが、近年の水害など自然災害、新型コロナでの感染症拡大という情勢は、学校に大きな影響を与えてきました。そのため学校では各種の対策が行われてきましたが、安全確保のための訓練だけはそう簡単に中止できないのです。過去から「火災消防訓練」は実施されてきました。また、通学の安全のために「交通安全教室」は年度始めに必ず実施され、東日本大震災を契機に「防災訓練」が重視された上、津波避難も加わりました。今学校では、不審者対応訓練、引き渡し訓練、着衣水泳、ケータイ安全教室と枚挙に暇はありません。地域によっては、原子力防災訓練という聞き慣れない訓練もあり、こうなると、多忙に拍車がかかり、先生方からは悲鳴に近い声が聞こえてくるのです。そこに感染症対策を取り入れるわけですから、無理を重ねるという言葉は決して過言ではないのです。

3 どう対応すればいいのか


 そこで学校では、様々な工夫を重ねてきましたが、一番の工夫は、これまでの対応や対策の見直しです。それもエビデンスに基づいた合理化かもしれません。例えば、訓練の組み合わせも可能です。火災と地震、津波などの避難訓練を組み合わせたり、不審者対応訓練の後に引き渡し訓練を行ったりすることです。それ以上に、子どもにとって訓練の目的がわからず、単に実施したということに終わってしまうことの改善です。 
 ただ、コロナ禍の学校においては、訓練そのものが実施できないという実態があります。そこで活用したいのが、「KYT(危険予知訓練)」です。これは、イラストや写真を見て、そこにある危険を感じることにより、各自が安全行動を取るという手法であり,「中央労働災害防止協会」が提唱しているものです。企業などで採用されてきた手法ですが、以下の手順で実施します。
 1(現状把握)どんな危険がひそんでいるか
 2(本質追究)これが危険のポイントだ
 3(対策樹立)あなたならどうする
 4(目標設定)私たちはこうする
 避難の様子や危険箇所を写真などで提示し、疑似的に訓練を行うという形ですが、現在徳島市内の小学校で実証研究を行っています。これならば、直接訓練しなくても、交通安全指導や災害対応にも効果が発揮できるものと思われます。この場合、これまでの事故の発生状況などのエビデンスが必要であり、何を子どもたちに示すかがポイントになります。ここが教材づくりのキーになるでしょう。

図

「いつも安全ノート」(http://sakane.g2.xrea.com/mysite1/anzen.pdf)から
(鳴門教育大学教職大学院と徳島市八万小学校との共同開発)


4 学校安全から考えるコロナ対策


 学校安全で一番大切なことは、自分の命を守るという意識を向上させることです。例えばコロナ対策においては、若者といわれる年齢層が感染源になりやすく、特に大学生への指導は難しく、結局大学を閉鎖してきたという経緯があります。しかし、それでは大学教育を放棄することになるため、講義だけはオンライン等で対応してきましたが、学生の日常生活の在り方も考える必要に迫られました。ここでは、個々の学生の意識をどう変えるかをポイントにした事例を紹介しましょう。これは小中高校においても参考になるものです。
 本学(鳴門教育大学)では、コロナ感染対策のため、20年度当初は休講から始まりました。しかし、他学よりも早く授業を再開し、オンライン授業と対面授業の併用で乗り越えてきました。また、教育実習も何とか完遂できました。教員養成系大学のため、対面授業や実習は欠かせないため、どうすればよいかという模索の中で動いてきたのです。当然、リスクを伴う決断でしたが、そこには一定の確信がありました。
 そもそも、「リスク(risk)」とは、確率(probability)と事の重大さ(severity)の積であり、それを回避するための方策を考えることが必要なのですが、一番の方策は中止か延期ということです。しかし、そこで得られる教育効果としての「ベネフィット(benefit)」を放棄しなければいけません。いずれも確定的なものではなく、「確率」と、それが実現した場合に「得られるもの」の積として表現されるものであり、教育効果とリスクのバランスで考えることなのです。
 そこで問題になるのは、人のリスク認知という視点であり、自分は大丈夫という安易な行動への対応です。本学では、科学誌『ネイチャーに』掲載された研究リポート(9800万人の携帯電話データを使い、さまざまな場所における感染リスクをモデル化した研究:2020年11月10日)では、感染拡大を封じ込めるのに全面的なロックダウン(都市封鎖)よりも、マスク着用と社会的な距離の維持、客席の制限が、感染の制御に重要な役割を果たし得ることや、飲食の機会が「スーパースプレッダーエリア」だという結果を活用しました。こうしたエビデンスを学生らに示し、各自の行動に委ねましたが、これが一定の効果を発揮したと考えられるのです。

5 見直す機会に


 これまでの経験則や感情だけでなく、「安全」のためのポイントは何かを考え、「エビデンス」を示しながら見直すことが重要だと思われます。但し、「安心」という視点だけは、主観という感情があるだけに、ここだけは数値以上に「信頼」という側面があることは忘れてはいけません。現在の政府などの各種対策やマスコミ報道にあり方もこの視点が欠かせないと思うのですが、どうもそうなっていないように思われます。

阪根 健二さかね けんじ

鳴門教育大学大学院特命教授(名誉教授)
1954年神戸市生まれ。1979年東京学芸大学大学院教育研究科修士課程修了。香川県の中学校に勤務、香川県教育委員会義務教育課主任指導主事、中学校教頭を経て、2003年香川大学教育学部助教授。2008年鳴門教育大学大学院学校教育研究科准教授、2011年教授(地域連携センター所長)。2020年に現職。専門分野は、学校教育学(学校危機管理、防災教育、教職論、生徒指導)。著書に『生徒指導のリスクマネジメント』(学事出版)などがある。

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