教育オピニオン
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消費税増税の今、考える 小・中学校で取り組みたい「租税教育」
和歌山大学准教授岩野 清美
2019/9/1 掲載

 租税教育というと、どのような授業が想起されるだろうか。
 「税は正しく納めましょう」というお題目が子どもたちの日常生活で役に立つことはほとんどない。消費税などの間接税は、お店の人から「(税込み)○○円です」と教えてもらえるし、雇用者であれば、所得税などは会社が給与から天引きして納めてくれる。自分の納税額を気にする必要はほとんどないのだ。それなのに、というべきか、それゆえに、というべきか、日本人の痛税感は大きいと聞く。
 既存の税のしくみやその考え方を学ぶ(受容する)だけだった租税教育が、近年、大きく変わってきた。地方財政の問題や、貧困や格差と社会保障など、現実の社会の動きと授業を結びつけ、よりよい解決策について考え合う授業が増えてきている。消費税率をめぐる議論を通して、改めて「公平な税の集め方」=公平とは何かについて議論することも可能だろう。今回は、「官」と「協」の役割について考えたり、よりよい社会的意思決定のありようについて考えたりする授業を紹介・提案したい。

(1)小学校での取り組み事例
 小学校6年生での実践。政治単元の導入部分で、政治はみんなの思いや願いを実現することをめざしていることを確認したあとで、「身の回りの困りごと」を出し合った。それらを「自分(たち)で解決できること」と「自分(たち)だけでは解決できないこと」に分けていくなかで、みんなで追究してみたい課題として、「動物の殺処分」に関心が高まっていった。学校の近くに保護猫カフェができ、地元紙で取り上げられたところだったので、子どもたちの関心も高かったのかもしれない。調べていくなかで、活動に取り組んでいるボランティアさんだけでなく、県や市でも「不幸な猫をなくすプロジェクト」やふるさと納税を活用した動物愛護センターの建設を行うなど、民間の取り組みである「協」と政治のはたらきである「官」が協力して問題解決に取り組んでいること、また、問題解決のためには多額の費用が必要であることに気がついていった。県の担当の方をクラスにお招きして話を聞いたときには、私たちの衛生的な生活環境のためには、野良猫に対しても対策が必要なこと、そして、そもそも野良猫という問題は人間がつくり出したものであることが話された。こうして、「私たちの身の回りの困りごと」は私たちがつくり出したものであることに気づいた子どもたちは、問題解決にだれが、どうやって取り組むべきかについての話し合いにさらに熱が入ることになった。
 これは、必ずしも「税」に焦点化した授業ではない。しかし、みんなの問題を解決していく取り組みについて、子どもたちの興味関心にもとづいた追究を大切にしながら、官と協それぞれのはたらき、そして、その費用負担など、政治のはたらきの本質をつかむことのできる授業であると考える。

(2)中学校での実践への提案
 「税」に限らず、社会科の授業では、小・中・高と同じ学習内容を繰り返して学ぶことが多い。それでは、小学生の学びと中学生の学びでは何が違うのか。大きな違いのひとつとして、問題解決において重視するものの違いが挙げられる。端的には、小学生は条件が同じものが等しく扱われること、中学生は問題解決のプロセスに利害関係者が関わること、高校生は問題解決のプロセスを通して意見の異なる他者を包摂することを重視している。先の動物の殺処分の例でいうならば、小学生は例えば、「不幸な猫をなくすプロジェクト」における不妊去勢手術費用の助成を受けることのできる条件を問題にし、中学生は地域猫対策計画の策定をだれがどのように行うのかを問題にし、高校生は意見の異なる他者とともに計画策定が行われているか、計画策定のプロセスを問題にするということであろうか。このような学習者の発達を考慮に入れてみると、学習課題もまた、変わってくるのかもしれない。

 租税は、社会の基盤をつくることで私たちの生活を支え、また社会における助け合いと公正な社会の実現に重要な役割を果たしている。しかし、少子高齢化の進行のなかで、社会保障費の増大と膨大な債務残高などの大きな課題もある。これらの課題を取り上げることで、子どもたちには現実の社会に目を向けることはもちろん、それをどのように解決するのかの議論を通して、社会のありようについても認識を深めさせたい。

岩野 清美いわの きよみ

和歌山大学教育学部准教授。もと公立中学校教員。

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