教育オピニオン
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新学習指導要領で求められる最新キャリア教育
筑波大学人間系教授藤田 晃之
2020/1/15 掲載

今日求められるキャリア教育とは


 これまで、学習指導要領は「総則」から書き起こされることが通例でした。けれども、新しい学習指導要領の冒頭には「前文」が掲げられています。「前文」には、学校教育の理念や目的、学習指導要領が果たすべき役割などの重要事項が示されているのですが、今回は、その結びの部分に注目しましょう。ここでは、一例として、高等学校学習指導要領「前文」から引用します。

 幼児期の教育及び義務教育の基礎の上に、高等学校卒業以降の教育や職業、生涯にわたる学習とのつながりを見通しながら、生徒の学習の在り方を展望していくために広く活用されるものとなることを期待して、ここに高等学校学習指導要領を定める。

 この指摘が明示するように、新学習指導要領に基づく学校教育では、一人一人の児童生徒が、これまでの学びとこれからの学びや職業等とのつながりを見通しながら学習の在り方を展望できるようにすることが強く求められています。
 新学習指導要領に基づくキャリア教育の在り方を理解するためには、この点を視野に収めながら、「総則」がキャリア教育の実践について次のように定めていることを確認する必要があります。

 児童/生徒が、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること。

※小学校「総則」第4 児童の発達の支援、1 児童の発達を支える指導の充実(3)

※中学校「総則」第4 生徒の発達の支援、1 生徒の発達を支える指導の充実(3)

※高等学校「総則」第5款 生徒の発達の支援 1 生徒の発達を支える指導の充実(3)

 ここで明示されるように、「児童生徒が学ぶことと自己の将来とのつながりを見通」すことができるようにすることはキャリア教育の重要な役割です。新しい学習指導要領のねらいを中核的に具現化する教育活動として、キャリア教育が位置づけられていると言っても過言ではないでしょう。同時に、「総則」におけるこの規定が、各学校に次の2点を求めていることも忘れてはなりません。

●社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力(=「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」によって構成される「基礎的・汎用的能力」)を身に付けていくことができるようにすること。
●特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること。

特別活動を「要(かなめ)」とするキャリア教育の在り方とは


 そして、特別活動がキャリア教育の「要」としての役割を果たせるよう、小学校・中学校・高等学校に共通して新たに設けられたのが、学級活動・ホームルーム活動「(3)一人一人のキャリア形成と自己実現」です。この「(3)」については、次のような取扱いが全ての学校に求められています。

 学校、家庭及び地域における学習や生活の見通しを立て、学んだことを振り返りながら、新たな学習や生活への意欲につなげたり、将来の生き方(小・中)/将来の在り方生き方(高)を考えたりする活動を行うこと。その際、児童/生徒が活動を記録し蓄積する教材等を活用すること。

※小学校「特別活動」

 第2 各活動・学校行事の目標及び内容〔学級活動〕・3 内容の取扱い(2)

※中学校「特別活動」

 第2 各活動・学校行事の目標及び内容〔学級活動〕・3 内容の取扱い(2)

※高等学校「特別活動」

 第2 各活動・学校行事の目標及び内容〔ホームルーム活動〕・3 内容の取扱い(2)

 つまり、学級活動・ホームルームの「(3)」には、各教科等を通した学校での学びに限定せず、家庭や地域での体験等を通した学びを含めて振り返りつつ、それらを今後の学びや生活につなげ、将来を見通す活動が期待されているのです。学級活動・ホームルーム活動の「(3)」が、キャリア教育の「要」としての役割を果たすためには、各教科等をはじめとする教育活動全体を通した計画的・体系的なキャリア教育実践がなされていることが前提となることは言うまでもありません。

図1

※扇子のイラストは、フリー素材提供サイト https://event-pre.com/archives/995 からダウンロードしました。

「キャリア・パスポート」を活用しよう


 さらに、上の引用で指摘される「児童/生徒が活動を記録し蓄積する教材」については、2019年3月29日に文部科学省が次のような定義を示し、全国的な共通名称として「キャリア・パスポート」と呼ぶ方針を明らかにしました。来年度(2020年4月)から、国内の全ての学校において「キャリア・パスポート」の実践が開始されることが確定しています。

 「キャリア・パスポート」とは、児童生徒が、小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる諸活動について、特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として、各教科等と往還し、自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオのことである。

※文部科学省初等中等教育局児童生徒課「『キャリア・パスポート』例示資料等について」

(2019年3月29日 事務連絡) 別添「『キャリア・パスポート』の様式例と指導上の留意事項」

 ここで示された「キャリア・パスポート」を、全く新しい教材の導入であると理解することは誤りです。児童生徒が記録する日常のワークシートや日記、手帳や作文等に対しては、これまで大多数の学校で先生方が丁寧にコメントを記されてきました。これらは、「キャリア・パスポート」を作成する上での貴重な基礎資料となります。各学期や学年末の振り返りシートなど、書式の一部改変等を加えるだけで「キャリア・パスポート」に収録可能となるものもあるでしょうし、各種の観察・体験等の記録や作文などは、学期・学年末のシート作成の際の参照資料として活用できるはずです。
 この4月から、各学校では「キャリア・パスポート」を活用したキャリア教育が本格始動されます。それぞれの学校における実践上の工夫が、各学校のウェブサイトや各種の研究会等の機会に発信・発表され、相互に学び合い高め合う場となることを願っています。

藤田 晃之ふじた てるゆき

1963年茨城県生まれ。1993年筑波大学院博士課程教育学研究科単位取得退学。
中央学院大学商学部助教授、筑波大学教育学系助教授、デンマーク教育大学院(現:オーフス大学大学院教育研究科)客員研究員、筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科准教授、文学科学省 国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター総括研究官(同省 初等中等教育局 児童生徒課 生徒指導調査官(キャリア教育担当)及び 同局教育課程教科調査官(特別活動担当)併任)等を経て、2013年より筑波大学人間系(教育学域)教授。博士(教育学、1995年筑波大学)。
近年の単著:『キャリア教育フォービギナーズ―「お花畑系キャリア教育」は言われるほど多いか?』実業之日本社2019
ウェブサイト:筑波大学キャリア教育学研究室

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