- 教育オピニオン
- 総合的な学習
汎用性のある学習道具
デジタル端末の一人一台の導入が全国的に進み始めている。デジタル端末のよさは、どの教科・領域でも活用できることである。これまでも、児童が学習道具として一人一つずつ所有しているものはいろいろあった。例えば、鍵盤ハーモニカやリコーダー、絵の具、習字道具、裁縫道具などである。それらとデジタル端末との決定的な違いはなにか。それは、汎用性である。どの教科・領域でも活用ができるということである。既存の学習道具に例えるなら、筆箱に近い存在である。
総合的な学習が変わる5つのポイント
私は、附属新潟小学校で、一人一台のデジタル端末を活用した総合的な学習の研究をすすめる予定である。そこで、総合的な学習の視点でデジタル端末のよさの例を挙げてみたい。私が思うに、総合的な学習とデジタル端末は、非常に相性が良い。なぜならば、総合的な学習で最も重視されているキーワードである「探究的な学習」を充実させ、「協同的に取り組む態度」の育成に効果があるからである。そこで、その2つの視点から、総合的な学習に「効く」5つのポイントを整理して示していく。
「探究的な学習」は、「課題の設定」、「情報の収集」、「整理・分析」、「まとめ・表現」の4つの過程で成り立っている。これは、「探究のサイクル」とも呼ばれる。デジタル端末を使うことで、特に、「情報の収集」の過程と、「まとめ・表現」の過程が充実する。
- チームでの取材活動のポイント(情報の収集)
- デジタル端末は、協同的に取材活動に取り組む上で、効果を発揮する。チームで役割分担を行い、取材する人とビデオ撮影をする人に分けて取り組ませるのである。こうすることで、協同的に関わる必然性が生まれる。一方で、取材をしたビデオ記録は、後で何度でも見返し、内容を確認することができる。さらに、まとめの活動でプレゼンをつくる時にも活かすことができる。
- 実際に現場を訪れて行う調査活動のポイント(情報の収集)
- 対象(もの)を調査する場合、そのものがある場所に実際に出向いて写真を撮ることが望ましい。デジタルカメラでも可能であるが、一人一台のデジタル端末があるとやはり便利である。なぜなら、撮った写真を、その後アプリで編集することが容易だからである。また、大きな画面であることは、協同的に学習を進める上でのメリットとなる。通常のデジカメでの写真撮影は、個々の児童の活動になりがちだが、デジタル端末は、対象にかざして友達と一緒に画面を見ながらアングルを相談して撮ることができる。ここでも、協同的なかかわりが生まれるのである。
- インターネットでの調査活動のポイント(情報の収集)
- インターネットでの調査活動も、総合的な学習ではよく行われる。デジタル端末があり、教室に無線LAN環境があれば、PC室に行かずともインターネットでの調べ活動がいつでもできる。一般にインターネットでの調査は、時間と場所を選ばないことが重要である。調べたいことが起きたとき、その場でその時に調べることで最も大きな効果を生み出すことが多い。そんな、いつでもどこでもインターネットができる総合的な学習の授業が、デジタル端末によって実現する。
- SNSでの双方向コミュニケーションのポイント(情報の収集)
- インターネット上には、ボランティア活動をしてくださる優れた協力者が多数おられる。また、日頃お会いすることが難しい専門家の方々とも、SNSを用いるとつながることができる。事前に「ネット学習サポーター」をお願いした方々に、SNSを通して交流していただくことで、子どもたちは、自分たちの情報を発信するよさに気付き、ネット上のコミュニケーションを通して新たな情報を得ることができる。
- プレゼンテーション活動のポイント(情報のまとめ・表現)
- 自分たちの調査結果をまとめる活動は、総合的な学習には欠かせない。紙でポスターやリーフレットにまとめるといった活動にもよさがあるが、デジタル端末を用いることで、プレゼンテーション画面にまとめるという活動の選択肢が生まれる。特に、一人一台のよさは、プレゼンテーション画面の作成を一人一人が簡易に行うことができる点にある。さらに、まとめ成果物は、全体に対して、順番にプレゼンテーション大会をするのもよいが、デジタル端末の場合、一人一人がプレゼンにまとめることができるので、それを用いて、ワールドカフェ方式で、ミニプレゼンをさせ合うこともできる。
知見を共有しよう
今回取り上げた、総合における5つのポイントは、デジタル端末のよさのほんの一端である。それぞれの教科・領域には、必ずタブレット端末を活用するとよい場面がある。大切なことは、デジタル端末は、汎用性の極めて高い道具であることをしっかりと認識し、それぞれの教科・領域の特性にあった活用をすることだ。そして、互いに情報交換をし、自らの実践によって得た知見を研究者、実践者問わず、教育関係者間で共有する仕組みを作ることである。私が会長を務める日本デジタル教科書学会は、そんな場の柱の一つとなるために生まれたとも言ってよい。ぜひ、活用いただきたいと思う。