教育オピニオン
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部活動に「NO」を言える教師になるために
生徒も教師も、部活動をする・しないは自由
元小中学校教諭・バスケ部顧問小阪 成洋
2018/2/15 掲載

1 部活動×強制=不幸の温床

 生徒も教師も「部活動をする・しない」は、本来であれば自由に選択できる。しかし、現状では慣習上、それが成立していない。不本意ながら部活動をやらされている生徒・教師が少なからず存在し、共に苦しんでいる。部活動が抱える検討課題は多岐にわたるが、「強制」と「活動の目標・内容」に大別できる。ここでは、望まぬ者への強制により不幸が生み出されている現状を問い直してみたい。

 部活動は生徒や教師に強制されるものではない。その根拠は、生徒については学習指導要領に、教師については労基法・給特法に求められる。生徒にとって部活動は、自主的・自発的な参加によるものである。教師については、やや複雑である。校長が教師に時間外勤務を職務命令できるのは「超勤4項目」に限られている。だが、部活動は「超勤4項目」に含まれない。つまり、校長は勤務時間外に部活動を命令できない。当然ながら休日に部活動を命令することもできないのである。

 では、勤務時間内についてはどうか。職務命令は可能である。しかし、それは部活動を含めて全ての業務が勤務時間内に終えられる場合に限られる。2017年12月末に文部科学大臣決定として「部活動や放課後から夜間などにおける見回り等、「超勤4項目」以外の業務については、校長は、時間外勤務を命ずることはできない」と示されたばかりである。
 教師が部活動を引き受ければ、その分だけ教育課程内の必要業務は後ろ倒しになり、教師の平日の帰宅は遅くなる。夜10時、11時に帰宅という教師は少なくない。教育課程内の本来業務を後回しにして、教育課程外の部活動を優先するのは辻褄が合わない。

 しかし、実態はどうか。持ち帰り残業も含めると過労死ラインを越える教師(中学校)は7割以上にのぼる(注1)。部活動がなかったとしても、勤務時間内に全ての業務を終えられている教師は皆無に等しい。このような実態からすれば、「部活動の顧問をしない」という教師の選択を否定することはできない。

2 部活動をする教師・しない教師、どちらの立場も尊重する

 部活動に精力的に取り組んでいる教師であっても、長い人生のうち一時期は都合がつかないことがある。例えば、介護や子育て等、誰にも生じうる人生のライフコース上の出来事がある。これは自然なことだ。
 ところで、学校における働き方改革特別部会の「中間まとめ」(注2)には、以下の記述がある。

 部活動については、学校の判断により実施しない場合もあり得るが、実施する場合には、学校教育の一環であることから、学校の業務として行うこととなる。これらの業務は、学校の業務として行う場合であっても、必ずしも教師が担わなければならない業務ではない。(p.14)

 これは文部科学省が明示した公式見解なので、各学校ではこれらを踏まえる必要がある。個々の教師はこれを根拠として管理職に「部活動の顧問をしません」と言いやすくなった。また、上記は顧問を担当しながら頑張っている教師にとっても、無理難題を要求された際に活用できるものとなっている。顧問就任を望まない教師だけでなく、部活動を熱心に指導している教師も守られる文言となっている。例えば、保護者から理不尽な要求をされた場合、教師側はこの見解を用いて部活動の位置づけを説明しやすくなった。当然ながら、前提として保護者との信頼関係は必要不可欠である。

 また、「中間まとめ」を各学校内で共有すれば、管理職や同僚とのコンセンサス形成に活用できる。これまでの慣習上、一筋縄ではいかないことだろう。それでも、文部科学省による「中間まとめ」を粘り強く各教師が学校現場で浸透させ、活用することで不幸を減らせると期待したい。教師の半数以上が過労死ラインを越える現状において、「できないことは、できない」という認識を職場内で共有するところがスタートになるはずだ。

 「中間まとめ」を知った知人の某教師は,次のように語った。

 「中間まとめを活用して、私たち教員自身が同僚・管理職・教育委員会等に働きかけて、将来に向けて少しずつ変えて行きたい。部活をやりたい・やりたくない、どちらの立場の教員も、気持ちよく共存出来る環境にしていきたい」

3 部活動における不幸を解消するために

 第一に、学校教育の受益者である生徒を部活動において不幸にしてはならない。生徒への入部の強制によって不幸が生じている事態は早急に解消される必要がある。また、教師も部活動顧問への就任が意に反して強制され、不幸が生じている場合がある。しかし、多数の教師が「部活動の顧問をしない」となれば、現状の部活動運営が立ち行かなくなってしまうため、部活動への参加を望む生徒への活動保障が課題となる。これについては、一介の教師の手に負える範囲を越える部分も大きいので、学校・教委・行政レベルでの対策が必要になる。では、その対策として、どのようなシステムが有効だろうか。

