1 若い人ほど本を読もう、外に出よう
せっかくの夏休みだ。本を読もう。外に出よう。
今から13年前。私は、山口県岩国市で新採教師であった。ハス田が広がる美しい町だ。夏休み前、同僚の先生に声をかけられた。「林君、一緒に行かないか?TOSSの河田先生って知ってるかい?すごい道徳の授業をするんだよ。1回は見たほうがいい」。同僚の先生にはいつもお世話になっていたので断われるわけがなかった。その先生と一緒に広島のセミナーに出かけた。
会場についてまずびっくりした。参加者はみんなスーツを着ている。それまでに参加した文芸研や個集研などの研修会では、多くの先生方はジャージや普段着であった。若い私は「スーツでかっこいいなぁ」と感激した。教師ってかっこいいなぁと思ったのはそのときが始めてだ。
研修の進め方もよかったと思う。「最初に主催者のあいさつがあります」とか「諸連絡が3つあります」などはなく、いきなり「第1講座」から始まるのだ。そして、河田孝文氏が登場した。パソコンを使い、レーサーの太田さんを扱った授業であった。講座を聞いていて涙が止まらなかった。体中が震えた。こんな授業を死ぬまでに1回でいいからつくってみたい、教室にいる子どもたちにこんな授業をしてみたい、と強く思った。私の教師人生を決めた研修会であった。
2 『教師修業十年』(向山洋一著・明治図書)と出会う
その夜。新幹線に乗り福岡に向かった。次の日、TOSSのセミナーが福岡であり、当日申し込みができると聞いたからだ。夜は、先輩と屋台でラーメンを食べた。酒を飲みながらその日に受けた河田氏の道徳授業について語っていた。「わたしもああいう授業をつくります!」と言っていた。
セミナー会場は博多駅の近くだった。会場につき、さらにびっくりする。大きな会場にあふれんばかりの人なのである。熱気にあふれていて「無理やり参加させられたんだよ…」という雰囲気は微塵もなかった。
向山洋一氏と出会ったのもその日だった。机と机の狭い通路を歩いていると、向こうから向山氏がいらした。「どうぞ」と私に声をかけ、ゆずってくれた。おそれ多くて何度も頭を下げた。会場の後ろには書籍がずらりと並んでいた。何も考えずに『教師修業十年』を買った。あとで、向山氏の処女作であることを知った。その本には向山氏がサインまでしてくれた。帰りの新幹線で『教師修業十年』を読んでみた。ぼろぼろと涙が出て、とまらなかった。教師の仕事ってなんて素敵なんだろうと思った。跳び箱が苦手な子が跳べるようになった、不登校の子どもが学校に来るようになった、日曜日だけが好きだった子が算数の問題で正解した…。その1つ1つのドラマに涙が出た。13年たった今でも何度も読みかえしている。
大学を出て、難しい採用試験にも合格してせっかく教師になったのだ。
教師は知的な仕事だ。「お薦めの本はありますか?」「憧れの教師はいますか?」と聞かれ、即答できる教師人生を送りたいと思う。指針とすべき本も先人もいない教師人生はあまりにも寂しい。夢や憧れ、ロマンがあるからこそ教師は楽しい。
3 サークルに入ろう
夏休み。TOSSサークルの門を叩いた。初日、こともあろうに遅刻。道に迷ってしまったのだ。おそるおそる岩国公民館の2階にあるドアを開けた。代表の南氏が「よく来たね」とおっしゃって、あたたかく迎えてくださった。わたしが提出した指導案にも先輩方は次から次にコメントしてくださったことを覚えている。2回目の参加では模擬授業に挑戦した。公民館近くの岩国小学校であった。模擬授業のために前に立つ。すると突然、目の前が真っ白になり、自分の声がはるか遠くから聞こえてくる感じがした。授業が終わり席にもどった。ところが、30分たってもまだ目の前が真っ白のままだった。
しかし、ワクワクした。2学期が待ち遠しかった。早く子どもに会いたかった。楽しい授業ができそうな気がしたからだ。あれから13年。2学期が今でも待ち遠しい。子どもの声が待ち遠しい。本を読む、研修会に出かける、サークル入る。その積み重ねが明るい教師人生を創ってくれると信じている。

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- 駒井隆治
- 2014/9/15 13:21:51
「夢や憧れ、ロマンがあるからこそ教師は楽しい。」と語る言葉に希望をもちました。真摯な努力を積み上げている先生ならではの言葉です。若い先生方にも読んでいただきたいと思いました。中堅教師としてご活躍されているこの先生に続く若い先生が増えると思うからです。