教育オピニオン
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学級崩壊を乗り越え、本物の教師に
秋田県大館市立扇田小学校教諭間嶋 祐樹
2014/11/14 掲載

1.返ってこないあいさつ

 次の文章は,私のかつての教え子が書いたものである。

 間嶋祐樹先生が初任者時代のことである。
 「おはようございます」
 先生の第一声が教室に響く。しかし、それに答える子はほとんどゼロ。特に女子数名は、先生が入ってきてもお構いなしに騒ぐ。
 小学5年生になって1ヶ月が過ぎた頃、女子の中心的グループは間嶋先生に対して嫌悪感を示すようになった。彼女たちは、先生と仲良く話している子を目撃した途端、その子を嫌な目で見た。
 「あの人、先生にひいきしてもらおうと思っている」
 とんでもない誤解である。だがそれにもかかわらず、休み時間になるとありもしない噂をし始めた。私も先生に元気な声であいさつをしたとき、後でひどい目にあった。何も悪いことはしていないのにどうして?という複雑な思いになった。
 一方、間嶋先生は日を追うごとに元気をなくしていった。4月当初は、生き生きとした表情で教室に入ってきてたが、1ヶ月が過ぎると様子が変わった。沈んだ表情であいさつをする。声の調子と態度から判断し、精神的に辛そうであることを子どもながらに感じ取った。

 私が初任時代の話である。私のクラスは荒れていて、今でいう学級崩壊状態であった。今でもつらかったことを覚えている。学校に行くのが嫌で「やめたいな」と思うこともあった。原因は1つしかない。授業が下手だったのだ。年間に1000時間近くある授業。それがつまらなかったら子どもたちにそっぽを向かれるに決まっている。私の授業は完全に我流だった。我流でいいことなど1つもない。しかし、若い時分はわからないのである。授業にも原則があり、それを学ばなければならないということを知るまでに、何冊もの本が必要だった。

2.激変していたかつての担任教師

 それから、セミナーに出かけ、サークルの存在を知る。サークルでは模擬授業に明け暮れた。自分自身でセミナーを企画して事務局長としても学んだ。セミナー運営は配慮の連続で、今にして思えば学級担任としての力量形成がそこでなされたとも思える。 
 その後、7年が過ぎ、奇跡的な出会いが起きる。大学生となった教え子に再会したのだ。その教え子とは、上記の文を書いた子である。そして、次の文章もその子が書いたものである。

 大学1年の4月。間嶋先生に誘われてTOSSデーに参加した。参加する直前まで様々なことを考えていた。
 「厳粛なムードの勉強会だったらどうしよう」
 受付のところで,間嶋先生が出迎えてくれた。以前と変わらないはつらつとした感じだった。そのときの講座テーマは「発達障害についての基礎知識」だった。大学に入ったばかりでまったく知識がないにもかかわらず、間嶋先生の説明はとてもわかりやすかった。作業する場面も多く、最後まで飽きずに話が聞けた。最初に抱いていた不安はどこかに飛んでいた。20分間の講座の中で何度もほめられたのを覚えている。ほめられたのは私だけでなく、他の参加者も同様だった。心に染み込むようなほめ言葉が、次から次へと参加者に浴びせられた。本当にすごいと思った。

3.ほめてほめて、子どもを伸ばす

 若い教師は授業が下手である。当たり前だ。それが原因で教室が荒れる若手教師もいるだろう。悩むだろうし、教師という仕事に向いていないと考えるかもしれない。しかし、それは誰もが通る道である。本を読み、人と会い、授業を見てもらうことだ。そうすることで、教師としての実力がついていく。
 子どもはどんな教師が好きか。それは、自分を認めてくれる教師である。自分のよさを見つけてくれ、絶えず励ましてくれる、そのような教師が好きなのである。しかし、これは簡単ではない。なぜなら、人は他人の嫌なところに目がいきやすいからである。人のいいところは意識しなければ見えない。日頃から人のいいところを見る訓練をしていなければ,子どもをほめることはできない。
 様々な教師の研究授業を見て、教師がどのくらい子どもをほめるか調べてみた。その結果、45分間に平均で4回であった。これでは少なすぎる。子どもの行動が変容していくのは注意や叱責ではない。ほめることで、子どもの行動が望ましい方向に変容していくのである。
 ほめられることの少ない子どもはどうなっていくか。セルフエスティームが下がりやる気をなくしていく。「どうせだめだから」が口癖となり、教師に反抗するようになる。そうなってからほめても、素直に喜ばず、大人を信頼しなくなる。こうした情緒のねじれを解消するには、子どもにも教師にも多大なエネルギーが必要となる。
 ほめる習慣というのはすぐには形成されない。おすすめの方法は、学級通信に子どものよいところを載せることである。毎回これをネタにすると、子どものよい面に目を向けざるを得なくなる。若い教師にはぜひやってほしい教師修業である。どんな子だってほめてもらいたいのだ。そして、子どもはほめられて伸びていく。
 かつて「教師なんかやめたい」と思っていた私が、プロの教師の端くれとしてやれているのは、サークルで学び、その学びを続けているからである。「学び続ける教師だけが子どもの前に立つことができる」のである。若い教師へエールを送りたい。

間嶋 祐樹まじま ひろき

秋田県大館市立扇田小学校教諭

1970年生まれ。NPOあきた花咲く教師力ネット代表,TOSS東北中央事務局、TOSS秋田代表。

【主な編著書】『特別支援が必要な子との出会い準備ノート』(2009)、『どの子の活躍も100%保障!小学6年の参観授業づくり』(2009)、『酒井式:6時間以内で完成する題材パーツ2酒井式で描く“夏の題材”100選』(2002)(以上、明治図書)

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