4 学校から地域の取組へ

 文部科学省は「中間まとめ」で下のように示している。

 教師が授業や授業準備等の教師でなければ担うことのできない業務に注力できるようにするためにも、将来的には、地方公共団体や教育委員会において、学校や地域住民と意識共有を図りつつ、地域で部活動に代わり得る質の高い活動の機会を確保できる十分な体制を整える取組を進め、環境が整った上で、部活動を学校単位の取組から地域単位の取組にし、学校以外が担うことも積極的に進めるべきである。(p.26)

 では、どうすればこれが可能となるだろうか。当然ながら、学校・地域ごとに望ましいあり方は多様に存在するので一律には決められない。一案として将来の部活動システムを提案したい。
 部活動をする生徒にとっての実態は大きく変えず、システムだけを変えて少しずつ移行するのがよいのではないだろうか。つまり、建物や場所は学校を活用するのである。将来的には学習指導要領から、部活動を学校教育の一環とする位置づけを削除し、地域単位の生涯学習へと移行する。このシステムには、生徒への強制入部はもちろん、教師への顧問強制も削減し、やがてなくすことも期待できる。

 来年度もしくは再来年度からすぐにこのようなシステムに切り替えるのは難しい。そこで、少しずつ部活動の設置主体を学校から地方公共団体へ移していく必要があろう。実現可能性を高めるためには低コストでの運用が必要なので、既存のシステムの活用を検討したい。

5 既存のシステム活用の提案〜小学校の放課後児童クラブをモデルに

 小学生の中には、下校時に校舎を出て、同じ敷地内に併設されている放課後児童クラブへ行く児童がいる。帰宅時刻まで、小学生は同じ敷地内で過ごす。運動場で遊ぶこともある。この際、児童の安全管理責任を負う主体は放課後児童クラブであって、小学校ではない。このシステムで部活動を運用できないだろうか。例えば、中学校に部活動事務局を一室設ける。空き教室がある場合には、そこを使用してもよい。各部活動の指導者(部活動指導員)が来校して着替えたり、事務作業をしたりする場として用いる。市区町村が設置の主体者となり、事務職員を1人以上雇う。教師が部活動指導を希望する場合には、兼業許可を得て部活動指導員になれるようにする。終業後にすぐに部活動へ向かえるようにする必要があるので、勤務時間をフレックスタイム制とする(部活動指導時間は教師としての勤務時間とは別に計上する)。生徒が放課後に各活動場所へ向かうという点は、今と変わらない。また、学校教育法施行規則にある通り、部活動指導員の質を担保するために研修が課される。

6 運用についての提案〜財源と人材の確保

 まず、教師に支給されている部活動指導の手当を丸ごと財源に回す。部活動に参加する生徒の家庭から、数千円を月謝として集金する。尚、所得に応じて月謝に差をつける方法として、保育園への支払い体系を真似て活用する。さらに、各学校・役所は就学援助対象者や生活保護受給世帯を把握しているので、これらを参照しながら月謝の減免を行う。所得格差が開いた現状においては、支払い可能な世帯には多くの支払いを求め、困難な世帯には求めない。月謝を徴収するしくみにすることによって、生徒側には参加する・しないの選択権が確実に保障される。部活動指導員には例えば時給3,000円程度を支給することで人材確保を進める。部活動指導員(教師を含む)を必要数拡充できれば、設置主体を市区町村へ移す地盤が整う。

 しかしながら、教師が部活動指導員を担っている場合には異動によって指導者が不在となってしまう場合がある。人が少ない地域ほど、これが顕著となってしまう。指導者不在が一定期間継続する場合、部活動の実施が困難になる。当然ながら設置主体の市区町村は人材確保に尽力を続ける必要がある。ここで、市区町村は部活動に参加している生徒の保護者に、人材確保の協力を呼びかけてもよいだろう。

 部活動の将来的な設置主体は教育委員会よりも市区町村が好ましい。教育委員会が設置主体となった場合には、人材確保に困った際に安易に教師・学校に頼ってしまうだろう。将来的な設置主体となる市区町村は、保険適用についても十分に整備する必要がある。このようなシステムへの移行のためには、全国大会や県大会の運営をどうするか等、検討事項が山積することだろう。

 現状、学習指導要領上で部活動は学校教育の一環として教育課程との関連を図らなければならないと規定されているので、学校の業務から切り離せない。今後、学習指導要領を改訂する際、部活動を学校教育の一環と「しない」位置づけにしていく必要がある。学校教育法施行規則に定められている部活動指導員は、将来的には生涯学習に関する法令に定められることになろう。その時には、「部活動」は今とは別の名称となっているのかもしれない。

 現在の部活動は位置づけが曖昧で、脆弱なシステムの上に成立している。大過なく運営できるのは一部で、全体を見渡すとエラー(不幸)が至るところで発生する仕様となっている。早急に「強制」を排し、生徒・教師に「部活動をする・しない」を選べるようにしてエラーを解消する必要がある。

小阪 成洋こさか なりひろ

元小中学校教諭・バスケ部顧問。
日本部活動学会 理事
部活問題対策プロジェクト 代表
【寄稿】
「部活動の教育的効果と諸問題・改善策」(『現代思想』2017年4月号)、「部活問題対策プロジェクト」(『季刊教育法』194号、2017年9月)、『ブラック部活動』(2017年7月)

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