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子どもたちが元気に校庭を走りまわる。子どもたちがみんなで運動をしている。いつ見てもわくわくさせられる光景ではないだろうか。額に汗をにじませ、笑顔いっぱい、ときには真剣なまなざしで思い思いに体を動かしている。自由で気ままではあるけれど、そんな子どもらしい環境をいつまでも保ってあげたい。私はそのような素朴な思いから、コーディネーション運動に取り組んでいる。
私たちは運動をするときや体を動かすとき、神経系、呼吸・循環器系、筋・骨格系を必ず使っている。コーディネーション能力は、神経系と密接な関係にあり、「巧みさ」に関連する能力である。
ベルンシュタイン(1967)は、「巧みさ」とはあらゆる状況ならびに条件下において、解決策となる運動を見つけることであると同時に、制御の機能であり、その実現には中枢神経系が最大の役割を果たすとしている。シュナーベル(1989)によると、コーディネーション運動は、筋―神経系の協調性機能を開発・改善するもので、身体運動や動作習得を円滑に行なうために、神経や筋肉群を同時的・共同的使用を可能にする運動と定義されている。全身の筋―神経系を使いながらの間欠的運動要素を含んだダイナミックなコーディネーション運動は、中枢神経系のネットワークを強化するだけではなく、筋組織や呼吸循環器系への刺激にもなるという報告もある(ラッハ・サドウスキー:2005, チンマーマン他:2002)。
神経系が著しく発達する時期は、児童期であり(スキャモン:1928)、特に児童後期は生涯の中で最も速く運動技能を学習する時期(即座の習得)と言われている(マイネル:1956)。運動技能を学習する段階は、行動的把握(動いて学ぶ)→映像的把握(見て覚える)→記述的把握(言葉で学習する)をたどりながら進んでいく(ブルーナー:1966)。あるいは、試行錯誤→意図的な動き→動きの自動化という過程を踏むと言われている。つまり、動くことから始め、失敗したり成功したりしつつ、動きのイメージを持つようになり、コツをつかみ、最終的には意識しないで動けるようになるということである。
心理的側面で言うと、子どもたちはもともと動くことや運動が大好きである。この動くことや運動する欲求は、生理的欲求(マズロー:1965)であり、最も低次の欲求に位置する。この欲求が満たされないとより高次の欲求へはなかなか進めないとも言える。欲求が満たされると、動機づけがさらに高まる。したがって、子どもたちが自由に伸び伸びと運動をする時間や空間を確保することは、心身両面の健全育成において極めて重要であることが理解できる。
このような背景において、私たちはコーディネーション運動が果たす役割を、脳活性、言語習得、社会認知能力といった視点からも研究を進めている(科研基盤C:21500604)。この中で、運動の種類によって脳の活性部位が異なることとともに、コーディネーション運動が、情動面を司る部位に影響を与えることが分かってきた。また、対人関係など社会認知機能においてもコーディネーション能力との関連が明らかになってきている。私たちは、科学的根拠(エビデンス)に基づき、安全で楽しいコーディネーション運動の実践を目指している。