教育オピニオン
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新たな国際理解教育における共創型対話の重要性
目白大学人間学部学部長多田 孝志
2014/11/1 掲載

 国際理解教育は人間理解・文化理解・世界の現実理解によって構成されてきたが、地球環境の悪化や所得格差の増大、貧困や人権問題など、地球的課題の顕在化を背景に、希望ある未来社会の担い手の育成を希求する「未来への提言」を究極の目標と位置づけるようになった。
国際理解教育の概念構成

図

 求められる市民像とは、端的に述べれば、世界がつながり、関連性をもって成り立っていることを認識し、多様な他者と共に生き、文化・価値観などの差異を丁寧に調整し、利害の対立等の困難さをなんとか克服し、持続可能で希望ある社会を構築し発展させる行動的市民(Active Citizen)像といえよう。

 グローバル時代の現実化に対応できる人間の形成において、きわめて重要なのは、対話力、ことに「共創型対話力」の育成である。筆者は、対話を、指示伝達型、真理探究型、対応型、共創型の4つに分類している。

 指示伝達型とは、上司から部下への上意下達のように、上下関係の対話であり、指示内容の正確さが重要となる。真理探究型とは、「生きるとは何か」といった真理を希求する対話の方法である。対応型とは商取引や国際交渉に典型的にみられるように、自利益追求を基調に妥協点を目指した対話のあり方である。

 それでは共創型対話とはどのようなものであろう。共創型対話とは文字通り、参加者が協力して、より良い結果を希求していき、その過程で創造的な関係が構築できる対話である。価値観や文化的背景が違う人々と、心の襞までの共感や、完全な理解をすることは不可能である。しかし、互いに、英知を出し合い語り合えば、むしろ異質なものの出合いによってこそ新たな解決策や智恵が共創できる、共創型対話はこうした考えに立っている。

 グローバル時代の共創型対話力の要諦は下記に収斂できる。

@対話とは「応答」である。相手の伝えたいことを的確に聴きとり、真摯に受け止める姿勢をもつ。聴くことが対話の基本である。
A自分の意見を相手に効果的に伝え、相手の関心を喚起させ、また説得・共感させる表現力をもつ。相手に分かりやすくするための他者意識、広義なサービス精神をもつ。
B民主主義社会では「意見表明の自由と情報提供の義務」がある。当事者意識をもち、主体的に参加していく姿勢を培う。
C批判や異見を恐れず、傷つかず、むしろ「多様なズレ」を受容し、活用し、新たな解決策や智恵を共創していく。
D言葉によらない対話力、多彩な非言語表現力を高める。
E相手の意見や提言などに反論し、異議を伝える胆力をもつ。率直な発言が信頼を得る。
F自己見解はしっかりもちつつ、納得できる他者の意見ならば、自分の意見を再組織していく順応性・柔軟性をもつ。
G混沌・混乱が創発の母胎であることを認識する。沈黙の効果を活用する。
H相対的見方、複眼的思考など、多面的・多角的な見方・考え方、組み合わせ、発想の転換、時間の活用など「さまざまな手法」を意識的に習得し、活用する。
I想像・イメージ力・響感力を高める。

 最後に上げた、共創型対話における想像・イメージ力・響感力の大切さについて補説しておきたい。対話とは、単に伝え合うだけでなく、通じ合い、さらに響き合い、創り合う活動である。自他共に相手の伝えたいことを感じ取る真摯な努力が必要である。相手の立場や文化的背景について推察し、イメージすることにより、完全な理解や合意形成ができなくても、相手の思いに響感することはできる。この響き合いをお互いに感得できるとき、人間同士としての親和感、信頼感が育まれていく。

多田 孝志ただ たかし

 目白大学人間学部学部長・教授、「教育の真実は現場にある」をモットーに、全国各地の教育実践者たちとともに、21世紀の新たな教育の創造を目指した活動に取り組んでいる。
(主な著書)
『学校における国際理解教育』(東洋館出版)、『「地球時代」の教育とは?』(岩波書店)、『地球時代の言語表現』(東洋館出版)、『未来をつくる教育 ESDのすすめ』(日本標準)、『対話力を育てる』『共に創る対話力』『授業で育てる対話力』(3部作、教育出版)他

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