教育オピニオン
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大人に気付いてほしい子どもたちからのSOSと対応策
NPO法人 D.Live 代表理事田中 洋輔
2019/8/15 掲載

 NHKの調査では、44万人から85万人の中学生が「不登校」および「不登校傾向」にあることが分かりました。私の教室にも、学校へ行っているものの「行きたくない」「部活がイヤだ」「遠足が地獄だ」などと言う中高生がいます。修学旅行のとき、どんなグループになるかが気になり、まだ先にもかかわらず今から悶々と悩んでいる子がいます。「クラスがイヤだ」と言って、クラスで孤立している子もいます。学校が「しんどい」と思っている子はたくさんいますが、多くは隠れ不登校です。登校している。部活に行っている。真面目に授業を受けている。など、一見すると、楽しそうに学校生活を過ごしているように見えます。不登校になった子を見て、先生が「いやぁ、学校では楽しそうにしていたんですけどねぇ……」ということがあります。しかし、私からしたら、イヤイヤ違うぞと思うのです。子どもたちは、出来るだけ元気なふりをします。たとえ学校がイヤでたまらなくても、イヤな顔をせず、楽しそうにします。理由は様々です。親に心配をかけたくない。大人になにか言われたくない。クラスで目立ちたくない。その子によって違うでしょう。ただ、1つ確かなことは、多くの子どもたちは苦しんでいる。そして、その苦しみを誰にも見せず、声を出さずに心の中で泣いているのです。

(1) 大人なんて信用できない

 私自身、ずっと1人で苦しんでいる生徒でした。中学生時代、定期テストでは常に5教科で450点以上。部活も意欲的にこなし、委員会活動や文化祭の実行委員などもおこなっていました。周りからは充実している学校生活のように見えていたことでしょう。しかし、私はずっと孤独を抱えていたのです。「あいつは心配ない」と先生に思われていたのでしょうか。私のことを理解しようとしてくれる先生はいませんでした。いや、理解しようと思って寄り添ってくれた先生もいたのかもしれません。しかし、私は気がつくことが出来ませんでした。「分かって欲しい」「もっと気持ちを理解して欲しい」とは思うものの、それを声に出すことは出来なかったのです。格好つけたい思春期の時期。先生に「しんどい」とか「もっと俺のことを見てよ」なんて言えるはずがありません。
 さらに、先生への不信感は小学生の頃からありました。こちらの気持ちを聞いてくれない。上から命令してくる。理不尽なことを言う。話を最後まで聞かない。いつの頃からか、「先生とはそういうものだ」と思い、僕は先生に頼るという選択肢を中学入学するときには、すでに捨て去っていました。私たちの教室へ来ている中学生でも、大人に不信感を持っている子が多くいます。私は、高校生になり、不登校になるのですが、そのときに担任の先生に「どうした? つらいことがあればなんでも言って来い」と言われました。でも、言えないのですよね。大人への不信感もありますが、「なんでも言って来い」と言われても、なにを話せばいいのでしょう? 子どもは、不安な気持ちやモヤモヤした思いを言葉になかなか言葉にできません。言葉に出来ないものをどうやって話せばいいのでしょう? 思春期は微妙な時期です。大人から自立したいと思う一方で、寂しい、分かって欲しいという気持ちも抱えています。そのため、上から目線で声をかけたところで、うまくいかないのがオチでしょう。それよりは、「この先生は自分のことを分かってくれる。理解しようとしてくれる」と思えるような関わりかたをしていくことが必要です。子どもは大人を良く見ています。先生が子どもを評価するように、子どももまた、大人を評価しています。そして、一度「ダメ」だと思うと、そこから挽回することは難しいのです。

(2) 子どもと関わる上での前提

◆ 先生や親には相談しない
 思春期の子どもは、大人にも友達にも相談しません。しんどい悩みならなおさらです。話して欲しいと思うのであれば、普段からの関係性づくりが必須です。一朝一夕では、決してできません。「なにか言うて来いよ」と言われても、話すわけがないのです。

◆ガンバって学校へ行っている子がいる
 学校が楽しくない、しんどいと思っている子がいます。楽しいけれど、苦手な子もいます。みんながみんな学校が楽しい場所ではありません。私の生徒は、「学校はお化け屋敷みたいで怖い」と言っています。子どもによって感じ方が様々で、決して先生ご自身の経験や感覚だけで判断しないでください。

