教育オピニオン
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減災・防災のために子ども達が身につけるべき「聴く力」
TOA株式会社経営企画本部広報室堀内 あかり
2018/12/1 掲載

1 減災・防災における「音」の役割

 減災・防災で重要なのは「情報をいち早く知ること」。例えば、地震発生を数秒前に知ることができれば、具体的な避難行動を起こすことができる。そんな非常時の情報伝達に欠かせないのが「音による警報」だ。音は危険に関するさまざまな情報を伝える。火災・津波警報、自動車のクラクションや遮断機などの街中の音、遠雷や豪雨の自然音など、種別を問わず、すべての避難行動の最初のきっかけとして、古来より広く社会の中で活用されてきた。昨年実施した自社調査(*)からも、災害速報として最も有効な媒体は「音」であると考えることができるだろう。

 津波などの警報に利用される防災行政無線や、火災時の避難誘導放送など、社会に危険を報せる手段としてインフラ整備が進んでいる。一方で、いくらインフラが整っても、警報を聴いた住民が自ら避難行動を起こす意思を持たなければ、効果は不十分。減災・防災における「音」は、その種別ごとにさまざまな対策や教育が行われており、「緊急地震速報の音」「火災報知器の音」など、特定の警報音を聴覚により学習、記憶することが手法として一般的だ。しかし、危険を報せる音は無数にあり、加えて常に新しい音が開発され続けている。そして、日々膨大な情報に接する現代社会において、すべての音を記憶することは困難だろう。

2 子ども達が「聴く力」を身につけるために その実例

 「未学習の音=危険ではない音」という誤解が生じれば、かえって危険をともなう。自分が置かれている状況が判断できない子ども達ならなおさらだ。聞き慣れない音に接したとき、「何の音?」と耳を傾け、「自分はどうすべきか?」と考え、行動する力。当社はこれを「聴く力」としている。そして、子ども達が「聴く力」を伸ばすために必要なものは、自発的に危険な音を学習/蓄積し、防災レベルを継続的に高めていく「動機付け」だ。

 業務用音響機器の専門メーカーである当社は、音の重要性を子ども達に伝えるため、社会貢献活動として創作人形劇を制作した(**)。音による情報伝達、とりわけ危険を報せる音に焦点を当てた完全オリジナル作品で、NPO法人協力のもと、全国の自治体防災イベントや防災学習施設などでの無償公演を行っている。

【あらすじ】
 どうぶつ村の子うさぎ、ベルくんのおとうさんは、村の安全を見守る「カンカン塔」の見はり番。
 ある日、おとうさんに代わってベルくんがカンカン塔のお留守番をすることに。
 「火事を見つけたら鐘をカンカン、夕立雲がのぼったら太鼓をドンドンと鳴らすんだよね」。
 ところが、数十年ぶりにオオカミたちが襲ってきたからさあ大変!
 「こんなときは…シンバルだ!」。
 ところが村人たちは「何の音?」と首をかしげるばかり。
 みんなシンバルが何を報せる音か忘れてしまったのです。
 どうするベルくん?!

 2018年度までに関西圏を中心に16回公演を行い、1,700名以上が観覧している。2017年度より本運用を開始しているが、全国から公演依頼が相次いでいる。また、WEB絵本を制作し、特設サイトにて公開した(***)。本作品の絵本化も見込んでおり、図書館での蔵書化、読み聞かせなどにより、1人でも多くの子ども達に減災・防災に対する学びの機会が提供できると考えている。

 本企画は、「音」というテーマを、古くからある「人形劇」と子ども達に馴染みのある「アコーディオン」を用いて教材化したことが一番の特徴だ。物語の中に引き込むテンポのよいストーリー展開と笑いありの語り、そしてそこに添えられる音楽が、子ども達を飽きさせない。さらに、劇中警報のすべてを親しみ易い楽器に置き換えることで、「音の重要性」を説く物語に集中できる。なお、これは過去の体験から特定の警報音に恐怖心を持つ子どもに対しても心理的抵抗を減ずる効果があると考えており、加えて、第三者による作品再現やアレンジを容易にする工夫でもある。上演後は、主人公が「みんなの街では、どうなっているのかな?」と呼びかけ、物語と現実社会をリンクさせると同時に、自発的/継続的な学習への動機付けを行う演出となっている。結果として、その他すべての減災・防災教育を補完し、より効果を高めることに貢献する。

3. 学校の現場において、児童が自分の身を守る「音」に敏感になるために

 では、学校現場において、減災・防災について生徒に教えるべきことは何か。「耳を澄まして聞くこと」と「どうするかを考えること」は大前提。こういったことは各地の防災イベントに参加すれば学ぶことができる。しかし、果たしてそれだけで、実際に災害に巻き込まれたときに、自分の身を守ることができるだろうか。一度学んだだけでは、その場では覚えていても、いつか忘れてしまう。そして、いざ警報音が鳴っても、「何の音?」とただ首をかしげてしまう。
 必要なのは、自発的/継続的に学ぶこと。危険を報せる音を忘れてしまうことはもちろんのこと、音に慣れて考えなくなってもいけない。「聴く力」の重要性に気付き、それを持続できて初めて、自分の身に迫る危険に対応できるようになるのだ。子ども達は同年代の友人とともに学ぶことで、刺激を受けて新たなことに気付くことができる。これは学校教育の最大のメリットだ。自分の身を守るために何が必要なのか、大人が教えるのではなく、子ども達が自ら考える機会を、ぜひ学校現場で継続して設けてほしい。

 劇中、主人公がカンカン塔の仕事をサボって居眠りを始めると、観覧している子ども達からは決まって「起きろぉ!」と大声が飛ぶ。「聴く力」を持つ子ども達は、きっと大人にとっても頼もしい。

堀内 あかりほりうち あかり

 2016年にTOA株式会社入社。同年より広報室に勤務。2018年4月より社会貢献・メセナ活動を担当。TOAでは子どもたちの成長に合わせた複数の活動を展開。小学校にアーティストを派遣し、仲間とともに音楽に参加する喜びや楽しさを体験するオリジナル音楽プログラム「TOA Music Workshop」や、プロの音楽家と子どもたちとの協働創作の機会を提供する「トライやる・ウィーク」、2016年度より開始した災害時に音に耳を傾けることの大切さを伝える防災人形劇「カンカン塔の見はり番」など、次代を担う子どもたちへさまざまな活動を行っている。

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