教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
新時代を生きる子どもたちに必要な情報モラル教育
鳥取県情報モラルエデュケーター今度 珠美
2020/7/1 掲載

 ICTの発展でできることが広がり、現在では小学生でもSNS等を利用することでインターネットという公共空間にデビューするようになりました。新型コロナウィルスの世界的流行で、オンライン学習の需要が急速に高まる中で、小中学生のインターネット空間は学びの場としても認知されてきました。インターネットにおけるパブリックとプライベートの境界が曖昧になりつつある現代、どのような資質と能力を子どもたちに学ばせる必要があるのでしょうか。

現代に求められる情報モラル教育

 情報モラル教育は、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校学習指導要領解説総則編で、「情報社会で適正な活動を行うための基になる考え方と態度」と定義されています。多くの学校では、インターネット利用において個人の危険回避、安全な利用を目的とし、悪い使い方を学び、ネット接続機器の利用時間等に制限を課すなどの指導、学習が行われてきました。
一方で、急速に進むオンライン学習では、ICTを活用し、児童生徒の創造活動を阻害しないことが求められています。そこにはこれまでの情報モラル教育との矛盾が生じています。これまで、ネット接続機器の長時間利用は悪いことと教えられてきた子どもや保護者は混乱するでしょう。
 ネット接続機器はもはや日常使いのツールです。その使い手である子どもたちがインターネットという公共にデビューし善き使い手になるためには、どのような学びが求められていくのでしょう。

欧米のデジタル・シティズンシップ教育

 欧米における日本の情報モラル教育に代わる概念は「デジタル・シティズンシップ教育」といわれています。デジタル・シティズンシップについては、国際工学教育学会International Society for Technology Education(ISTE)が「生徒は相互につながったデジタル世界における生活、学習、仕事の権利と責任、機会を理解し、安全で合法的倫理的な方法で行動し、模範となる」と定義しています。このデジタル・シティズンシップでは、学習者に対しては、「主体的、かつ積極的に安全で責任を持った行動を取る能力」を求めており、授業者に対しては、「実践を通じて合法的で倫理的な行動を示すこと、学習者中心の教育方法を示すこと、そしてグローバルな意識づけを展開し模範となること」と求めています。
 このデジタル・シティズンシップ教育には、新たな情報社会に必要な学びとして次の4点の要素が含まれています。

・学習者の知的創造を阻害することなくオンライン及びICT環境において安全かつ効果的で責任を持った行動ができるよう柔軟に構成されていること。
・ICTの利活用が前提であること。
・選択肢のメリットとデメリットを検討すること。(悪い特性や悪い結果を強調しない)
・人権と民主主義のための情報社会を構築する善き市民となるための学びであること。(個人の安全な利用のためだけに学ぶのではない)

 これらは、オンライン学習やGIGAスクール構想などを推進していく上で、非常に重要な要素であると考えます。これからの児童生徒は、自己管理できる能力、情報を活用、創造していく能力、そして善き情報社会を構築する市民となる資質を育まなければなりません。従来の消極的で個人的な情報モラル教育では、これらをカバーすることは難しいでしょう。
 そして、デジタル・シティズンシップが授業者に求めている「合法的で倫理的な行動を示す」「学習者中心の教育方法」「グローバルな意識づけ」の3点は、まさに今後の学びのあり方を示すものといえます。

「善き使い方」を身につける

 情報社会を生きる児童生徒が身につけるべきは「考え方と態度」ではなく「能力とスキル」です。意識すべきは「悪い使い方」ではなく「善き使い方」です。善き市民となるためには、インターネットという公共空間へ参加する意味を段階的に学び、他者を受け入れ対話できるスキルや人権意識を育み、公共におけるモラルを学ぶ必要があります。

 日常には、正論では解決できないジレンマがあり、コミュニティには異なる価値観、多様な文化的背景の人が集まります。これからの情報モラル教育は、「経験や習慣、技術で解決できないような場に直面したとき、互いの合意形成を図りながら新たなルール(規則)を作り実行できる能力を育成できる、柔軟で現実的な学びの構成を提案する」必要があるのではないでしょうか。まさに、それこそがパブリックな(公共の)モラル教育といえるのではないかと考えます。


参考文献
・International Society for Technology Education(ISTE)(2016年版)
・今度珠美,坂本旬,豊福晋平,芳賀高洋(2019)アメリカのデジタル・シティズンシップ教育教材の検討と日本における学習実践の可能性についての研究.日本教育工学会研究会論文集 JSET19-5.27-32

今度 珠美いまど たまみ

鳥取県情報モラルエデュケーター
日本デジタル・シティズンシップ教育研究会 研究員
鳥取大学大学院地域学研究科修了  修士(教育学)
「SNS擬似体験型アプリ情報モラル教材とりりんチャット2」など、情報モラルに関する教材の研究,開発を手掛け教材コンテストやコンクールにて賞を受賞。
学校を始め、子ども・先生・保護者向けに情報モラル教育に関する講演・研修を行っている。
著書に『スマホ世代の子どものための情報活用能力を育む情報モラルの授業2.0』(共著) 日本標準 2019 など。

コメントを投稿する

※コメント内ではHTMLのタグ等は使用できません。