教育オピニオン
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危険な夏から子どもを守る!「プール活動・水遊び」の注意点と安全対策
株式会社保育安全のかたち 代表取締役遠藤 登
2018/7/15 掲載

 2018年4月より適用される保育所保育指針には「特に、睡眠中、プール活動・水遊び中、食事中等の場面では重大事故が発生しやすいことを踏まえ、子どもの主体的な活動を大切にしつつ、施設内外の環境の配慮や指導の工夫を行うなど、必要な対策を講じること」(第3章健康及び安全)と具体的に記載されました。子どもたちが待ち望む、たのしい「プール活動・水遊び」を行なうにあたって保育者は安全管理に務めることが求められています。

 幼稚園・保育園ともにプール活動・水遊びを通じて死亡または意識不明で緊急搬送されるといった深刻な結果を招いた事故がつづけて発生しています。「溺れた」ことは共通していますが、家庭用の小さなビニールプールを使った保育者ひとり、子どもひとりの水遊びから、20人ほどの子どもたちが50センチ〜60センチの水かさのプールに入っての活動のほか園外保育における川遊びといった、プールの形状や活動の内容、子どもの年齢にまで様々な違いが見られます。事故が発生することなく、たのしい夏の思い出として終えるためには、どのような安全管理が必要だったのでしょうか。

●プール遊び・水遊びの安全管理
 プール活動・水遊びの安全管理は、職員の通常配置に加えて監視を役割とした職員を別途配置し行なうことが望ましいとされています。監視者の役割については教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン(※1)の「プール活動・水遊びの際に注意すべきポイント」に詳しく記載されています。

・監視者は監視に専念する。
・監視エリア全域をくまなく監視する。
・動かない子どもや不自然な動きをしている子どもを見つける。
・規則的に目線を動かしながら監視する。
・十分な監視体制の確保ができない場合については、プール活動の中止も選択肢とする。
・時間的余裕をもってプール活動を行う。等

 ガイドライン及び通知を受けて、事故防止及び事故発生時の対応の改善を検討・実施した保育施設は多いものの、「改善の必要性を感じなかった」、「人員が不足している」、「他に優先順位の高い施策がある」ことを理由に実行を見送ったり、改善に向けた検討を行なわない保育施設もまだまだ存在しています(※2)。

 実際に「監視者が監視に専念」しようと思っても、手持無沙汰な気分から監視者自ら監視を怠ったり、指導する側の保育者もプールの外に居る監視者にモノをとりに行ってもらう、尿意を催した子どもをトイレに連れてってもらうなど監視以外の作業を頼んでしまった話を聴いています。「十分な監視体制の確保ができない場合については、プール活動の中止も選択肢とする」ことにいたっては、これまで事故らしい事故が発生しなかった過去の経験から担当職員が個人的に可能と判断して、監視者が満足にいない状態でプール活動が実施されてしまっています。

●3つの視点を組み合わせた安全基準
 プール活動・水遊びは夏の日常生活に密着しながら一年の中でも子どもや保護者、そして保育者にとっても気持ちが大きく盛り上がる活動のため、子どもが喜ぶことを優先して期待に応えたい、子どもに達成感をもたらしたいと保育者の思いもつよくなる傾向があります。たとえば2014年9月に岩手県花巻市にあった保育園で、川遊びは毎年の恒例行事だったという理由だけで十分な安全対策もないまま保育所職員の手作りによるいかだで初めての川下りが実施されましたが、開始直後に相次いでいかだが転覆、子どもひとりの命が失われる結果を招きました。

 川下りや手作りいかだというと特別な事故という印象を与えますが、川下りではなく川遊びが「恒例行事」で、過去に事故がなかったことを理由に安全対策なく突っ走った、そもそもの理由を思い起こすと、監視者が不足した状態でありながら改善されることなくプール活動や水遊びが行なわれる保育施設の現状と何ら変わりません。プール活動や水遊びは、子ども個々の特性に合わせて、「環境要素」・「保育者要素」を組み合わせて安全にたのしく実施されることが望ましい活動の姿です。バランスよく計画・準備されれば子どもの最善の利益に近づくことができ、反対にバランスが崩れれば溺水事故の危険性を高めることにもなります。

 個別の保育者の経験則や子どもへの思いは十分に大切なものですが、安全管理は第三者から見ても納得のいく客観性の担保が優先されます。個人的な解釈をはさまない、誰にとっても守ることのできる安全基準をつくって計画・準備を念入りに行なっていただけることを願っています。

資料

●最後に
 今年6月22日大阪市の小学校でプールの授業中に児童が心肺停止状態になって、教職員の心臓マッサージや自動体外式除細動器(AED)を使った救命措置で意識を取り戻した出来事がありました。このように救命処置において AED は大きな力を発揮します。保育施設にも設置してある以上、最適な環境で使用できるよう準備することが保育者に求められます。しかし窒息事故や溺水事故が多い乳幼児に対して、AED は正常に動いた結果として適応外を示す可能性が高いことも認められています。処置時に AED が「使用の必要ありません。心臓マッサージと人工呼吸を続けてください。」とアナウンスがあっても躊躇なく人工呼吸と心臓マッサージを実施できるよう研鑽しましょう。

【参考資料・文献】

※1. 教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン【事故防止のための取組み】〜施設・事業者向け〜 (2016.3)

※2. 教育・保育施設等におけるプール活動・水遊び に関する実態調査(2018.4 消費者安全調査委員会)

遠藤 登えんどう のぼる

株式会社保育安全のかたち 代表取締役
保育士の経験を経て2002年に保育所を開設し園長に就任。
2011年に園長を辞し、病児保育事業、医療法人、クリニックなどの立ち上げに参加する。
2014年から保育の救命救急スペシャリストとして救命処置法の指導や、講演活動などを行っている。専門分野は保育現場における救命処置法。
保育の事故・ヒヤリハット分析手法「チャイルドSHELモデル」の教育およびリスクマネジメント研修。(著書)『保育救命』メイト刊

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