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私は、小学校1年生の担任を今の勤務校で連続7年、他校での経験も合わせると15回やっています。(令和2年2月現在)いつの頃からか、他の先生方から「魔法使い」と言われるようになりました。1年生に魔法をかけるこつを少しお教えしましょう。
1 表情豊かに「すごい!」を伝える
初めて1年担任をすることになったとき、学年主任の先生が最初に教えてくださった、私の1年担任の礎となった教えです。「いい? 『わあ、すごい!』…1年生には、こんなんじゃ、だめよ。」と微笑むと、その先生は、次の瞬間大きく目を見開き、よろけながら、「ええっ! すごいっっっ!」と叫び、驚く私に、いたずらっぽく「これくらいしなきゃね。」とにっこりされました。この教えには、3つの大切な魔法のポイントが含まれています。
(1)「すごい」をたっぷり見つけて伝え、1年生の自信とやる気を引き出す。
(2)「うれしい」「大好き」などのプラスの感情を豊かに伝え、1年生の心を安定させ、信頼関係を築く。
(3)遊び心のある楽しい教室にし、1年生を学校好きにさせる。
秘訣は、本気で感動し、心から「すごい」と伝えることです。口先だけでは見抜かれます。1年生の「すごい」「きれい」「かっこいい」を見つけるのは難しいことですが、そこは、修行です。本気で見つけて、全力で伝えれば、子どもたちはうれしくてとろけそうになります。「ええっ、あなたたち、本当に1年生? 6年生じゃないの?」とか、教室をちょっとのぞいて「あ、失礼しました。」と去り、首をかしげながら戻ってきて「あんまりかっこいいから、2年生の教室に入ったかと思っちゃった。」などと言うのも、大喜びです。「すごい!」は、できるだけ記録し、できれば保護者にも伝えると、保護者の安心感も増します。
2 「優しくて厳しい」を目指す
入学したての1年生はとても緊張しています。中には興奮してふざける子もいますが、それも、新しい環境への不安で冷静ではいられないのかもしれません。びしっとさせたいところですが、ここで注意が必要です。大騒ぎしている子を何とかしようと怒鳴っていると、ただでさえ緊張と不安でつぶれそうな繊細な子たちが、恐怖のあまり頭痛や腹痛を訴える、足がすくんで学校に行けなくなる、毎朝号泣してお母さんから離れられなくなる、といった事態に陥る危険性が高まります。でも、ルールや学習規律を定着させなければ授業は成立しませんし、楽しい学校生活もあり得ません。難しいところです。
解決策は、「優しくて厳しい」担任になることです。「優しい」と「甘い」は違います。「厳しい」と「怖い」も違います。「優しい」と「厳しい」は実は両立できます。「厳しい」には「うるさい!」「黙れ!」「なんでそんなことをするの!」などの怒鳴り声は必要ありません。それらは「怖い」なのです。「厳しい」に必要なのは、ルールとその理由を教えたら、きっぱりと譲らない姿勢を粘り強く見せることです。「残念だけど、やり直します。なぜか、わかりますか? そう。しゃべると、他の教室の人たちが困るんでしたよね。よく聞いていましたね。」と穏やかに言うだけでいいのです。「優しくて甘い」では無法地帯の学級に、「怖くて厳しい」では萎縮した学級になってしまいます。怖い顔をして怒りながら、結局なし崩しにしてしまう「怖くて甘い」だと、学級は荒れます。
3 「失敗は指示のせい 成功は子どものお手柄」と心得る
入学したての1年生には、愕然とするほど言葉が伝わりません。初めての1年担任で、掃除のやり方を教えようとしたときのことです。「机を後ろに動かして。」と指示しておいて、ちょっと黒板の方を見て、振り向いたときの光景が衝撃的でした。机をななめに運んでいる子、ぼうっとたたずんでいる子を追い越して先に運んでいる子、もうぐっちゃぐちゃです。「ここまでわからないのか…。」と、呆然としました。
まず「わからない」ということを前提に、伝える工夫を考えましょう。絵や写真を使う、言葉を選び抜く、少しずつ伝えるなど。起きそうな失敗を想定して、防ぐ手立てを考えましょう。うまくいかなかったら「あ、伝え方を失敗した。」と切り替えます。でも、うまくいったら、それは子どもたちの手柄にして「すごい!」と伝えるのです。よく考えずに伝えて、子どもたちが失敗してから叱るのはお互い不幸です。事前に手間を掛けて丁寧に伝え、うまくいっているうちにすかさず「すごい!」と笑顔で伝える、それが極意です。