◆ 悩みを話してもらえないほうが悪い
 つい大人の立場にいると、「どうして相談してこないんだ?」とか「悩みがあるなら誰かに話せばいいのに」と思うでしょう。しかし、私は[悩みが話せない子が悪い]ではなく、[悩みを話したいと子どもが思えない]のが問題だと思っています。「話して来いよ」という上から目線ではなく、「どうすれば、この子は私に悩みを話してくれるのだろう?」「どうすれば、相談してくれる関係性を作れるだろう?」と考えてください。

◆ 優秀な子ほど危険
 成績優秀、品行方正など、学校で「問題ない」と思っている子ほど、実は危険がはらんでいます。優秀な子は、先生に構ってもらえません。「この子は大丈夫だ」と勝手に判断され、放置されます。勉強ができる。運動ができる。授業態度が良い。など、表面だけで判断しないでください。真面目だからといって心に闇を抱えていないとは決して言い切れません。

(3) 子どものSOSを見逃さないために、出来ること

 子どものSOSを見逃さないためには、常日頃から子どもを見ている必要があります。しかし、子どもたちはしんどさを隠します。出来るだけ大人や同級生にバレないようにします。そのため、意識して子をみて、関係性をつくっていくことで、問題の種を見つけ、早いうちに対処をしましょう。これからあげることすべてに取り組むことは難しいでしょう。しかし、事前に起こりそうな問題などを予測して準備しておくことにより、突発的な問題が起こりにくく、結果的に仕事がスムーズにいくのではないでしょうか。

 では、具体的になにができるでしょうか?

理解しようと努める

 子どものことを理解しようと思ったら、まずは「知る」ことからです。

なにが出来て、なにが出来ないのかを知っておく
 得意科目や勉強、部活のことではありません。その子がどんな性格で、どんな特性を持っているのかを知っておくのです。友達を作るのが苦手。趣味が合う子がなかなかいない。一人で本を読むのが好き。うるさいのが苦手。光が苦手。などが分かっていると、どの子がどんなときに困るかが見えてきます。たとえば、友達作りが苦手な子がいたら、校外学習に行くときのグループ分けはしんどいでしょう。そんなときは、事前に本人に声をかけることで対応することができます。

知るために、選択式で質問をする
 「どうした?」「最近、悩みあるか?」といったオープンクエスチョンは少し答えにくいです。それよりも、選択式の質問、YesやNoで答えられる質問をしましょう。「もっと友達欲しいと思っている?」「学校で苦手な時間は? 授業? 休み時間? 部活?」など。子どもから良い答えが返ってこないのは、関係性の問題か問いの問題です。子どもが答えやすい問いにすることで、子どもが今どんなことを感じているかがみえてきます。 

共通点を見つける
 自分と同じところがあると、人は共感を覚え、一気に距離感が縮まります。同郷や同じ部活をしている人だと、初対面でも話が弾みますよね。それと同じです。観察やヒヤリングを通して、子どもとの共通点、共通の話題をたくさん見つけてください。

話してくれる関係性をつくる

 ホンネを話してくれるためには、「この先生なら大丈夫」「私のことを理解しようと思ってくれている」と子どもが思う必要があります。では、どうやって関係性を築いていけばいいでしょうか?

単純接触回数を増やす
 人数も多いので、たくさん話す時間はないでしょう。たとえ、挨拶だけでもいいので、接触する回数を増やすことで、好感度は高まります。また、接触回数を増やすことで、「あれ? 今日ちょっと元気がないぞ」など、小さな変化に気づくことができます。

関心を示す
 人は自分に関心を持ってくれる人を嫌いにはなりません。とにかく1人1人の子に関心を持ち、実際に関心を示しましょう。たとえば、「部活の試合、今度どことやるの?」「この前の映画、どうだった?」「腹痛、なおった?」などです。そうやって声をかけることで、子どもは「ちゃんと見てくれている」と感じることができます。

自己開示する
 自己開示とは、自分をさらけ出すことです。自己開示には、返報性というものがあります。人がさらけ出して話をすると、他の人も同じように自分をさらけ出して話そうとするのです。子どもに「悩みを話して欲しい」と思うのであれば、まずは自分から話すことです。大きな悩みを話す必要はありません。小さな悩みや不満みたいなものを言うことで、「この先生は僕たちにここまで話すのか」と思い、信用されているなぁと感じることができます。

話を最後まで聞く
 時間がない中で難しいかもしれませんが、できる限り子どもの声には耳を傾けてください。「話したい」と思っても、途中で話を遮らず、最後まで聞いてから意見してください。

