教育オピニオン
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キー・コンピテンシーの核となる「考える力」を育む
神戸学院大学教授立田 慶裕
2014/7/4 掲載
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キー・コンピテンシーとは何か

 グローバル化や技術革新が進み、社会や企業が大きな変化をし、その変化の速度が増す中、各国の状況を越えて共通する人間の基本的能力はあるのか。また、各国の産業、文化、教育ごとに求められる能力にはどのような違いがあるのか。

 この問いに国際機関として答えるため、経済協力開発機構(OECD)は、1990年代以降に教育研究部門の拡充を行い、この国際的課題に本格的に取り組み始めた。ナレッジ・マネージメントや脳科学の国際的共同研究に加え、国際的な能力測定を目的として成人のリテラシーやライフスキルの調査研究、国際生徒の学習到達度調査(通称 PISA)を開始し、リテラシーや数的思考力、科学的リテラシーといった基本的な能力測定研究を開始した。同時に、90年代後半から今世紀初頭にかけて、今後の世界で共通に必要とされる能力や学力の概念の整理を総合的、国際的に行う「コンピテンシーの定義と選択;理論的・概念的基礎」プロジェクト(通称 DeSeCo デセコ)を行った。

 DeSeCoの共通認識は、これまでの知識や技能の習得に絞った能力観には限界があり、むしろ学習への意欲や関心から行動や行為に至るまでの広く深い能力観、コンピテンシー(人の根源的な特性)に基礎づけられた大きな教育計画の必要性である。私たちは、読み、書き、計算する力という基礎的な学力とは別に、どんな能力(コンピテンシー)を身につければ、人生の成功や幸福を得ることができ、社会の挑戦にも応えられるのか? その時代や状況に応じてどんな能力(コンピテンシー)が重要となるのか? この広い問いに答えるため、プロジェクトでは教育の分野の専門家に限らず、経済や政治、福祉を含めた学際的領域の専門家とその概念定義を行い、OECD12の加盟国との協働によって進めた。

 その結果特に重要な鍵となる力がキー・コンピテンシーと呼ばれることとなった。それは、3つの力と下位の3つの能力から構成されている。@自律的に活動する力(展望力、物語力、表現力)、A道具を相互作用的に用いる力(言葉の力、科学的思考力、テクノロジー活用力)、B異質な集団で交流する力(対話力、協働力、問題解決力)の3つであり、その核となるのは、考える力である。キー・コンピテンシーは、知識やスキルといった個別の限定的な能力観ではなく、人間の発達に沿った長期的な観点と集団との関係や多様な教科間にわたる広い能力という視点に立ち、さらに動機付けから専門的な知識と技能の習得にいたる深さをもった学習の力として、心身一体的で全体的な(ホリスティック)力としてされている。

図

キー・コンピテンシーをどう考えるか

 教育者にとって、キー・コンピテンシーは、
 @今後の社会で子どもや大人に必要とされる資質や能力は何か、
 Aその育成のために学校や地域社会、企業、家庭はどのような教育を行えばよいか、そして、
 B教員をはじめとする教育者にはどのような指導力が求められるか、
 という問いの基本的前提となる考え方である。ただ、OECD がまとめたこの国際的に標準化された概念定義に必ずしも各国は従う必要はない。たとえば日本は、学習指導要領の中核となる概念、「生きる力」に対応するものとしてキー・コンピテンシーをとらえているし、近年では米国やオーストラリアがICT産業の力を背景に「21世紀スキル」という概念を提起したり、ヨーロッパも独自の「キー・コンピテンス」の提唱を行っている。そこに共通する新たな能力概念の特徴は、ICTスキルや協働学習の力の強調であり、キー・コンピテンシーでいえば、道具活用力や人間関係の力である。

 こうした概念を測定する代表的な国際調査、2015年のPISAでは、「協働型問題解決」コンピテンシーがリテラシーやニューメラシーと共に測定される。「協働型問題解決」のコンピテンシーとは、「2人以上の力で、その課題達成に必要な知識やスキル、努力を蓄積し、解決に求められる理解と努力を共有しながら、問題を解こうとするプロセスに個人が効果的に関われる能力」である。理解を共有しながら、問題解決に適切な行動を取り、チームを作り維持していく力となる。ICTを活用した問題解決を協働的な学習環境でどう行うかという問題状況が設定される。

 ともすれば、個別のスキルや知識の習得が強調される学習環境の中で、協働性や自律性、そして道具を活用する力を育てることが、社会の発展や個人の幸福につながることを示した DeSeCoの功績は大きい。しかし、私たちは、キー・コンピテンシーを参考としながらも、変化する時代や社会の中で生きるために必要な力が何なのかを常に考えていくことが求められる。キー・コンピテンシーの核となる「考える力」を生涯にわたり学び、生活実践に活用できる優れた学習環境の形成が今後の社会に求められている。

【参考文献】
立田慶裕著『キー・コンピテンシーの実践』2014、明石書店

立田 慶裕たつた よしひろ

大阪大学大学院人間科学研究科後期課程単位取得退学。大阪大学助手、東海大学講師・助教授、国立教育政策研究所総括研究官を経て、現在、神戸学院大学人文学部教授、国立教育政策研究所名誉所員。専門 生涯学習論、教育社会学。

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