教育オピニオン
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中1ギャップを防ぐ!中学校入学前の子どもとのかかわり方
親も教師も心がけたい「安心」と「自律」
筑波大学 准教授 外山 美樹
2021/3/1 掲載

心理学から見た「中1ギャップ」


 小学校高学年から中学校への移行期にあたる時期は、「青年期前期(思春期)」と呼ばれています。この時期には、第2次性徴と呼ばれる性的成熟を伴う急激な身体的変化が現れたり、内省的傾向、自我意識が高まるといった心理的な変化が現れたりします。そのため、この時期の子どもには、不安やいらだち、反抗などといった精神の動揺が顕著に見られます。
このような身体的、精神的に不安定な時期に、小学校から中学校への移行という大きな環境の変化が加わって、不登校やいじめ、意欲の低下など“中1ギャップ”と呼ばれる様々な問題が生じます。
 特に近年では、核家族化や少子化、高度情報化といった急激な社会変化の中、教育力が低下してきている家庭や地域社会、子どもたちの多様な実態に十分対応しきれない学校という背景も加わり、社会的スキルの定着が不十分なままに中学校に進学し、昔だったら乗り越えられたこの時期の移行(段差)が、自分の力では乗り越えられないほどの大きな段差となっていることが“中1ギャップ”となって顕在化しているのです。

学習面での変化


 “中1ギャップ”とは、小学校から中学校への移行に際して、新しい環境への変化にうまく適応できないことによって生じる様々な現象のことですが、この時期にはどのような環境の変化が見られるのでしょうか。ここでは、学習面での変化に着目してみます。

  • 授業形態が異なる(小学校では学級担任制、中学校では教科担任制)
  • 定期テスト(中間テスト、期末テスト)がある
  • 自分の学力が明確になる(テストの順位等)
  • 英語の授業が本格的に入ってくる
  • 授業の進度が速く、難易度が高くなる
  • 自律的に勉強する姿勢が求められる

中1ギャップ対策のために


 このように、小中接続期には学習面において様々な変化が見られますが、ここでは学習面での変化にうまく適応するためにどのような支援が必要なのかを紹介したいと思います。

1.関係性への欲求を充足させる

 “他者と親密な対人関係を築き、人とのつながりを感じたい”というのは、誰しも備え持つ欲求(「関係性への欲求」と呼ばれています)であり、この欲求が満たされることが心の健康を保つために欠かせないものになります。この欲求が満たされると、さまざまな活動に対する意欲ややる気が高まります。
 筆者は、中学校1、2年生を対象にして、「中1ギャップを感じずに学習面で伸びる子ども」と「中1ギャップを感じ学習面で伸び悩む子」の違いについて調査を行ったことがあります。その結果、中1ギャップを感じずに学習の変化に適応できた子どもは、親や先生に認められ、支えられていると感じていることがわかりました。
 子どもたちの関係性への欲求を充足させるために、親や教師は子どもに温かさと関心を示すことが重要になってきます。子どもたちの話を親身になって聴く、子どもたちが大事だと思っていること、活動などに積極的に関与する、子どもたちに関心を示し、子どもたちのニーズに合わせて反応することで、子どもたちは“先生や親は自分のことを見守ってくれている”と感じ、関係性への欲求が充足します。
 そして、子どもたちはそれを支えに新しい環境にも積極的に飛び込むことができるのです。

2.セルフチェック型の学習を身に着けるサポートを行う

 中学校では“自律的に学習すること”が要求されます。親も教師も“中学生になったのだから”と子どもに自律的、自主的に学習する姿勢を求めますが、急に手放しても子どもはどのように自律的に学習を進めていけばよいのかがわかりません。子どもが自律的に学習を進めていけるようになるためには、親や教師が重要な役目を担っているといえます。
 効果的に学習を進めていくためには、「計画(Plan)→実行(学習)(Do)→見直し(See)」というサイクルが必要になってきますが、このサイクルに従って学習するためには、自己調整力を身に着ける必要があります。自己調整力とは、“学習を効果的に進めるために、自分の状態、行動、周りの環境を自分で調整する力”のことですが、セルフチェック型の学習と言いかえることができます。
 こうしたセルフチェック型の学習が、中学校に入ってからの子どもの学力の伸びに大きく関係しているのですが、これは急に身に着くものではありません。小学校のうちに、“テストの点数や成績を子どもと一緒に確認する”“どこでつまずいているかを子どもと一緒に確認する”など、まずは大人(親や教師)が積極的にかかわることで、徐々に習慣化させていくことが大切になってきます。そして、習慣化させる過程においても、大人が先回りして道を整えてやるのではなく、子ども自らが進んでいこうとする姿勢を尊重する態度が自律的な学習にとって不可欠です。

 周りが上手にサポートしてあげることで、子どもたちが小学校から中学校への段差をスムーズに乗り越えられるといいですね!

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外山 美樹とやま みき

1973年生まれ。
筑波大学人間系准教授。博士(心理学)。
筑波大学大学院博士課程、鹿屋体育大学講師を経て現職。
主な専門領域は教育心理学。教室環境(友人関係、教師との関係、教室環境など)が子どものモチベーションに及ぼす影響について研究している。
著書『実力発揮メソッド-パフォーマンスの心理学』(講談社)、『行動を起こし、持続する力-モチベーションの心理学』(新曜社)。

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