教育オピニオン
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我が校の身の丈に合った校内研修
岡山県真庭市立月田小学校教頭小林 幸雄
2012/11/15 掲載

1.我が校の日常的な光景
 昨日も夕闇迫るころ、一人の女性教師から研究授業の指導案について相談を受けていた。
 既に彼女は、これまで自主研修で模擬授業を3回行っていた。さらに本番の研究授業まで、あと2回模擬授業を行う予定である。
 放課後、模擬授業が自主的に開かれる。
 自主研修であるから強制ではない。その時々で参加のできる教師が参加するのだ。
 ある時は、校長先生、養護教諭、1年の担任、それに私の4名が子ども役として児童机に座る。模擬授業の際には、途中で自由に口を挟む。代案をその場で示す。一つの授業行為を体で覚えるため繰り返して見せることもある。それを見て、できるまで授業者が繰り返す……。
 時には、校長先生から「もっと子どもをほめてよ〜」と明るい檄が飛ぶ。
 このようなことが日常的に行われるようになったのは、本校に赴任して3年目になってからである。
 授業の質は、長々と指導案の検討を行っても、ほとんど代わり映えしない。言うなれば「料理のレシピ」の検討会を熱心にやっているようなものだ。あれこれと口上を述べるまでもなく、実際にやってみればいいのだ。料理を実際に作ってみせるように、授業をして見せれば、どれほどのものかはすぐに分かる。
 模擬授業に参加している同僚には、授業を受ける子どもの心理が痛いように伝わってくる。発問、指示が的確かどうか、授業の流れが不自然ではないか、先生がほめてくれて嬉しいなど、感覚的に分かるのである。
 まさに模擬授業でなければ分からない空間である。

2.平成24年度のスタートはかくのごとし
 年度始めの学級開きこそ大切な節目である。長々と職員会議をしている暇などない。今年度本校では、1時間半の会議を2日行った。それですべて会議は終了である。
  2日目の会議が終わったあと、最初の校内研修が早々に開かれた。内容は、以下の3点である。

 @ 学習規律「算数のノート指導」
 A 黄金の3日間〜統率力〜
 B 教材の使い方〜ユースウェアについて〜

 全て小林が担当させていただいた。全て模擬授業形式の講座である。
 ちなみに始業式は4月6日(金)。第1回の校内研修は4月4日(水)であった。
 このような全員研修が年度初めに早々に行われる学校は珍しいのではないだろうか。
 しかし、これは、極めて大事なことなのだ。なぜならいったん授業開きが行われると、クラスごとにノート指導の仕方がバラバラになってしまう。後で修正を加えることは非常に難しい。下手をすれば、教師の権威が失墜する危険性も孕んでいる。
 このことは職員の方から出た要望でもある。そこで、全校をあげ同じ方針で「算数のノート指導」を行うために、先の第1回の校内研修が開かれたのである。

3.月田小の「ノート指導7ヶ条」
 ちなみに、今年度の研究テーマは以下の通りである。

  『どの子もわかる・できる喜びを保障する算数授業』
     〜ノート指導の徹底、時間内に習熟を図る工夫〜

 さらに月田小の「ノート指導7ヶ条」を明らかにし、保護者にもその趣意説明を行った。以下に示す。

(1) ノートはゆったり丁寧に大きく書く。
 ・上下1〜2行は必ずあける。隣の問題どうし、指2本程度の間隔をあける。
 ・分数は、罫線を使い、2行で書く。
 ・指は、第二の脳と言われる。筆圧を高く、大きな数字をていねいに書かせることで脳 が刺激される。
(2) ミニ定規を必ず使う。下敷きも必ず敷く習慣をつける。
 ・学力の高いクラスでは、必ずと言っていいほどミニ定規を使わせている。
 ・ひっ算の横棒、+、−、÷、×、=、分数の横棒など、ミニ定規で書かせることで丁寧さを子どもたちは身につけていく。
(3) 補助計算を、はっきり大きく堂々と書く。
 ◎補助計算は算数の苦手な子の味方である!
 ・公式もいちいち書かせる。
 ・計算途中の繰り上がり、小数点の移動を表す矢印なども書かせる。
 ・途中の計算過程を省かないように書く。
(4) 日付、教科書のページ、単元のタイトル、問題番号などを必ず書く。
 ・基本的に、毎時間、新しいページを使用する。このことは教科を問わず、大切なことである。
 ・いつ、どのページの問題をしたか一目で分かるようにするためである。
(5) 鉛筆を必ず使う。
 ・B、2Bなどの柔らかい鉛筆を使う。シャーペンは便利な道具ではあるが、折れやすく、折れるたびに思考が途切れるので、小学生の学習には不向きである。
(6) 消しゴムは、基本的に算数の時間は使わない。
 ・消しゴムで消すとそれまでの思考の跡が見えなくなり、どこで間違えたのかわからなくなる。また、消す作業に時間がかかり、無駄な時間が生じてしまう。さらに問題な点は、きれいに消しにくいため、部分的に数字や語句が交じり合い、より一層混乱してしまう。このことは、学習の大きな妨げである。「ノートに×が多い子は、お勉強ができるようになります!」と声かけしてやるとよい。
(7) 赤鉛筆を必ず使う。
 ・赤鉛筆は、○つけ、色塗りなど、赤ペンにはできない作業ができる。授業に必須の筆記用具である。

4.身の丈に合った実りのある研修を……
 遠大な研究テーマを掲げて取り組む研究があってもよいだろう。
 しかし、我が校は、毎日の授業に生かされるような研修にしたい。研究というより研修に重きを置いた内容である。
 言うなれば身の丈に合った研修である。新しい研究を切り開くという視点には欠けるが、目の前の子どもたちが生き生きした表情で「わかった!できた!」という思いを日々感じられることを願っての遅々たる歩みである。
 しかし、子どもたちのノートが明らかに変わっている。どの子のノートを見ても、昨年度までとは雲泥の差である。
 全員が、同じ方向で進んでいる証でもある。
 現在、いじめ問題がマスコミで取り上げられない日はない。
 尊い命をなくしてしまう。それほどまで追い込まれてしまう心境。教職に身を置く者として深い悲しみを感じる。と同時に重い責任を感じる。
 いじめ、けんか、学校生活上のトラブルなど元根本を探れば、「授業の質」に負うところが大であるからだ。
 日々の授業、毎時間の授業の質が向上しない限り、難しい課題なのである。
 そのためにも実りのある校内研修にしたいものだ。

小林 幸雄こばやし ゆきお

1958年岡山県津山市生まれ。岡山大学教育学部卒業。TOSS作州教育サークル代表。
岡山県津山市佐良山小学校を経て、現在、岡山県真庭市立月田小学校教頭。

【主な著書・編著書】『「教えて考えさせる」理科授業の改革』(2009年6月)、『逆転現象が起きる理科発問づくりのコツ』(2008年4月)、『黄金の三日間・理科の授業開き』(2009年7月)、『理科「言語活動の充実」事例』(2010年1月)他、多数。すべて明治図書刊。

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