教育オピニオン
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2020年に向けて「オリパラ」教育をどう実施すべきか
一流スポーツ選手の記録と比較する、または記録に迫るという経験をさせたい
国士舘大学教授池田 延行
2018/4/1 掲載

 「ピョンチャンオリンピック・パラリンピック」での日本選手のすばらしい活躍に多くの国民が大喝采を送った。また、各選手の記録・順位はもちろんのこと、その表情やコメントにも多くの人が思わずうなずく場面もたくさんあったに違いない。
 ここでは、「ピョンチャンオリンピック・パラリンピック」を改めて思い浮かべながら、「オリパラ」教育の中身について考えてみたいと思う。

1.男子選手が300m走る間に、スピードスケート女子選手は500mも滑っている

 小平奈緒選手が「ピョンチャンオリンピック、スピードスケート女子500m」で見事な金メダルを獲得した。そのタイム「36秒94」は、オリンピック新記録でもあった。
 この小平選手の快挙のしばらく後に、陸上競技400mの一線級選手であった大学陸上部の先輩が『「36秒94」は、練習での300mタイムトライアルでの目標記録に近いタイムである。自分たちが300m走っている間に、小平選手は200mも先の500mを滑っている…』という、コメントを我々陸上部仲間に送ってくれた。「なるほど、面白い比較だな…!」と思った。また、高木美帆選手のスピードスケート女子1,500m銀メダルのタイムの「1分54秒55」は、陸上競技男子800mの一線級選手のタイムに近いものでもある。
 このように、スケートや陸上競技はタイムや記録が測定されることから、「走る、跳ぶ、投げる」に「滑る」なども加えて、記録やタイムを比較することも「オリパラ」教育への興味を高める1つの手立てになると思われる。

2.授業づくりに「一手間かけること」で、児童生徒にも一流選手に近い経験ができる

 さらに、小学校では、小平選手の「36秒94」を手がかりに、次のようなリレーの実践も可能である。
 小学校高学年の50m走タイムの平均は、おおよそ9秒前後である(50m走では、小5男子は9秒3、小5女子は9秒5、小6男子は8秒8、小6女子は9秒1が、おおよその平均タイム―平成27年度スポーツ庁調査結果から)。
 そこで、「4人×50m=200mリレー」で小平選手の「36秒94」に勝てるかどうかに挑戦することも検討できそうである。走る順番やバトンパスなどを工夫することで小平選手の記録を突破することができるかという「リレーでの目標記録の提示」で、児童のリレーへの意欲を高めることができそうである。
 実は、この「4人×50m=200mリレー」では、さらに面白そうなチャレンジを考えることができる。
 我々は、小学校高学年になると「4人×50m=200mリレーのタイム」が「4人の50m走の合計タイム」よりも速くなるということを授業実践で示してきた。
 この「リレータイムとリレーメンバーの短距離走の合計タイムとの差」に注目したいのである。
 陸上競技での「4×100m=400mリレー」の日本記録は37秒60であるが、そのリレータイムは4人のリレーメンバーの100mの合計タイム(日本記録樹立の時まで)よりも「2秒78」速いのである。
 そこで、小学校高学年以上の学年での「4人×50m=200mリレー」でも、この「タイム差2秒78」に挑戦してみたらどうであろうか。
 一流選手のタイムや記録のすばらしさ、すごさを知ると共に、授業づくりに「一手間かけること」で、児童生徒にも一流選手に近い経験ができることも知ってもらいたいと思う。
 「オリパラ」教育の中身は多様に検討できようが、陸上運動・競技の授業での実践的な取り組みに期待したい。

池田 延行いけだ のぶゆき

1 勤務先  
 国士舘大学体育学部こどもスポーツ教育学科
2 生年月日・出身
 昭和25年5月31日生・静岡県浜松市出身
3 略歴
 ・昭和44年4月 東京教育大学(現:筑波大学)体育学部入学
 ・昭和48年3月 同 卒業
 ・昭和49年4月 東京教育大学大学院体育学研究科入学
 ・昭和51年3月 同 修了
 ・昭和51年4月 岡山大学教育学部助手
 ・昭和59年4月 同 助教授    
 ・平成5年4月 文部省体育局体育課教科調査官
 ・平成12年4月 文部省体育局体育官
 ・平成13年1月 東京学芸大学教授(教員養成カリキュラム開発研究センター)
 ・平成18年4月 国士舘大学体育学部教授
 ・平成20年4月 国士舘大学体育学部こどもスポーツ教育学科主任
4 主な専攻
 ・体育科教育学
 ・体育・スポーツ経営学
 ・陸上競技
5 著書
 ・『こども・せんせい・がっこう』(共著)大修館書店 1990年
 ・『体育科教育法講義』(共著)大修館書店 1992年
 ・『小学校体育・めあて学習の進め方』(編著)東洋館出版社 1997年
 ・『体育科の特性を生かすティームティーチング』(編著)明治図書 1998年
 ・『対談・体育の授業をどう創るか』(編著)明治図書 1999年
 ・『新学習指導要領による小学校体育の授業』(編著)大修館書店 2000年
 ・『新学習指導要領を生かした体育科の授業』(編著)小学館 2000年
 ・『絶対評価に基づく体と心を育てる体育学習』(監修)明治図書 2002年
 ・『指導者のための体育・スポーツ行政』(共著)ぎょうせい 2004年
 ・『教師教育改革のゆくえ』(共著)創風社 2006年
 ・『新学習指導要領ハンドブック』(共著)時事通信社 2008年
 ・『小学校教育課程講座・体育』(共著)ぎょうせい 2009年
 ・『乗って、弾んで、転がって、ちゃれんGボール』(共著)明治図書 2010年
 ・『教育技術MOOK・陸上運動&体ほぐしの運動』(編著)小学館 2012年
 ・『新しい走・跳・投の運動の授業づくり』(編著)大修館書店 2015年
6 主な学会等の活動
 ・日本体育学会 
 ・日本体育科教育学会(前会長) 
 ・日本スポーツ教育学会
 ・日本陸上競技学会  
 ・日本Gボール協会(理事、公認インストラクター)
 ・全国学校体育研究連合会(副会長)、他
7 主な社会的活動
 ・文部科学省:小学校学習指導要領解説体育編作成協力者(平成20年6月刊行)
 ・文部科学省:「多様な動きをつくる運動」パンフレット作成協力者(平成21年2月完成)
 ・文部科学省:第6期、第7期、第8期中央教育審議会・スポーツ青少年分科会委員
 ・スポーツ庁:オリンピック・パラリンピック教育に関する有識者会議委員

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