教育オピニオン
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子どもたちにどのように命の大切さを伝えるか
命の学習(性教育)における教師と専門職の連携
助産師川島 智世
2015/9/1 掲載

1 命の学習(性教育)とは

 プレママ・パパ・乳幼児をもつ保護者や、小学校・中学校・高校・大学・養護施設・授産施設で命の学習(性教育)の講演活動をして15年が過ぎた。幼児をもつママやパパから、「性教育なんてうちの子どもには早すぎる!」と言われた時点で、性教育の遅れや誤解を知る。命の学習(性教育)とは、女性として、男性として、人として、自分の性をどう受け止め、大切に生きるかの教育なのだ。
 それは、保健教育から道徳教育・倫理教育と幅広く深い。
 保健教育は、自分のもって生まれた性や年齢に応じての体の変化と向き合い、自分や相手の体を大切にする健康教育である。
 道徳教育・倫理教育は、自分と相手の心、生まれてくる生命を大切に思い、行動してゆく生き方、生き様の教育となるので、答えは1つではない。「自分にとって命とは何なのか?」「人を愛するとはどういうことなのか?」「自分を大切にして生きるとはどういうことなのか?」自分で自分の答えを見つけ出せるように導かなければならない。
 100人いれば100答えがあって当たり前だが、1つのずれない方向性「自分と相手の心と体、そして、生まれてくる命を大切に思いやるとはどういうことなのか」そこに向かって自分の答えを見つけることができるよう導くこと、それが命の学習(性教育)なのだと思う。

2 命の学習(性教育)は胎児のときから始まっている

 「家庭での性教育はいつから始めるべきなのか?」という質問に対して、「家庭での性教育は胎児のときから始まっています」と答えると、多くの人が目を丸くして「えっ、胎児のときから性教育!?」と驚く。
 胎児は外部の音を聞くことができる。父と母が仲良く歌を歌う声を聞き、お腹にいるわが身を思いやる優しい言葉かけは子どもの心に届く。手の温もりも感じることができる。たとえ聴覚に問題があっても、母の心拍数、鼓動のリズムを感じ取ることで、ママの穏やかな呼吸、心拍の音が、心の安定が健やかな成長へとつながってゆく。
 一方、「この子はいらない」「流れてほしい」「お腹の中で死んでくれればいいのに」と願われ、生まれてくる子は、夫婦のいがみ合う喧嘩やDVなどお腹の外での言い争いをママの心拍の流れで感じ取る。そして、緊張や怒りや不安が胎児の心拍を緊張させ、不安に陥らせるため、体重が増えずに小さく生まれてくるケースは多い。
 父(男性)・母(女性)としての生き方は、胎内の子どもに、生まれくるわが子に大きく影響を与えてゆく。父・母がお互い尊敬し、愛し合っているその姿そのものが、生き様そのものが、命の学習(性教育)の道徳・倫理教育に結び付く。自分の体(プライベートゾーン)を大切にすること、保健教育を含め、子どもに教えていくことも、家庭での命の学習(性教育)である。

3 学校現場における講演活動での経験から

 学校現場における10代の性教育で思うことは、無知(正しい医学的な看護学的な知識がない)・無防備(自分だけは大丈夫という思い)が、性被害や性犯罪、若年の妊娠・中絶・性感染症の増加をたどらせるということだ。
 今から13年前、ある高校から「うちの高校に、医学(看護学)的に妊娠とは何か?出産とは?命とは?中絶とは?性感染症は何か?というテーマで予防講演をしてほしい」と依頼を受けた。
 その学校は、夏休みや冬休みの後、保健室の養護教諭のもとに「妊娠したかも?」「性器が痒い、痛い、性感染症かも?」と学生たちが悩みを抱え、頻繁に保健室に訪れる。カラオケボックスで学生同士が性行為を行った事実を教師が知ったことで、これは本腰を入れて改善しなくてはという学校側からの強い依頼だった。
 夏休み前は「妊娠とは何か」「命を宿すことの重さと責任」「中絶のリスク」「10代は卵巣・精子ともに活動が活発で受胎しやすいこと」「ピル以外の避妊方法は100%避妊できず妊娠する可能性があること」、冬休み前は「性感染症の怖さ」「感染ルートや病気の症状や予防、治療方法」に触れる。
 性感染症に関しては100%予防できる方法はないこと、それゆえ、初対面の異性と安易に性行為することの怖さ、危険について話す。最初は「コンドームの話だろ。知ってるよ!」と言った学生たちのざわめき、にやついた顔も、講義が進むにつれて、静寂へと変わり、真剣に講義に耳を傾けるようになる。自分の知識が、意識が、いかにいい加減なものだったかを知るからだ。
 5年経って学校に変化が現れた。夏休みや冬休みの後、保健室の養護教諭のもとに「妊娠したかも?」「性器が痒い、痛い、性感染症かも?」と言った相談がなくなったのだ。
 正しい知識を与えることは、意識改革につながる。自分の体を大切にし、相手の体を大切にし、生まれてくる命の重さ、大切さを改めて考え、知ることになる。寂しいから、刹那的な思いから、好奇心から、動物的な感情から、自分だけよければよいという考えから行動する思いが、正しい知識をもつことで、より人間らしく、自分の人生、相手の人生、生まれ来る人生を大切にする思いに変わる。

 学校や施設での命の学習(性教育)の講演を行って思うことは、学校(施設)に通う子どもたちをよく理解した教師(職員)と専門職である助産師が1つになって、子どもたちに何をどのように命の大切さを伝えるべきかを真剣に話し合い、準備して、はじめて生きた性教育、意味のある教育となる。
 教師と専門職の知識、子どもたちを大切に思う気持ちが1つとなった命の学習(性教育)は、その後の子どもたちの一生を左右する大切な時間、光となる。

川島 智世かわしま ちよ

 助産師・看護師。八王子市在住 3児の母。
 徳島県立富岡東高等学校専攻科・徳島大学医療技術短期大学を卒業後、東京都立築地産院に勤務後、第1子出産を機に退職。1992年から市の妊産婦赤ちゃん訪問や地域で妊婦、産婦、育児相談・子育て講座・乳幼児の親子ふれあい教室などに力を注いでいる。2001年からは「命の学習(性教育)」特別講師としても活動する。2005年〜2010年子育て情報番組である『子育てパラダイス』(テレビ東京系列)に出演。育児雑誌の監修なども行っている。
著書:『生後すぐからできる赤ちゃんのリズム体操』(学研教育出版社)
   『産前・産後の「美ボディ」&「美乳」BOOK』(学研教育出版社)
HP:http://towani.sakura.ne.jp/

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