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Withコロナの音楽授業の悩み
音楽教育駆け込み寺は、音楽の授業や部活動の指導などに悩む、主に小学校で音楽科を担当している全国の先生方からの相談に対応するために、私が6年前に立ち上げた組織です。これまでは、限られた地域で勉強会を開催してきましたが、この夏からはオンラインでの勉強会が主となり、全国の先生方と楽しく勉強の機会をもつことができるようになっています。現在、登録メンバーは500名を越えています。
さて、今春からのコロナ禍の中においても、多くの相談が寄せられました。特に歌唱活動に関する相談が多かったように思います。相談をくださった先生方のタイプを分類すると、大きくは次のA、Bの2つに分けられると感じました。
A先生…マスクをはずして歌ったり、思い切り声を出して歌ったりできないのであれば、歌唱の授業の目的は達成されません。歌の授業のやり方がわからず途方に暮れています。発表の機会もなくなってしまったので、一体何をやったら良いのでしょう?
B先生…技能面では十分に子供たちを伸ばすことはできませんが、マスクを付けたままでも日常会話程度の大きさの声で歌えれば、歌の学習の本来の目的である子供たちの資質・能力は十分に育てることができるので、対策をとりながら楽しく学習のできる具体的な題材の進め方を検討させてください。
A先生のようなタイプの先生は、これまで、「音楽は、できなければ楽しくない」と考えて、「できること」や「上手に歌えること」を目指して歌声づくりに熱心に取り組み、発表会に向けて大曲にチャレンジし、華やかに披露することが音楽教育の最終的な目標であると考えて授業をされてこられたように思います。技能に偏った音楽科の授業をしてきてしまった先生ですね。
幸いにも、音楽教育駆け込み寺に登録してくださっている先生方は、A先生のような方はわずかで、B先生のような方がほとんどでした。考え方の転換を求めるアドバイスは不要で、新しい教材の進め方や、新しい評価の進め方などの相談に楽しく対応させていただきました。範唱や楽譜から音楽を形づくっている要素や音楽の仕組みの効果的な働きを見つけて作り手の思いに迫ったり、作り手の思いを実現するためのアイデアを出し合い、それらを比較しながら歌って自分たちの表現をつくったりなど、大きな声で歌えなくても、これまでよりも深く楽曲とふれあい、充実した歌唱の授業となるような指導方法がたくさん見つかりました。
新学習指導要領からみる音楽の授業
折しも、今年は新しい学習指導要領実施の初年度です。今回の学習指導要領の歌唱の内容は、「歌唱表現についての知識や技能を得たり生かしたりしながら,曲の特徴にふさわしい表現を工夫し,どのように歌うかについて思いや意図をもつこと」という記述になっています。技能はもちろん必要ですが、技能を高めることが音楽科の最終目標ではないのです。
音楽の苦手な子供たちの中には、「音楽の学習が将来何の役に立つのだろう?」という疑問をもって授業を受けている子が多いかもしれません。
確かに、大人になってリコーダーを楽しんでいる人を子供たちはほとんど見たことがないでしょうから、そのように思うのも当然ですね。そのような子供たちには、できるできないにかかわらず一生懸命にリコーダーに取り組めば、「自分で美しい音色を生み出す力」、「みんなと同時に始めて同時の終わることのできる力」、「バランスをとって音色や音量を判断していく力」、「音楽を形づくっている要素や音楽の仕組みを豊かに感じ取って自ら操作する力」などの様々な力が身に付いていくことを説明します。
これらの資質・能力は、リコーダーをやらなくても人生のいろいろなところで役立ちます。「部分的にしかできなくても、できるところを美しい音色で、みんなとバランスをとって、音楽を形づくっている要素などの働きのよさを感じながら演奏できれば、とても価値のあることなんだ」と納得してもらえば、授業の必要性を理解して一生懸命に学習活動に取り組んでくれるようになります。
コロナ禍で見直す音楽の授業のあり方
今回のコロナ禍は、音楽科は技能教科であると思い込んで、ひたすら子供たちの演奏技能を高めることを主眼においてきた先生に、考え方の大きな転換が必要であることを突きつけました。「災いを転じて福となす」です。
この規制の多い不自由な期間が、音楽教育の明るい未来につながる貴重な期間となることを願ってやみません。