教育オピニオン
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学力日本一・秋田県の「当たり前」とは?
秋田大学教育文化学部教授外池 智 
2014/10/1 掲載

 「何も特別なことはしてませんよ。当たり前のことをしているだけです。授業を第一に考え大切にしてるかな。」今年9月、学生の実中訪問の際、とある県下の小学校の校長先生に今年の全国学力・学習状況調査の好結果を受けて、何か秘訣はあるのですかと尋ねた時の返答である。

 周知の通り、現行全国学力・学習状況調査の2007年度開始以来、秋田県は「学力」トップの地位を走り続けている。今では、気恥ずかしくも「秋田詣で」という言葉もあるそうである。しかし、その秘訣を現場の先生に尋ねれば、ここの所、冒頭の様に「特別何もしていません」「当たり前にしているだけです」と返答されることが多い。この「当たり前」と認識されている秋田県下の教育現状に、ちょっと空恐ろしささえ感じる。小中そろって8年連続の好成績は尋常ではない。この「当たり前」の内実はどうなっているのか、特に今年の「児童生徒質問用紙調査」の結果から探ってみたい。

 まずは、「児童生徒質問用紙調査」から、「生活習慣」について。調査開始の2007年以来、連続して90%以上を示している主な項目は、「朝食を毎食食べている」「毎日、同じくらいの時刻に起きている」「ものごとを最後までやりとげて、うれしかったことがある」の3つである。開始当初から指摘されている子どもたちの生活習慣の確立、そして自己達成感の多さである。毎朝朝食をしっかり食べる、毎朝自分でしっかり起きる。まさに当たり前と言えば当たり前のことなのだろう。(しかし、筆者も高校生の子を持つ親であるが、高校生になった我が子を見ても、甚だ心許ない)。

 次に「学習習慣」について。全国との差が際立っていたのは、「家で自分で計画を立てて勉強していますか」(小6が80.6%19.6p差、中3が62.6%で16.0p差)、「家で学校の授業の復習をしていますか」(小6が90.7%で36.7p差、中3が84.4%で34.0p差)である。家庭学習での計画性の高さと、とりわけ復習の習慣化は驚異的な数字ともいえる。(先生も保護者も、小学生の内にこのような習慣ができれば羨望の対象であろう)。
 
 しかし、これもよく知られているが、「家庭学習ノート」のチェックなど、家庭学習を支える担任の働きによるところも大きい。「学校質問用紙調査」の結果においても、「家庭学習の取組として、児童生徒に家庭での学習方法等を具体例を挙げながら教えるようにしましたか」(小6が98.2%で10.0p差、中3が97.6%で12.8p差)「家庭学習の課題の与え方について、校内教職員で共通理解を図りましたか」(小6が96.3%で10.9p差、中3が93.6%で16.7p差)となっており、小中ともに家庭学習へのケアが100%近い数字で行き届いていることがわかる。小まめで丁寧な指導の積み重ねの結果であろう。

 次に「授業」について、まず%の高さでは「授業の始めに、目標(めあて・ねらい)が示されていたと思いますか」(小6が94.8%で12.8p差、中3が95.6%で24.1p差)が際立っている。先の校長先生の話ではないが、秋田県下の先生方は、授業を大切にしていると私も実感する。また、「授業」という行為は、「教育」という行為の一環であるが故に目的的行為である。秋田県の先生方が、授業の始めにしっかりと本授業の目標(めあて・ねらい)をしっかり示しているのは、その当たり前のことを着実に実現しているからであろう。ただダラダラとルーティン化した授業をするのではなく、この授業はこれをするのだといったメリハリがあるのである。

 また、次に%が高いのは「授業では、児童生徒間で話し合う活動をよく行っていたと思いますか」(小6が92.1%で7.2p差、中3が90.0%で14.7p差)である。教師と生徒間の関係性だけではなく、子どもたち同士のピア・エデュケーションの状況を授業の中に意図的に構成しているのである。これは、学びの関係性を多様化しているだけではなく、頻繁に発言、話し合いの機会を構成することで、言語活動の活性化と自己表現の機会をたくさん設けているのである。この点も見逃せない。加えて、単に発言、話し合いをさせているだけではなく、「児童生徒のよいところを積極的に認め、自己肯定感を高める働き掛けをしている」点も指摘されており、話し合い後のケアも忘れていない。さらに、授業の最初だけではなく、「授業の最後に、学習内容を振り返る活動をよく行っていたと思いますか」(小6が86.6%で14.7p差、中3が80.3%で27.0p差)の%、p差も大きく、授業のまとめもしっかりと構成され配慮されていることがわかる。

 以上、「児童生徒質問用紙調査」の結果を中心に、秋田の「当たり前」の内実を見てみた。この他「学校質問用紙調査」では、「一斉読書の時間を設定し、読書の習慣化」に取り組んでいる点、「教科の指導内容や指導方法に関して、小学校と中学校が連携した取組を行っている」割合が高い点、「将来就きたい仕事や夢について児童生徒に考えさせたり、職場見学や職場体験活動を行ったりしている」点は、全国を大きく上回っている。

 こうしてみると、秋田で「当たり前」のことは決して他地域では「当たり前」ではないといってしまえばその通りなのかもしれない。しかし、日々眼前の子どもたちと向き合っている先生方のそのまなざしと日々の取り組みこそが「当たり前」を導いているのではないだろうか。

外池 智とのいけ さとし

1963年 栃木県生まれ。
1988年 筑波大学大学院修士課程教育研究科修了後、栃木県の県立高校の教員となる。
2000年 筑波大学大学院博士課程教育学研究科学位取得修了。博士(教育学)。
現在 秋田大学教育文化学部教授。
専門領域 社会科教育学
研究領域 郷土教育、歴史教育、地域の教育資源を活用した教材開発、平和教育
著書 『地域からみた歴史教育―徴兵の実態と戦争―』(NSK出版)、『昭和初期における郷土教育の施策と実践に関する研究―『綜合郷土研究』編纂の師範学校を事例として―』(NSK出版)

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