教育オピニオン
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権威を振りかざさない中学生との関係づくり
長野県駒ヶ根市立赤穂中学校教諭垣内 秀明
2013/8/15 掲載

1 中学生の姿

 6月末の参観日、担任している中学1年生の保護者からいただいた手紙を紹介する。

 参観日、ありがとうございました。国語の授業と聞き、正直、退屈なのかなあと思って行きました。しかし、クラスに入ってビックリしました。みんな先生の質問に対して「ハイ! ハイ! ハイ!」と大きな声を出して手をしっかりと挙げている子が何人もいました。我が子も控えめではありましたが、手を挙げていました。そんな6組の姿に感激しました。
 3年まで、こんなすばらしいクラスでいて欲しいなと思いました。

 中学校に入学し、3ヶ月が過ぎようとしていた。中学1年生だからこのような姿が見られたのかもしれない。私もそう思う。しかし、同じ3ヶ月でも、このような姿が見られない学級もある。だから、この保護者は、クラスの生徒の姿に驚き、感激して帰っていったのではないだろうか。私は、このような学級集団を中学校でも育てたいと考えている。保護者が手紙に書いているように、この姿が3年生まで続くようにするのが私の仕事だ。

2 中学生の力を引き出す「伸び伸び」

 中学生には力がある。その力を、発揮させるのが私の仕事だ。その力を発揮出来る学級集団を育てれば、教科担任制の中学校でも、はじめに紹介した手紙に書かれたような授業が出来るのではないだろうか。
 それを可能にするために必要なキーワードは、

「伸び伸び」

である。
 クラスの生徒全員が「伸び伸び」とした学級を育てたい。それは「自由な表現が誰でもできる」学級である。そのような学級を育てるには、何を、どれだけやればよいのだろうか。私が、これまでの中学校の実践を通して学んだことは次の3つである。

  • 教師が権威を振りかざさない。(常に笑顔で生徒に接する)
  • 子どもの3倍動く。(清掃・給食の配膳など生徒の3倍動く)
  • 教師が言ったことは自分でやってみせる。(中学生があこがれる大人となる)

(1)教師が権威を振りかざさない

 毎朝、生徒に会うと笑顔でおはよう、とあいさつをする。教室に入るときも笑顔であいさつしてから入る。授業も笑顔で行う。いつでも笑顔で生徒に接するだけで、生徒は安心する。しかし、中学教師は、いつでも笑顔でいることが苦手なようだ。いつも笑っていれば生徒からなめられると考えているのかもしれない。

(2)子どもの3倍動く

 教師は子どもの3倍動く。埼玉の中学教師、長谷川博之氏から教えていただいた。給食の配膳では誰よりも多く配る、清掃では生徒より早いスピードで雑巾がけを行い机を運ぶ、など生徒の3倍動く。私は、毎朝、生徒玄関の清掃を行う。登校した生徒におはようと笑顔であいさつする。雨の日は、傘をキレイにまいて傘立てに並べる。そんなことも行っている。生徒は、そういった教師の姿を必ず見ている。そこから、教師への信頼と権威が生まれる。

(3)教師が言ったことは自分でやってみせる

 教師は、生徒に言ったことを自分でやってみせる。「日記を毎日書きなさい」と言えば、毎日自分も学級通信を書く。毎日生徒の日記に誰よりも熱心にコメントを書く。このような教師の行為の先に信頼と権威がある。

3 教師の権威は生徒・保護者の内から生まれる

 私たち教師には大きな勘違いがある、と思っている。
 教師になったとたん、保護者から「先生、先生」と言われ、生徒からも「先生、先生」と頼られる。また、教師に反抗的な生徒がいれば、「お前よりもおれは権力を持っている」といった高圧的な対応をする。多くの教師は、権威がはじめからあるもののように勘違いしているのではないかと思うことがよくある。
 私たち教師が忘れてはならないことの1つに、教師の権威ははじめからあるものではない、生徒や保護者と関わりながら生まれるのであり、教師の権威とは生徒や保護者の内から生まれるものである、ということだ。
 しかし、このように考えて行動するのは難しいことでもある。大きな声で怒鳴っても言うことを聞かない生徒たち。教師が感情的になり、顔を真っ赤にして何かを訴える。しかし、その様子がおもしろくて、わざと教師を怒らせ、喜んでいる生徒たち。同じことを何度言ってもやろうとしない生徒たち。
 このような生徒を目の前にして、笑顔で、生徒に対応し続けることは実に難しい。こんなことをしていては、生徒になめられると思うのが当たり前だ。
 しかし、私たちは教育のプロである。このような生徒を成長させるのが私たちの仕事である。それには、教師としての力量と共に、教師の人間力を磨かなくてはならない。
 教師が、どのような生徒の姿にもビクともしない人間力を身につけないかぎり、生徒・保護者からの権威も生まれず、伸び伸びとした学級などできるわけがない。

4 教師の人間力を向上させる

 教師も人間である。落ち込むこともあるし、くさるときもある。泣きたいときもある。自分の実践がうまくいかず、学校へ行くのが辛いときもある。しかし、そのような教師は自分だけではない。多くの教師が、たくさんの失敗を通して、現在に至っている。生徒から反抗され、無視され、卒業まで関係がつくれずに終わることもある。学級の生徒が好き勝手に行動し、教師の言うことを全く聞かないこともある。保護者からのクレームに追われることもある。こういった出来事は、教師としての自分、人間としての自分をさらに成長させるために起こっている。
 しかし、このような思いだけではどうにもならない。先人の多くの知恵を学ぶことだ。これが一番よい道だ。セミナーに参加し、多くの本を読み、そして、どんな小さなことでもやってみる。そして、それを続けることだ。100回や200回の失敗は当たり前、1000回でもチャレンジしてやる!という覚悟を持って進みたい。
 セミナーに参加し、本を読み、スキルを身につけると共に、その考え方(思想)を学ぶことになる。「失敗→学び→改善し実践→失敗→学び→また改善」この繰り返しだ。

垣内 秀明かきうち ひであき

長野県駒ヶ根市立赤穂中学校教諭
1965年長野県生まれ。関東学院大学工学部機械工学科卒業。TOSS中学信州代表。長野県飯田市立緑ケ丘中学校3年、長野県天龍村立天龍中学校4年、長野県立若槻養護学校3年、京都大学教育学部内地留学1年、長野県高遠町立高遠中学校6年。長野県辰野町立辰野中学校7年。
【主な著書・共著書】『愛読される学級通信:中学編』(2010年)、『中学生がやる気を出すトリガーフレーズ』(2011年)、『中学学級経営 生徒と絆をつくる基本キー』(共著)(2005年)(以上、明治図書)

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