教育オピニオン
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第3ステージのスタートカリキュラムを実現しよう!
東京都大田区立松仙小学校松村 英治
2020/2/15 掲載

 「スタートカリキュラムを編成・実施していますか?」
 このように研修会などで先生方に尋ねると、予想以上に肯定的な回答が多く返ってきます。しかし、実際にどのようなことを行っているのかを聞いてみると、疑問を感じてしまうような取組も少なくありません。これは、「スタートカリキュラム」という言葉の捉えが学校や教員によって様々であることを示しています。そこで本稿では、今求められるスタートカリキュラムの考え方を紹介し、これから何をしていけばよいかを概説します。
 さて、4月から新しい学習指導要領が全面実施となります。「小学校学習指導要領 第1章 総則」に新設された「第2の4 学校段階等間の接続」は、スタートカリキュラムの義務化を意味しており、全国の全ての小学校で編成・実施することが求められます。私の勤務する自治体でも、令和2年度の教育課程の補助資料としてスタートカリキュラムを提出することが必須となりました。

第3ステージのスタートカリキュラムとは?


 ここ10年ほどで、スタートカリキュラムは急激な進化を遂げてきました。
 第1ステージは、平成20年改訂の学習指導要領によるものです。この頃は「小1プロブレム」が問題となっており、その対応・対策としてのスタートカリキュラムは、学校生活への適応が目的でした。
 第2ステージは、国立教育政策研究所から「スタートカリキュラム スタートセット(スタートブック・ミニブック)」が出たことが起爆剤となりました。実は、第1ステージの頃から、小1プロブレムへの対応・対策、学校生活への適応という考え方を超えて、より子供たちの目線に立った様々な取組が行われており、それが全国に広まるきっかけとなったのです。「ゼロからのスタートじゃない!」を合言葉に、児童が安心して自己発揮できるような、幼児期の活動を取り入れるなどの工夫がなされました。
 つまり、学校という枠組みに児童をうまく慣れさせようとする取組や児童が安心して生き生きと過ごすことができるための取組で留まっていると、「スタートカリキュラムを編成・実施した」とは言えないということです。「スタートカリキュラム」という言葉の意味合いが変わってきているので、それを踏まえて取り組む必要があります。
 今求められるスタートカリキュラムは、第3ステージ。これは、平成29年改訂の学習指導要領によるものです。「第1章 総則 第2の4 学校段階等間の接続(1)」によれば、「特に、小学校入学当初においては、幼児期において自発的な活動としての遊びを通して育まれてきたことが、各教科等における学習に円滑に接続されるよう、生活科を中心に、合科的・関連的な指導や弾力的な時間割の設定など、指導の工夫や指導計画の作成を行うこと」とあり、これがスタートカリキュラムを指しています。ここで、2つの行うべきことを明確に述べています。1つは、合科的・関連的な指導もう1つが、弾力的な時間の設定です。この2つを行うことで、「スタートカリキュラムを編成・実施した」と言えるようになるのです。

単元配列表と週案を作成する


 合科的・関連的な指導を形にしたものが、単元配列表です。これは、スタートカリキュラムの期間について、全教科等の単元を一覧にし、そのつながりを可視化したものです。

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 例で示したのは、今年度の本校のスタートカリキュラムにおける単元配列表です。合科的な指導を二重線、関連的な指導を矢印(始点で学習したことを終点で生かす)で示しています。線をやたらに引き過ぎず、精選して引いたものを確実に実施することが求められます。
 弾力的な時間割の設定を形にしたものが、週案です。小学校学習指導要領解説生活編によれば、@朝の会から1時間目を連続した時間として設定、A10分から15分程度の短い時間を活用して時間割を構成、B2時間続きの学習活動を位置付け、の3つが例示されています。これらの工夫に加え、3〜4つ程度の「○○タイム」を設定し、生活リズムや一日の過ごし方に配慮しながら週案を作成してみましょう。

園での経験を引き出して生かす


 このように、単元配列表と週案の2つが、スタートカリキュラムで編成すべき「形」です。形があることによって、1年生の全ての教室で一定以上の質の実践がなされることが期待できます。しかし、形はあっても教室での実践が変わらなければ、児童のためにはなりません。そこで大切にしたいのが、スタートカリキュラムの「魂」です。
 私の考えるスタートカリキュラムの魂とは、園での経験を大事にするということです。園では、好きな遊びに夢中になる中でたっぷりと学ぶとともに、5歳児として、園全体の仕事を担ったり、年下のクラスの世話をしたりするなどしてきています。そこで経験してきたことが、入学後も生かせるという感覚を醸成することで、児童は安心して学びに向かっていけるはずです。ことあるごとに「園ではどうしていたの?」と問いかけ、園での経験を引き出し、それを基にして学びを創り出したり、クラスのルールを決めたりしていきましょう。

「スタート」とは、1年生ではなく義務教育のスタート!


 スタートカリキュラムは、全校体制で取り組むことが大切です。スタートカリキュラムの「スタート」とは、1年生のスタートではなく、9年間の義務教育のスタートを意味しています。「学ぶって、どういうこと?」、「生活を創るって、どういうこと?」…このようなことを確かな実感を通して体得していくのです。
 したがって、1年生の担任に任せっきりにするのではなく、校長先生のリーダーシップの下、全教職員で1年生の育ちと学びを見守っていくことが欠かせません。4月からの実施に向けて、スタートカリキュラムの編成を張り切ってスタートしましょう!

松村 英治まつむら えいじ

東京都大田区立松仙小学校教諭。東京大学大学院教育学研究科にて、秋田喜代美先生に師事、修士(教育学)。国立教育政策研究所「スタートカリキュラム実践事例集の作成に関する協力者会議(H27・29)」、「評価規準,評価方法等の工夫改善に関する調査研究(R1生活)」委員。東京都教育委員会研究開発委員(R1就学前教育)。

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