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小学生から取り組める“主権者教育”!アニメ動画を使った選挙体験
弘前大学教育学部専任講師蒔田 純
2019/10/15 掲載

1.小学生からの“主権者教育”


 2015年の公職選挙法改正で選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられて以降、子ども・若者に政治との関わり方を教える“主権者教育”が浸透しつつあります。文部科学省の調査では、2015年時点で、全国の高校の94%が何らかの主権者教育を行ったと回答するまでになっています。
 一方で、現時点で主権者教育が行われる場は高校が中心です。例えば2015年度における主権者教育の出前授業は、高校では実施校数1,652校、受講者数453,834人であったのに対し、中学校では335校、65,400人、小学校では575校、41,603人でした。これを踏まえると、中学校、更には小学校では、まだまだ拡大の余地があると言えます。
 高校生になっていきなり「政治は重要だ、責任もって政治的判断をせよ」と言われても、大半はその準備ができていないのが現状でしょう。これにより、主権者教育を行ったとしても、結局、教えられるがままの受け身の政治的態度が身に付いてしまうことにもつながりかねません。やはり、主権者教育は自らの意思と判断が確立する小学生の段階から行うことが望ましいでしょう。幼いうちから児童に分かりやすく政治を伝え、児童自身が自らの判断を為す訓練をさせてこそ、民主主義の裾野も広がっていくのだと考えられます。

2.アニメ動画を用いた選挙体験


 小学生に政治的内容を教える際、最も重視されるべき要素の一つは「分かりやすさ」でしょう。筆者は、これを踏まえ、選挙をテーマとしたアニメ動画(タイトル:「ポリポリ村のみんしゅしゅぎ」)を作成し、それを用いた出前授業を小学校で始めました。このアニメ動画は村長選挙が舞台であり、途中、二人の候補者に対して聴衆である児童が実際に投票を行って、その結果によってその後のストーリーが変化します。このような模擬投票的な要素を組み込むことによって、子供たちはアニメの中で選挙体験をし、「物事はどのように決めるべきか」「なぜ選挙に参加しなければならないか」等を学ぶことになります。

■アニメ動画「ポリポリ村のみんしゅしゅぎ」概要
 ポリポリ村では川に橋を架けたいという村民の声があるが、予算が限られており、橋をつくると毎年行っているポリポリ祭りを開催できなくなる。そこで、橋建設派の代表(キャンディさん)とお祭り実施派の代表(デイトさん)が選挙に出て、村民の投票で決めることに。(⇒児童が議論した上で投票)
 村の男(アブどん)は、自分には関係ない、と棄権。(⇒児童の票を開票)
・【キャンディさん勝利の場合】アブどんは畑が豊作で、果物をポリポリ祭りで売ろうとするが、今年はお祭りがなくなったことを知って怒り出す。選挙管理委員のボートさんは、参加しなかった者が後から文句を言っても無駄だと冷静に諭す。反省したアブどんは4年後の村長選挙への立候補を宣言する。
・【デイトさん勝利の場合】アブどんは祖母が植えたリンゴの木を世話していたが、足を怪我して木まで行けなくなる。なぜ村には木まですぐに行ける道がないのだと怒り出すが、ボートさんは、参加したかった者が後から文句を言っても無駄だと諭す。反省したアブどんは、次の村長選挙への立候補を宣言する。

図1

キャンディさん(左)とデイトさん(右)・アブどん

3.子供たちの反応、出前授業の効果


 この「ポリポリ村のみんしゅしゅぎ」を用いた出前授業は筆者の居住地である青森県弘前市内の小学校を中心に実施しており、今後、全国に広めていきたいと思っています。授業の前後では児童に対して簡単なアンケートを行い(事前・事後で同じ内容)、授業によって児童の意識がどのように変化したのか理解することを目指しています(質問項目は表1を参照)。また事後アンケートでは、「(キャンディさん・デイトさんのどちらかに)投票した理由」、「アブどんが投票しなかったことをどう思ったか」についても尋ね、投票の判断材料や棄権についての考え方も把握できればと考えています。全体の分析はこれから行いますが、ここでは、一つの小学校(弘前大学教育学部附属小学校)について簡単に見てみます。対象学年は3・4年生(複式学級)、人数は16名です。
 表1が授業の前後におけるアンケート結果を示したものです。Q1については、事前でも相当程度の児童が肯定的な回答をしていましたが、事後では更に伸び、8割超が「そう思う」と回答しています。またQ2については、事前では一人に過ぎなかった「そう思う」という回答が、事後では11人へと大きな伸びを見せています。これら2問については、概ね、期待したような授業による効果が表れていると見ることができます。これに対してQ3では、事前に比して事後はむしろ「そう思う」と回答した児童は減っており、「どちらかと言うとそう思う」と併せて見ても、事前・事後で横ばいとなっています。他の学校でもこれと同様の結果が出ており、話し合いとそれに続く投票によって全員で意思決定を行うことの意義は理解できたとしても、それが、自ら代表となって皆を引っ張っていくという、更に積極的な態度には容易にはつながらないことが確認できると言えるでしょう。

表

表1 アンケート結果(授業前・後:弘前大学付属小)

図2

授業の様子

 事後アンケートにおける「投票した理由」では、キャンディさん側は「お祭を1年我慢すれば皆の生活が良くなるから」、デイトさん側は「今ある道を使えば橋はなくてもよいが、お祭は昔から続いてきたものだから」など、両者を比較しつつ結論を導くという思考プロセスがとられていることを伺わせる回答が多く、アニメ動画によって問題の論点と考え方が正しく児童に伝わっていると理解してよいでしょう。

4.おわりに


 このアニメ動画の教育的な効果をより詳細に丁寧に見ていくには、更に多くの事例を積み重ねる必要があり、今後もこの出前授業を全国の小学校で行っていく予定です。全国どこでもうかがいたいと思っていますので、関係者(小学校の他、子供向けイベントでも可)の皆様でご関心のある方は、私のメールアドレス(jun.makita@hirosaki-u.ac.jp)までご連絡ください。

蒔田 純まきた じゅん

1977年生まれ。政策研究大学院大学博士課程修了。博士(政策研究)。
衆議院議員政策担当秘書、総務大臣秘書官、経済団体職員等を経て、2018年4月より現職。
著書:『政治をいかに教えるかー知識と行動をつなぐ主権者教育ー』弘前大学出版会、2019年 など。
Mail:jun.makita@hirosaki-u.ac.jp

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