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行事・部活動で使いたい!子どものやる気に火をつける「ペップトーク」3選
日本ペップトーク普及協会 講演・研修講師三森 啓文
2019/10/1 掲載

1 ペップトークとは…
 皆さんは、ペップトークという言葉を聞いたことがありますか? 講演・研修で各地を回っていますが、多くの会場で知っている人が、1割以下が現状です。
 ペップトークは、「目の前の大切な人を、ポジティブで、分かりやすい言葉で、その気にさせる、激励のショートスピーチ」です。「pep」は英語で、元気・活気・活力という意味、つまり、「元気・活力を与える言葉」と言えます。本来、アメリカのプロスポーツ界で、試合の直前に、監督やコーチが選手を激励するために磨き上げられたショートスピーチです。目の前の大切な人という意味では、身近な家族、児童・生徒、選手、同僚・部下も同じです。大きな特徴は、前向きな言葉がけであるということです。

2 ペップトークが求められる背景
 私が関わっている陸上クラブの中学生、159名に「どんな時に、ヤル気をなくしますか」という質問をしました。上位3つは、

(1)頑張ったのに、否定された時
(2)頑張ったのに、結果が出ない時
(3)怒られた時

となりました。このことから、この3つは『認められない』ことによるものだと言えます。
 『認』という文字を分解してみると、「言葉が、刃となって、心に突き刺さる」と見ることもできますね。心理学の世界では、「自分のことは認めてほしいが、他人は認めたくない」という人間の心理が働くことがある」と言われます。
 現職の時に、問題行動があった児童・生徒を思い出してみても、家族や周りにいる人、そして教員に…『認められたい』という思いが強かったような気がします。
 ペップトークは、この『認める』部分を、最初にもってきて、相手理解ができるトーク術です。ペップトークが広がることで、家庭・学校・地域の人間関係の円滑化がはかられるのではないでしょうか。

3 行事・部活動で使える「ペップトーク」3選
●部活動(新人戦)の試合に向けてのペップトーク

場面

 夏の大会で総合優勝をしていることがプレッシャーになり、やや不安な気持ちになっている2年生。優勝を守りたいが守れるかどうか…。部員全員を集めて。

こんな時のペップトーク

STEP1(事実の受け入れ)
 あと1週間で新人戦だな。キャプテンから聞いたが、2年生の話し合いで、やや不安を感じているんだって? 先輩が去り、残った君たちが中心の初めての大会だもんな。
STEP2(とらえかた変換)
 夏の優勝がプレッシャーになっているということは、それだけ君たちが、がんばる気持ちが強いってことだよな。それは本気の力となってくるよ。
STEP3(してほしい変換)
 夏休みから今日にかけて流した汗は、先生の目から見ても本物だったぞ。最後のひと踏ん張りは、どの学校にも負けない。選手・応援が一つになって目標に向かっている姿を見せよう。
STEP4(背中のひと押し)
 君たちの本気を見せてやろうじゃないか。本気のレース、本気の応援で、君たちの新たな伝統を創りあげるんだ。

 部活動の場合、新しいチーム体制になり、先輩から後輩に受け継がれた時の、最初の新人戦は緊張するものです。それが、強いチームだとなおさらです。新しいキャプテンを始め、選手たちも責任を感じます。こんな時こそ、顧問の言葉がけが大きく左右するのではないでしょうか。「お前たち、優勝カップを、絶対に他校に渡すんじゃないぞ」(過去の私)でプレッシャーを与え、本番で力を出し切れず…。強いチームこそ、努力した事実を皆で共有し、「普段通り」を前面に出してあげることが大切だと思います。

●学芸会に向けてのペップトーク

場面

 いよいよ学芸会に向けて、練習が始まります。子どもたちもワクワク。でも、中には本意でない役の子もいます。全員を同じ方向に向けたい思いです。(私の同僚だったT先生の例)

こんな時のペップトーク

STEP1(事実の受け入れ)
 学芸会に向けて練習を始めるんだが、「この役はちょっとやだな」って思ってる子もいるよね。先生も、小学校の時、嫌な役もらって落ち込んだ時あったからねえ。
STEP2(とらえかた変換)
 でもね、その役があったから、劇全体がいい形で出来上がったんだ。終わった時に、いっぱい拍手もらって嬉しかった。どんな役でも、本気で演じることで、見ている人の気持ちを動かすよね。
STEP3(してほしい変換)
 クラス全員が主役なんだ。誰一人かけても、この物語は、完成しない。一人一人が、自分の持ち場を大好きになって、一生懸命演ずることが大切なんだ。
STEP4(背中のひと押し)
 さあ、5年3組の物語の始まりだ。4月から勉強してきたことを、学芸会で発揮しよう。君たちならできる。必ずできる!

 T先生は、春のスタート時から、学芸会に向けて、子どもたちの輝きどころを、意識して学級指導を行っていました。声は小さいけど、みんなで歌うときは輝く子。前には出たくないが、裏方なら、大活躍する子。一人でも堂々と前で自分を表現できる子。それぞれの特徴を見つけ、個への励まし、そして学級全体に、その子の良さを伝えることで、同じ目標に向かわせていました。

●合唱祭に向けてのペップトーク

場面

 合唱祭の練習が始まり、「一生懸命取り組んでいるのに、男子がふざけて真剣に歌ってくれない」。と女子から泣きながら訴えがありました。N先生、ニコッとしながら、「こんな時こそ、同じ方向に向かわせる最高のチャンスですよ」と言います。(私の同僚だったN先生の例)

こんな時のペップトーク

STEP1(事実の受け入れ)
 男子が歌ってくれないって、困るよねえ。先生も、中学生の時経験あるよ。ピアノを弾いてても、男子が邪魔をしにくる。やる気のない子がいるのはつまんないよね。
STEP2(とらえかた変換)
 でもね、こんなに男女がバラバラなのが、一緒になって一つの歌を歌いあげたら素敵じゃない。それだけやりがいってあるってことって考えたら面白くない?
STEP3(してほしい変換)
 練習後の反省の時に、小さなことでもいいから、男子の良かったところを発表してあげて。「〇〇君の〜の点がよかった」なんて言われたら照れながらもうれしいんじゃないかな。
STEP4(背中のひと押し)
 女子が、いいところ見つけの名人になったら、きっと男子も変わっていくよ。変わると信じて、笑顔で前に進もう!

 N先生は、いつも笑顔で、生徒と接しています。ダメなことはダメ、良いことは良いときちんと指導を続けていることで、生徒たちの信頼を得ています。そんな先生だから、生徒たちの対立もゆとりもって対応できるのだと思います。ペップトークは、お互いの信頼関係があって成り立ちます。

三森 啓文みつもり ひろふみ

豊田市の小中学校で35年勤務。
(一財)日本ペップトーク普及協会 講演・研修講師
(一社)個性心理學研究所 特別認定講師
専門領域は、コミュニケーションの円滑化。
学校を始め、事業所、団体向けに人間関係円滑化の講演・研修を行っている。
著書に『学級経営サポートBOOKS 教師のための「ペップトーク」入門 子どものやる気を120%引き出すミラクルフレーズ』明治図書出版、2018

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