教育オピニオン
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学校と教師を活性化する指導主事
国立教育政策研究所総括研究官千々布 敏弥
2013/11/1 掲載
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  • 教職課程・教員研修

指導主事は不要?

 指導主事の姿は多様だ。用意した原稿を読み上げるだけの指導主事、課題だらけの授業に対して褒め言葉しか語らない指導主事、授業とは関係ない学習指導要領の原則論だけを語る指導主事など、指導主事に関する苦情をよく耳にする。指導主事と直接話すと、議会対応などのデスクワークに追われ、教科の勉強ができない嘆きが語られる。

 指導主事の現状に変えるべき課題があるのは確かだろう。だが、指導主事が不要ということにはならない。「指導主事1人で教師10人分の成果が出る」と語る教育委員会関係者もいる。指導主事の仕事の何が効果があり、何を変えないといけないのだろうか。

 指導主事の主たる業務は教育課程に関する指導である。学校を訪問してカリキュラムを確認すると同時に授業を参観し指導している。指導主事が訪問する際に授業研究を実施している学校もある。授業研究の姿は学校によって異なっている。年に2回しか授業研究を実施しない学校がある一方で、毎月授業研究を実施している学校もある。授業者が指導案を当日印刷する学校、1ヶ月前から指導案検討を開始し、学年会や全体会で練りあげている学校、事後協議会が夜遅くまで続く学校、30分で切り上げられる学校、ワークショップ方式で協議している学校、全教員が輪になって協議している学校、さまざまである。

指導主事の訪問指導と授業研究の関係性

 私は2010年にそのような授業研究の諸相を全国調査した。すると、授業研究を校内研究の一環として実施している学校が多いこと、授業研究の取り組みが教員間のコミュニケーションや授業の水準向上に影響していることなどが明らかになった。

 教師の授業力量を上げる方策は多様に考えられるが、授業研究による授業力量の向上は多くの教師を対象にしたインタビュー調査や質問紙調査で支持されているところだ。これまでの先行研究は教師の自己評価で授業研究の有効感を示していたが、私の調査は授業研究と教師の授業力量の相関関係を明らかにした。さらに私の調査が示したのは、授業研究の取り組みを活性化させるのに指導主事の訪問指導が有効に機能していることである。

 そこで、都道府県教育委員会を対象に学校訪問の実施状況を尋ねてみた。すると、所轄下の学校を毎年訪問している、数年に一度訪問している、計画的な訪問はせず要請に応じて訪問しているという3種類の訪問形態に分かれていた。その3種類の都道府県間で授業研究の実施状況を比較すると、毎年訪問している都道府県の授業研究の実施状況が最もよく、計画的な訪問を行っていない都道府県の授業研究の実施状況はよくなかった。

学力調査トップ・秋田県の指導主事訪問

 所轄下の学校を毎年訪問している都道府県の1つである秋田県の教育事務所の訪問指導に同行した。秋田県は全国学力調査でトップの成績を示すだけでなく、授業研究の実施状況もすぐれている。秋田県の教育事務所は、目的に応じて所轄下の学校を複数回訪問している。いずれの訪問でも指導主事は複数でチームを組んで訪問している。

 私が同行したとき、指導主事たちはまず校長室に入り、学校経営方針と校内研究計画の説明を受けた。その後校長の先導で校内を視察してまわった。一教室は5分程度で移動していた。その後研究授業を2時間かけて参観していた。最初の時間では2教室で実施された算数の授業、次の時間では国語と理科の授業が行われた。それぞれ専門の指導主事が授業を参観していた。

 協議会は算数の協議会、国語と理科の協議会が1時間ずつ行われた。それぞれ教科専門の指導主事が協議の最後に講評を伝えていた。最後に主任指導主事が通常授業を参観した感想を全教員に伝えていた。県教育委員会は年度当初に指導主事会議を開催し、重点目標と指導方針を確認している。協議会の中では各グループに県と教育事務所が作成した指導文書が置かれていた。指導主事チームは県としての方針のもとに、実際の授業に即した指導を行っていた。

 秋田県の教育事務所訪問を参観した際、板書スタイルがどの教室でも統一されていた。学校としての板書マニュアルを作っているとのことだったが、県としても板書の基本方針を定めていた。初任者研修等で板書の方法をきちんと指導しているらしい。

 指導主事がきちんと学校を指導することで、授業研究が活性化し授業力量が向上するメカニズムが働いている都道府県が存在する。そうでない都道府県も存在する。 

千々布 敏弥ちちぶ としや

国立教育政策研究所総括研究官
昭和36年12月 長崎県生まれ
平成2年九州大学大学院博士課程中退、文部省入省。その後私大教員を経て、平成10年に国立教育研究所(現・国立教育政策研究所)。平成18年より総括研究官。
平成12年の間、内閣内政審議室教育改革国民会議担当室併任。平成15年の間、米国ウィスコンシン州立大学へ在外研究。
平成18年度教員免許更新制の導入に関する検討会議委員、学校評価の推進に関する調査研究協力者会議委員、平成19年度指導が不適切な教員に対する人事管理システムのガイドラインに関する調査研究協力者会議委員、平成20年学校の第三者評価のガイドラインの策定等に関する調査研究協力者会議委員、平成25年カザフスタンナザルバイエフインテレクチュアルスクール授業研究アドバイザー
単著『日本の教師再生戦略』教育出版 2005
単著『スクールリーダーのためのコーチング入門』明治図書 2007
編著『教師のコミュニケーション力を高めるコーチング』明治図書 2008

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