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1 急増傾向のコミュニティ・スクール
文部科学省の発表によると、今年4月1日現在、全国のコミュニティ・スクール指定校が1,183校に増えた。この数は、前年度比394校増で、文部科学省が目指す「今後5年間でコミュニティ・スクールを全小中学校の1割に拡大」という数値目標の実現を裏づけるデータになりそうである。4月1日以後にも指定された学校があるので、6月現在、1,200校近く指定されているものと思われる。
コミュニティ・スクールに対しては、まだ誤解もあり、指定に及び腰な教育委員会や学校管理職も少なくないが、指定校では一定の成果が見られ、またその校長には満足感をいだくものが多い。
2 コミュニティ・スクールの成果
筆者らが文部科学省委託調査研究を受託し実施した調査によると、コミュニティ・スクールの成果に関しては、指定校校長の97.5%が「学校と地域が情報を共有するようになる」と回答している。そのほか、「地域が学校に協力的になった」(87.7%)、「地域と連携した取組が組織的に行えるようになった」(84.0%)など地域連携に関するものが多い。
学校改善に関しては、「特色ある学校づくりが進んだ」(83.0%)、「学校関係者評価が効果的に行えるようになった」(82.5%)、「教職員の意識改革が進んだ」(77.4%)などを回答した割合が高い。学校運営協議会委員もほぼ同様に認識している。
また、成果認識に関しては、コミュニティ・スクールとしての指定年度が古いほど肯定値が高い傾向にあり、全体平均では数値が低かった「適切な教員人事がなされた」、「教員が子どもと向き合う時間が増えた」、「学力が向上した」、「生徒指導の課題が解決した」など学校の関心が高い成果認識についても、年度による歪みはあるものの、概ねその年度が古い学校ほど高い成果認識を示す傾向にある。
保護者のコミュニティ・スクール理解も苦情の減少と関係が見られた。「保護者がCSについて理解している」学校(「そう思う」の回答)のうち、「苦情が減った」のは84.6%で、そうでないのは15.4%であった。教職員や地域のCS理解も苦情減少と関係がみられた。
そうした成果が認識されているからであろうか、指定校校長及び学校運営協議会委員の8割近く(校長78.0%、委員79.0%)が満足感を抱き、教育委員会の9割以上(91.5%)が「満足」だと回答(「満足している」と「ある程度満足している」の合計)している。
3 未指定校の認識
それでは未指定校の校長はコミュニティ・スクールをどうみているだろうか。未指定校校長の半数近く(50.3%)が指定に前向きである。そのうち、「ぜひ指定を受けたい」は8.7%、「条件が整えば指定を受けたい」は17.9%、「教委から声かけがあれば指定されてもよい」は23.7%である。「ぜひ指定を受けたい」は近畿地方に多く、北海道・東北で少なかった。
そのうち「条件が整えば指定を受けたい」と回答した校長は、その条件として、「必要な予算の確保」(47.9%)を指摘し、「地域の理解と協力が得られる」(46.6%)が続く(第1位から第3位までの合計)。ただし、第1位の回答(条件)のみに絞ると、「教委が指定の方針を示すこと」(27.9%)であった。
4 教育委員会の認識
教育委員会はコミュニティ・スクールをどう認識しているのか。教委調査では、コミュニティ・スクールに関して、現在留意していることについて選択による回答を求めたところ、第1位の回答は、「類似制度との重複が生じる」(40.4%)であった。以下、「学校運営協議会の成果が不明確」(16.6%)、「学校運営協議会委員の人材不足」(11.1%)と続くが、「類似制度」に回答が集中している。「人事権が制約される」(1.3%)、「勤務負担が増加する」(7.3%)、「活動費や委員報酬の支弁が困難」(2.1%)などは意外にも低い数値にとどまっている。
指定校を所管する教委は、指定前には「管理職や教職員の勤務負担が増加する」(63.5%)、「教職員の関心が低い」(60.6%)、「類似制度との重複が生じる」(61.5%)、「活動費や委員報酬の支弁が困難」(45.2%)などを課題視していたが、指定後にはこれらが課題になったと回答した教委の割合は大きく減少している。
未指定校等が懸念する課題や指定の阻害要因になる「類似制度との重複」や「勤務負担増」、「活動費や委員報酬」(予算措置)、「人事」などは実際には学校運営協議会運営に際して問題とならなかったことがわかる。その意味で、指定に消極的な教委や学校はコミュニティ・スクールに対して「食わず嫌い」的な姿勢にあると言えよう。
指定校をもたない教委のうち、今後「導入予定」または「検討中」の合計は全体の6.1%で、指定済み教委を除く未指定教委に占める割合は6.7%になる。
5 今後の検討課題
コミュニティ・スクールをめぐっては、誤解や無理解などが現在でもみられるが、今回の調査では、勤務負担増や類似制度との重複などが指定校ではさほど問題視されていないことがわかった。また、成果が明確でないことを理由に指定を拒む姿勢もみられたが、コミュニティ・スクール制度はそもそも成果の有無で語られるものではないだろう。成果の有無にこだわるのであれば、多くの教育施策の場合も同様に、「不要」だと認識されるかもしれない。たとえば、教職員の人事考課や授業時数増、主幹教諭など新職種の導入など決して成果が明確にされているとは言えない。
言いたいことは、成果ではなく、仕組みとして必要か否かが問われるべきだということである。すなわち、学校裁量権の拡大により、教育委員会からの指導が縮小されたことに伴い、学校をモニタリングする仕組みが不可欠になる。その仕組みこそが学校運営協議会であり、これを設置するコミュニティ・スクールなのである。学校が裁量権を盾に独走してしまえば、教育の機会均等が損なわれかねず、また子どもや保護者のニーズが反映されなくなる危険があるからである。
本稿で取り上げた調査は下記の通りである。
日本大学文理学部教育学科佐藤雄研究室『平成23年度文部科学省委託調査研究 コミュニティ・スクールの推進に関する教育委員会及び学校における取組の 成果検証に係る調査研究報告書』(2012年3月)。調査は、全国のコミュニティ・スクール813校(悉皆)の学校運営協議会委員1名、未指定校1,152校、全教育委員会1,789カ所を対象に、2011年10月〜11日に実施した。