教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
道徳教科化―答申の読み方
畿央大学大学院教育学研究科教授島 恒生 
2014/12/1 掲載

 平成26年10月21日、中央教育審議会は、「道徳に係る教育課程の改善について(答申)」(以下、「答申」という)を出した。

 昭和33年以来、道徳の時間を要とし教育活動全体で進めてきた体制は維持しつつ、道徳の時間を「特別の教科 道徳」(仮称)として位置付けるなど、道徳教育及び道徳の時間の充実を図ろうというものである。

 いじめの問題等、現実の困難な問題に主体的に対処することのできる実効性ある力の育成が必要というのが、今回の改善に向けた論議の始まりである。

 答申では、まず、人格の基盤となるのが道徳性であり、その道徳性を育てるのが道徳教育であるとし、児童生徒一人一人が将来に対する夢や希望、自らの人生や未来を切り拓いていく力を育む源となるものでなければならないと述べている。

 また、道徳教育は、児童生徒に特定の価値観を押し付けたり、主体性をもたず言われるままに行動するよう指導したりするものではないことや、ルールやマナー等を単に身に付けさせることではなく、発達の段階も踏まえつつ、ルールやマナー等の意義や役割そのものについても考えを深め、さらには、必要があればそれをよりよいものに変えていく力を育てることをも目指すものであるとしている。

 平成25年12月26日付けの「道徳教育の充実に関する懇談会」報告においても、道徳教育とは、「自立した一人の人間として人生を他者とともにより良く生きる人格を形成することを目指すもの」であると述べられている。

 以上の点を念頭に置きつつ、改めて答申を読んだとき、「自立」「主体的」「発達の段階」「内面的な資質・能力」などといった言葉が、キーワードとして浮かび上がってくる。

 すなわち、道徳教育においては、人として生きる上で重要な様々な道徳的価値について、児童生徒が発達の段階に応じて学び、理解を深めるとともに、それを基にしながら、それぞれの人生において出会うであろう多様で複雑な具体的事象に対し、一人一人が多角的に考え、判断し、適切に行動するための資質・能力を養うことを目指すということが、答申にはっきりと示されている。

 では、私たちは、どのように取り組んでいけばよいのか。
 答申では、道徳教育、なかでも道徳の時間の課題をいくつか挙げている。

○道徳教育の要である道徳の時間で、その特質を生かした指導が行われていない。また、各教科等に比べて軽視されがち。
○発達の段階が上がるにつれ、授業に対する児童生徒の受け止めが良くない。
○学校や教員によって指導の格差が大きい。
○読み物の登場人物の心情理解のみに偏った形式的な指導が行われる例がある。
○発達の段階などを十分に踏まえず、児童生徒に望ましいと思われる分かりきったことを言わせたり書かせたりする授業になっている例がある。

 これらへの対応が、道徳教育や道徳の時間の改善に向けた答申の趣旨を踏まえ、私たちが取り組んでいくべき課題である。では、具体的にどのように取り組むか。筆者なりに挙げてみた。

○「特別の教科 道徳」(仮称)の時間の特質をしっかりと押さえる。行動や姿の直接的な指導ではなく、行動や姿を支える内面的な資質・能力である道徳性を育てることで、自立へとつないでいく。
○子どもたちのよりよく生きようとする力を信じ、それを引き出す指導が実現できるよう、授業改革に取り組む。評価も、子ども一人一人のよさに注目して行う。
○発達の段階を押さえる。特に、該当の学年段階の内容だけを見るのではなく、9年間の流れの中で、その学年や発達の段階を考えて指導する。
○「特別の教科 道徳」(仮称)の時間での指導と、教育活動全体で行う指導とがきちんとつながり、補い合いながら深まりや広がりがもてるようにする。
○教職員がチームとなり、授業改革や道徳教育の推進に向かって一枚岩となって取り組む。
○地域の学校間のネットワークづくりや家庭・地域との協働を進める。

 これらを「みんなで」「楽しく」取り組むことがポイントである。すでに、中学校区で小学校と中学校の教員が集まり、子どもたちが心待ちにする道徳の授業づくりに取り組んでいる地域なども増えてきた。

 また、その取り組みの中で、考えさせる授業への変革が実現し、子どもたちが道徳の時間を楽しみにするようになった、学級経営が充実し学習態度や学力向上につながった、子どもたちが自立へと向かい生徒会などの特別活動が充実してきたといった報告や、生徒理解が進んだ、すべての生徒が活躍できた、教科の授業が変わった、授業について気軽に話せる雰囲気ができたといった報告なども届いている。

 子どもたちの自立に向け、プラス志向で「みんなで」「楽しく」取り組みたいと思う。

島 恒生しま つねお

奈良県公立小学校教員、奈良県立教育研究所教科指導部副部長を経て、現在に至る。
専門分野は、道徳教育、特別活動、学級経営

コメントの受付は終了しました。