教育オピニオン
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アクティブ・ラーニングを支える協同学習
久留米大学文学部教授安永 悟
2015/10/1 掲載
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  • 授業全般

 中央教育審議会の答申に「アクティブ・ラーニング(AL)」が初めて取り上げられたのが、2012年8月の「質的転換答申」である。それ以後、2014年12月の「高大接続答申」を経て現在に至るまで、日本の教育界はALを中心に語られることが多くなってきた。

1 アクティブ・ラーニング(AL)とは

 そもそも、ALとは何か。先の「質的転換答申」によれば、「教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修」と述べられている。また、「高大接続答申」においては、「学生が主体性を持って多様な人々と協力して問題を発見し解を見いだしていく能動的学修」という記述がある。
 これらの説明により、ALの理想的な活動場面を思い浮かべることは比較的簡単である。しかしながら、その活動をいかに引き出すか。ALの経験知の少ない教師にとっては難しい課題である。そのような教師が、一般的に効果的であると言われているALの具体的な学習法なり、実践例を求めることは当然である。
 現在、大学教育を中心に、ALの代表的な学習法として注目を集めているのが、PBL問題解決型学習法(Problem Based Learning)、プロジェクト型学習法(Project Based Learning, Group Investigation)、反転学習(Flipped Learning)、TBL(Team Based Learning)、LTD話し合い学習法(Learning through Discussion)、ジグソー学習法(Jigsaw)などである。これら欧米発の学習法を授業に導入・実践することが、AL型授業であるととらえている教師も多いのではなかろうか。
 これらの学習法に共通することは、グループ活動を前提としている点である。この観点から日本の教育現場を見渡せば、ALに分類できるグループ活動を前提とした学習法が少なからず存在することに気付く。同時に、それらに基づく授業研究が盛んに行われ、すでに数多くの理論的・実践的な研究知見が蓄積されていることがわかる。例えば、「学び合い学習」や「バズ学習」などに代表されるグループ活動である。これらの学習法を再度評価し、より効果的なグループ活動を展開することによって、中教審が求めているALを教育現場で実現できると考えている。その際、大きな役割が期待されているのが、協同学習である。

2 協同学習とは

(1)協同学習の考え方

 協同学習(cooperative learning)とは

グループの教育的な活用であり、グループの学習目的を達成するために、学生が自分と他者の学習を最大限に高めるために協同して学習すること

である(Johnson, Johnson, & Smith, 1991/2001)。学習仲間とともに変化成長することを心から願う「協同の精神」をもった学生たちが、切磋琢磨しながら真剣に学び合う学習と言える。協同学習は単なるグループ学習の技法ではない。教育理論である。教育理論としての協同学習を理解したうえで、協同学習の技法を活用しなければ、大きな成果は期待できない。

(2)協同学習の基本構造

 協同学習には多くの技法があるが、それらには共通する基本的な構造がある。それがグループ活動における「課題明示→個人思考→集団思考」の流れである。これは、グループの活動性を高め、確かな学習成果を得るための工夫である。
 「課題明示」とは、メンバー全員が活動の目的と、そこに至るまでの手続き、及び個々人が行うべき活動内容を理解し、共有できるように教師が課題を示すことである。課題明示により、指示と同時に、学生はすぐさま積極的に活動を始めることができる。
 「個人思考」とは、課題明示で与えられた課題に対する自分なりの意見や考えを練ることである。自分の意見をもたずに話し合うと発言できない。他者の意見を聴くだけの受動的な活動になってしまう。
 「集団思考」では、メンバー一人ひとりが、自分の意見を「ほぼ同じ時間」を使って紹介する。1人のメンバーが話しすぎてはいけない。また、他者が発言しているときは傾聴が鉄則である。もし、発言内容が理解できない場合は、相手の発言内容を復唱して、理解の確認を求める。そして、全員の発言が終わった後、各自の発言内容の異同を確認し、意見の違いを手がかりに、対話を深めていく。

(3)協同学習の基本技法 

 この基本構造に依拠した最も簡単な技法がシンク・ペア・シェア(TPS: Think-Pair- Share)であり、ラウンドロビン(RR:Round Robin)である。
 
 TPSの手続は、下記の通りである。
@課題明示
 教師がクラス全体に話し合いの課題を与える。
A個人思考
 学生は与えられた課題について自分の意見を考える。
B集団思考
 学生をペアにして、1人ずつ自分の意見を、ほぼ同じ時間を使って述べる。その後、話し合って課題に対するペアとしての意見をまとめる。
Cまとめ
 必要に応じてクラス全体で意見を交換する。
 
 各段階の所要時間は、TPSを導入する際の様々な条件(話し合いに対する学生の慣れや課題内容など)を加味して決める。大学生を相手にTPSを使う場合、筆者は個人思考を30秒から1分間、集団思考を3分間程度とすることが多い。
 RRの手続はTPSと同じである。違うのは人数のみである。TPSがペアで、RRが3人以上のグループで行う活動を指す。より多くのメンバーと、幅広い意見交換をさせたいと思う場合、TPSよりもRRを使うことが多い。

3 まとめ

 協同学習の根底にあるのは「協同の精神」である。協同の精神に基づいた質の高い効果的なグループ学習を実現することにより、ALに期待される本来の成果を得ることができる。本稿で紹介したTPSやRRといった協同学習の基本技法は、講義中心の授業にも比較的容易に取り入れられる。ぜひ一度、試みてほしい。これらの最も基本的な技法を活用するだけでも、協同学習がALを支えていることを実感していただけるものと確信している。

〈参考文献〉
Johnson, D. W., Johnson, R. T., & Smith, K. A. (1991). Active learning: Cooperation in the college classroom, 1/E. 関田一彦(監訳)『学生参加型の大学授業:協同学習への実践ガイド』玉川大学出版部, 2001.

安永 悟やすなが さとる

 九州大学教育学部助手、久留米大学法学部助教授、同文学部助教授を経て、現職。専門は教育心理学、協同教育。博士(教育心理学)。主著に『LTD話し合い学習法』(ナカニシヤ出版、2014年)、『活動性を高める授業づくり』(医学書院、2012)など。授業づくり研究会を主宰。協同の精神を基盤とした教育活動を標榜。小学校から大学までの先生方と活動性の高い授業づくりを展開中。

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