(4) やってはダメなこと、NGな行為

 ここまでは、「出来ること」や「取り組めること」を書いてきました。このあとは、「やってはダメなこと」や「NGな行為」についてご紹介しましょう。

「分かるぞ」と言う
 共感することは大切です。しかし、安易に「キミの気持ちは分かる」と言わないでください。元来、他人の気持ちなんて分かるわけがないのです。「そうなのかぁ」「キミはそう感じているのだねぇ」と気持ちに寄り添うことをしてください。分かったフリをするほど子どもの気持ちを逆なでする行為はありません。

正論を言う
 大人が正論を振りかざした途端、子どもは大人に”失格の烙印”を押します。「仕方ない」「ルールだから」「みんなそうしているから」など、正論を出してくると、子どもは「この人は説明することを怠ったな」と感じます。上から目線で接してきているなと感じます。大事なのは、正解を話すことでもないし、子どもが納得する答えを言うことでもありません。子どもと真摯に向き合い、子どもの疑問やモヤモヤを解消するために寄り添ってあげることなのです。

勝手に判断する
 子どもが寂しいと感じているかどうかは本人に聞かないと分かりません。生徒の事例をお話しましょう。彼女は、1人で本を読むのが好きな子でした。ある日、先生が「この子と友達になればいいよ。これでさびしくないよね」と、勝手に友達をあてがってきたのです。しかし、その子は本を読むのが好きで、休み時間に黙々と読書をしていたのです。さびしいなんて思っていなかったのに、先生が勝手に[休み時間に1人でいるのはさびしい]と判断をしたのです。いつだって答えは子どもの中にしかありません。この関わり方が正解なんてものはないのです。どんな行為であったとしても、子ども本人が「嬉しい」「ありがたい」と思わない限りは、NGなのです。

とにかく褒めようとする
 褒めることよりも声をかける、コミュニケーションをとるほうが大事です。子どもには褒めてもらいたいと思っているツボがあります。しかし、そのツボを押さえるのはとても難しいです。成果や結果だけを褒めていると、子どもはどんどん人の目を気にするようになります。褒めることよりも、子どもをじっくり観察し、頻繁にコミュニケーションをとりましょう。そして、ただ気がついた事実を伝えるのです。「あれ? 前よりも集中して勉強しているね。なにかあった?」と。

(5) まとめ

 学校にはたくさんの子がいます。子どもによって性格も違うけれど、得手不得手も違います。その子たちすべてとコミュニケーションをとり、すべてを把握することは、現実的に不可能でしょう。私は、子育てとは野球チームのようなものだと思っています。野球には、守備のポジションがあります。定位置があり、センターならセンター付近に飛んできたボールをとる。ショートなら、ショートに飛んできたボールをとる。センターがショートのボールを取りに行くようなことはありません。しかし、教育では、学校や先生がどんどんボールを取りに行こうとしてしまっています。ショートなのに、センターやライトのボールまで取りに行く。すると、ミスも増えるし、疲弊します。これが今の教育の現状だと思います。先生方は、真面目で一生懸命ですが、だからこそ優秀な先生ほど倒れてしまいます。教育という観点で言うと、学校だけでなく、たくさんの専門家や団体があります。我々みたいなNPOもいます。たとえば、不登校という点でいうと、私たちは先生よりも専門性があります。ならば、不登校の子たちで悩んでいる、なんとかしたいときには、ぜひ頼っていただきたいのです。「センター!」と大きな声をあげて、ショートの位置から動かず、他の人に指示してください。無理してボールを取りに行かないでください。まだまだ、学校と他団体の連携が出来ていないので難しいですが、ぜひ普段から「私たちはどこのポジションを守っているのか?」を意識してみてください。そして、なにか課題や問題があったとき、「果たしてこれは、私たちが取りに行くボールなのだろうか?」と自問自答してください。
 そして、他の人がとれるボールであれば、ぜひ声をかけてください。他の団体を頼っていってください。

田中 洋輔たなか ようすけ

NPO法人 D.Live 代表理事。1984年 大阪生まれ/立命館大学文学部 卒。
プロ野球選手を目指すも、強豪の高校へ入り挫折し不登校に。大学時代には引きこもりにもなる。自身の経験から、自分に自信が持てず苦しんでいる子がいる現状を変えたいと思い、大学生のときに今の団体を立ち上げる。
自尊感情(自己肯定感)についてまとめた『子どもの自信白書』の発行。子どもの居場所や自信を育む教室、フリースクール(昼TRY部)などを運営。自尊感情や不登校に関する研修や講演もおこなっている。主な活動場所は、滋賀県草津市。京都新聞にて、コラム「よし笛」を連載中。

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