教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
板書を使ったSNS上での教材研究と授業改善の視点
山口県山口市立鴻南中学校大田 誠ほか
2015/8/15 掲載

 今回は、中学校数学科の大田誠先生(山口県山口市立鴻南中学校)、島尾裕介先生(鳴門教育大学附属中学校)、藤原大樹先生(神奈川県横浜市立神奈川中学校)、水谷尚人先生(国立教育政策研究所)の4名による対談形式でお送りいたします。

1 日々の板書を記録すること

水谷
デジタル機器の発達もあって、最近では手軽に板書を記録することができます。3人の先生方は日々の板書を写真で記録しているそうですが、それはなぜですか?
島尾
いつも写真に収めようと思っていると、下手な板書はできないという気持ちになります。また、同じ学年をもったときに、前にどんな授業をしたのかがわかって、よりよい授業を目指そうと思えます。
大田
同感です。単純に、次の授業で変えたいところがわかるのではないかと思います。
藤原
私は、板書の画像をその後の授業で指導に生かすことを考えています。例えば、前時の板書を電子黒板に映し、学んだ過程を振り返って本時の見通しにつなげるなどです。
島尾
確かに、過去の授業での板書画像を見せることで、新たな学びとつなげたり、学びの確認ができたりしますね。手法としてもっていると、よりよい授業ができそうです。
大田
前時の授業だけでなく、過去の授業の板書を振り返る際にも使えそうです。機器をスムーズに使えることも大切ですね。
藤原
板書の価値って大きいですよね。その価値を、生徒と一緒に実感したいものです。

2 板書で大切にしていること

水谷
先生方はSNS(Facebook)を使った「板書book」※というグループで、板書記録を使って議論しているそうですね。授業づくりという視点から、板書で大切にしていることは何ですか?
大田
授業の後半に「解決のコツ」「今日のポイント」などを発言させて書き残すように心がけています。次の板書は2年の「数と式」領域のものですが、文字による説明の後にコツを聞くと、生徒は「式から結論を読み取る」ことが大切だと述べていました。こういうコツを、少しずつシェアしたいです。板書1
藤原
私は、教師が提示するものも含めて、生徒にとっての問いを板書に残すようにしています。「なぜ今そのことを学ぶのか」に戻れるような板書が目標です。例えば、次の板書は3年の「数と式」領域のもので、授業中の生徒の疑問やわかったことを私や生徒が次々と書いていったら、このような板書になりました。板書2
大田
確かに藤原先生の板書には、生徒の疑問が残されていますね。「何を書くか」だけでなく、「いつ書くか」(タイミング)についてすごく考えさせられ、勉強になりました。
島尾
「板書book」を始めるまでは、(板書)=(ノート)という意識が強く、教師が書くことが多かったのですが、皆さんの板書を見て、生徒が書く場面や発言を拾って板書をすることを大事にしています。
水谷
藤原先生の板書記録のように、思考の過程についても順を追ってわかりやすく残すことができると、このとき何を考えたのか、どういう話し合いが進められたのかなどを見て取ることができますね。「解決のコツ」「今日のポイント」など授業のまとめとともに、生徒のノートに残すことができれば、後の学習でノートを見返すときにも役立つでしょう。また、生徒の考えなども拾いながら板書が進んでいけば、教室全体でつくり上げた授業が再現されるわけですね。主体的・協働的な授業づくりにおいても、板書の工夫はいろいろとありそうですね。

3 板書を基に教材研究することのよさ

水谷
「板書book」が始まって1年以上が経過したそうですね。「板書book」には、どんなよさがありますか?
藤原
居ながらにして多くの先生の授業展開が見て取れ、まさに「百聞は一見に如かず」です。授業づくりを真似できるうえ、生徒の考え、表現を見せてもらったり、授業者の先生とのコメントでとことん議論したりすることで、新たな気付きをもらえます。
大田
授業における導入の発問と、中盤から終盤にかけての発問のヒントがつかめると思います。だれもが扱っている問題の解決方法だけでなく、その学習の展開や、指導のコツなどが板書に隠されています。
島尾
多くの先生方は、なかなか授業やその板書を見る機会に恵まれていないのではないでしょうか。したがって、自分はちゃんと授業ができていると過信したり、きっと皆同じようにやっているに違いないと思い込んだりしてしまいます。そんな意識を変えてくれるのが「板書book」です。自分自身もこの「板書book」で板書が変わりました。
藤原
確かに、この授業で本当によかったのだろうか…と問い返すことが、我々教師は多いですよね。抱いた疑問や悩みに対してコメントを数多くしていただけるので、仲間意識や授業づくりへの活力も「板書book」から生まれている気もします。心強いですよね。
島尾
特別な授業だけでなく、知識・技能の指導の仕方など、普段の授業の工夫が見られるところがありがたいです。皆さん、教師主導で教え込むだけでなく、生徒に考えさせる工夫がされているんですよね。
大田
私なんか、よかった授業だけでなく、反省点の多い授業の板書の写真も投稿しています。気付かなかった視点に気付けることが多く、次の授業につなげることができるんですよね。
藤原
確かにそうですね。自分の成長のために板書の写真を投稿する…という気概のようなものが先生方から感じられます。

4 総括

水谷
数多くの授業を参観し、工夫された授業の考え方に触れるということは大切です。しかし、授業を直接参観できる機会は、それほど多くはありません。「板書book」を利用して、多くの英知に触れることができたり、板書を通して自分の考えを表現できたりする経験は、授業改善に大いに役立つでしょう。ノートが生徒の学習履歴を表現するように、板書は、教師の授業履歴を映し出すようなものかもしれませんね。記録を見て、その時間が生き生きと思い出されるような板書と授業づくりを目指したいものですね。

※「板書book」は、板書を基にした日頃の授業に関する情報交換を行うFacebookのグループです。Facebookで「板書book」と検索して参加要請ができます。
https://www.facebook.com/groups/530205720422592

大田 誠おおた まこと

 山口県山口市立鴻南中学校

島尾 裕介しまお ゆうすけ

 鳴門教育大学附属中学校

藤原 大樹ふじわら だいき

 神奈川県横浜市立神奈川中学校

水谷 尚人みずたに なおひと

 国立教育政策研究所

コメントの受付は終了しました。