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2020年、未来を変える教育を!実践校に学ぶSDGsを取り入れた授業
上尾市立大石中学校教諭(前 上尾市立東中学校教諭)松倉 紗野香
2020/2/1 掲載

 ここ最近、街中やニュースで「SDGs」について見聞きすることが増えてきた。
 SDGsについて簡単に解説を行い、実際にSDGsを学校教育の中に取り入れ、「SDGsの達成に向けた学びづくり」を展開した事例を紹介する。

1 SDGs(Sustainable Development Goals)とは?
 2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、「誰一人取り残さない」という強力なメッセージとともに、世界の国々が手を取り合って解決を目指す17のゴールと169のターゲットが示された。この17のゴールがSDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)である。(図1参照)

図1

図1 SDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)

 「国連が出した目標」と説明されると私たちの生活との距離を感じてしまうこともあるが、SDGsの内容を見ると、私たちの生活に関わることがたくさん書かれている。
 例えば、ゴール2の「飢餓をゼロに」では、「食料」をめぐる問題が示されている。食品ロスや農業の継続については身近な問題なのではないだろうか。ゴール12の「つくる責任つかう責任」では、プラスチック製品をめぐる問題について結びつけて考えることができる。このように、今日の社会において私たちは、SDGsで示された内容を「自分ごと」として捉え、解決を目指すことが求められている。

2 SDGsを取り入れた授業実践
 こうした「課題」の解決に向けて「教育」はどのように関わっていくことができるのだろうか。
 文部科学省から2015年度〜2018年度まで研究開発学校の指定を受け、「グローバルシティズンシップ科」(以下、GCE科)を設立し、SDGsを学習の柱とした実践を持つ埼玉県上尾市立東中学校の事例を参考にしたい。同校では、総合的な学習の時間をGCE科として、全校を挙げて本研究を推進してきた。つまり、教職員全員がGCE科を担当し、学年ごとのカリキュラムを企画・運営してきたのだ。(表1参照)

表

表1 2018年度上尾市立東中学校グローバルシティズンシップ科カリキュラム

 同校のGCE科では「SDGsの達成に向けた学び」を展開し、単にSDGsについて知ることや調べるだけで終わらないことを目指してきた。そのため、GCE科がはじまる中学1年生では、最初からSDGsの説明をしたり、ロゴを見せたりするのではなく、ワークショップ体験をとおして、世界が手を取り合って課題解決に臨む必要性を感じた上でSDGsの存在を示すようにしている。
 同校の学びの特徴は「本物」を扱う学びが展開されることである。
 例えば2年生では、校外学習の機会にグループテーマごとに関連する企業やNGO等を訪問し、実際に社会課題の解決に向けて取り組む方々と出会う機会を設けている。グループテーマの決定や訪問先の決定には、多くの時間がかかるが、その中で、生徒たちは社会の中で何が問題になっているのか、この先、こうした問題とどのように関わっていくのか、を考えるようになる。
 3年生の修学旅行では、訪問先の京都・奈良でSDGsと関連する写真を撮ってフォトレポートの作成を行う。実際に訪れ、自分の目で見た場所から「持続可能性」について考える機会をつくり、その後の「まちづくり学習」へとつなげている。

 こうした学習をとおして、生徒たちだけでなく教員も「本物」に触れ、日々の自分たちの学びや暮らしが社会課題とどのようにつながっているのかを実感することができる。
 学習の中では、社会の中で起きている「矛盾」に気づき、行き詰まりを感じる生徒や、簡単に答えの出ない問いに対して、途方もない気持ちになる生徒も多い。しかし「現実社会」がそうであるように、生徒たちも「どうにかしたい」「より良い社会をつくりたい」という気持ちを持っている。
 生徒たちの「思い」に私たち教員は、どのように関わっていくことが求められるのだろうか。同校では、GCE科の学習を通して、教員も共に考え、共に悩みながら進めることで学習をつくってきた。教員はファシリテーターとして、またはコーディネーターとして生徒の学びを一番近くで見守ってきた。学習の中では「生徒たちから学ぶことも多かった」と同校の教員は述べている。
 GCE科をとおして変化したのは、生徒だけでなくむしろ教員の姿勢だったのかもしれない。
 同校では、校内研修の場で、GCE科だけではなく全教科をとおして「それぞれの教科はSDGsの達成のために(社会課題の解決のために)どのように貢献できるのか?」を問い、SDGsの達成に向けた学習をつくることを目指してきた。

 全国各地の学校で「SDGs」を題材とした学習が展開され始めている。
 それらの学習は、「SDGs」を知ることが目的の学習になってはないだろうか?
 SDGsが示されている2030アジェンダの名称は「Transforming our world:the2030 Agenda for Sustainable Development」である。ここで、私たちが求められているのはtransformation(変容・変革)である。持続可能な社会の実現に向けて、私たち教員は、これまでの教育をどのように変容させていくのか、が問われているのではないだろうか。

松倉 紗野香まつくら さやか

上智大学大学院総合人間科学研究科 教育学専攻博士前期課程所属
埼玉県上尾市立大石中学校教諭(英語科)
認定NPO法人開発教育協会(DEAR)理事
研究開発学校である上尾東中学校にて研究主任として、新教科の教材開発、評価研究、教員研修の企画・運営を担当。現在は、大学院にて教育学を専攻すると同時に、グローバルシティズンシップ推進に伴う国際会議への出席やワークショップファシリテーターとして活動している。
共著に『SDGsとまちづくり』(学文社)、『SDGsカリキュラムの創造』(学文社)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(開発教育協会)がある。

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