教育オピニオン
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いじめを未然に防ぐ
声なき声を拾うために
株式会社マモル 代表取締役社長齋藤 有子
2019/6/15 掲載

1 自分も大切、相手も大切

 私は、ITを活用していじめの早期発見を実現する事業をしています。
 そのため、学校の先生や保護者の方とお話する機会が多く、ほぼ毎日のようにいじめに関する相談を受けます。
 日々、さまざまな話を聞いて胸が痛くなるような話も多いなか、私が感動したエピソードをご紹介します。

 ある学校でのお話です。その小学校には、リクライニング型の車いす(寝るタイプ)で学童に通っている女子児童がいました。今年の春、みんなで集合写真を撮影することになりました。子どもたちは、車いすに寝ている女の子を真ん中にして記念撮影をしました。でも、真正面から撮影しているわけですから、女の子の姿がよく写らないわけです。すると、ひとりの子どもが「私たちも寝ればいいんじゃない? それで上から撮影すれば、みんな写るよ!」と提案しました。他の子どもたちも賛成し、ぐるっと車いすの周りに寝転びました。それを上から撮影しました。車いすの女の子も、お友だちも、みんないい笑顔の素敵な記念撮影になりました。
 私が感動したのは、子どもたちが「自分の目線」から「相手の目線」になって、物事をとらえたことです。車いすで生活していることは、他の子どもたちにはわからない部分があります。でも、その子の立場になって「どうしたらいいかな」と思うこと、それが相手を理解することに繋がります。しかもそれが先生の指導によるものでもなく、自然に子どもが思い立ち、口にして、みんながそれに賛同した。「相手の立場になって考える」さらに一歩踏み込んで「相手の視点にたって、どうすればいいか」を具体的に考えている。「ああ、子どもって本質的には、こうやって色々な経験を積みながら、相手の立場になってものを考えることを自然と学んでいくのだな」と思いました。

 実はこれは「いじめをなくすことにつながる」思考だと私は思っています。
 この話には

・多様性を認めること
・相手の立場になって物事を見つめること
・自分も大切、相手も大切と考えること

 こうした要素があります。これは相手を傷つけないために必要な思考力です。では逆にするとどうでしょうか。

・自分とは違うもの、他のものを認めない
・自分の立場でしか周囲を見られない
・相手に対する思いやりがない
・相手がどう思うか考えられない

 「こんなことをしたら、相手はどう思うか」が想像できれば、相手の痛みに思いを馳せることができるからです。
 相手の立場になって考えること。この心を特に小学生くらいのお子さんたちが家庭や社会、学校で学んで欲しいことです。そして、培ったその心を大切にして欲しい。子どもたちが「相手を思いやる」気持ちをもつことで、いじめの「芽」を摘むことができるのではないか。そう思っています。

2 いじめを未然に防ぐとは?

 しかし、残念ながら、現状として集団生活の中でいじめの「芽」は一定数発生します。 「芽」が出始めたらすぐ摘むこと。これが深刻化させないための秘訣です。「未然・予防」という発想です。
 いじめの始まりは「からかい」や「いじり」が多く、時間が経つことでエスカレートしてしまうケースがよくあります。いじめ自体を完全になくすことは難しくても、できるだけ早く周囲がいじめに気付いて対応できれば、事態の深刻化を防げるのではないかと考えています。

 いじめは社会問題で、日本でも研究が進められていますが、いまだに解決方法は確立されておらず、悲しい事件が後をたちません。 先生は多忙を極め、親は心配でたまらない。どこにも解決策が示されない中で不安がうごめいています。このような現状を変えたいと思い、いじめを未然に防ぐシステムを開発しました。システムの名前は「マモル」です。

 マモルは、学校単位で導入できる、インターネット上で使えるシステムです。いじめがエスカレートする前に、今まさに悩んでいる、苦しんでいる児童生徒をいち早く見つけてサポートをすることができるのです。
 子どもはいつでもマモルにアクセスして、いじめで悩んだときに役立つコンテンツなどを見ることができます。また匿名で、いじめの通報ができたり、困っていることを知らせたりすることもできます。
 さらに、子どものアクセス履歴から、子どもたちの間でどんな問題が起きているのか、マモルがデータを解析し、学校にフィードバックします。
 例えば、システム上に「いじめられている私はどうすればいいの?」という読み物を公開していたとします。その読み物に定期的にアクセスがあればそのクラスに、「いじめられていて気にしている人がいるかもしれない」ということが推測できます。またアクセス時間もわかるので、例えば夜中にこの読み物へのアクセスがあれば、もしかして悩んでいる生徒がいるかもしれないという推測ができます。ここではわかりやすい例を出していますが、要は「通報がなくてもデータから推測する」ということです。
 それにより、学校は今まで気付きにくかったいじめの予兆を知ることができ、対応方法を考えるきっかけや参考材料にもなります。

 「そんなシステムがなくてもいじめを見つけることはできる」とおっしゃる先生がいます。
 しかし、先生の「目」だけに頼るのは先生の負担が大きいのではないでしょうか。
 また、現在のいじめ対策には一定の対応や解決法が存在するわけではなく、それぞれの先生によって対応がバラバラになっているのが現状です。ベテランの先生は経験も豊富でスキルを持っていて、若い先生は経験がないと思われがちですが、現場を見てきて一概にそうとはいえないと感じています。経験よりも、いじめに対する先生の考え方と、生徒や保護者に対するコミュニケーションスキルが大切だと感じます。そのような先生方の特性の違いによって、いじめに充分対応できない先生もいるかもしれませんが、その先生を責めても根本的な解決になりません。
 ただでさえ多忙を極める先生に、本来の職務を果たしてもらうために、子どもの教育に集中してもらう環境を整備する必要があると考えています。そのためにマモルを利用してほしいと思っています。

3 システムができること

 「システムだけでは何も解決しない」そう思った方もいるでしょう。
 まさにその通りで、システムはツールに過ぎず、どう使うかが重要です。
 ただ、システムがあることで、意識も変わります。子どもたちは具体的に行動することができます。
 子どもが「マモル」を使って行動した後に、先生や外部の専門家がどのように介入していけばいいか。そのノウハウ作りとチームづくりを、先生やスクールカウンセラーはもちろんのこと、弁護士やいじめ問題に関心の高い方々と一緒にやっています。

 また、2019年4月からは、学校のいじめだけでなく子どもの権利ついての勉強会(ソーシャルワークと子どもの権利条約勉強会)も行っております。
 「子どもの権利」は、いじめの問題とも関わりがあり参加頂く方の立場は様々です。違う分野であっても繋がりが増えていくことで、学ぶことも多く、それぞれの力を合わせていけば、より大きな力で子どもを取り巻く環境を改善することにつながるのではと思っています。

 子どもたちにとってプラスになる。そしてそれが学校や先生にとってもプラスになる。
 マモルというシステムがその手助けになればと強く思っています。

齋藤 有子さいとう ゆうこ

 大学を卒業後、音響機器メーカークラリオン株式会社にてコンテンツ企画、マーケティングなどに従事。
 2007年勤務の傍ら、東京大学大学院情報学環コンテンツ創造科学産学連携教育プログラム4期生に所属。
 その後、株式会社ディー・エヌ・エーにてモバイルコンテンツ企画を担当し、ベンチャーIT企業で執行役員後、事業開発ディレクターとして独立。ワーキングマザー向けメディア立ち上げ等に関わりながら、多くの保護者と接点を持つ中で、以前から問題意識のあった「いじめ」を少しでもなくしたいという思いを強め、自身の強みであるwebマーケティングのノウハウをいかし、2018年株式会社マモルを設立。

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