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「未然防止」とは?
国立教育政策研究所 生徒指導研究センター 総括研究官藤平 敦
2011/11/11 掲載
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  • 生活・生徒・進路指導

 生徒指導の指針を示した「生徒指導提要」(文部科学省/平成22年3月)のコンセプトのひとつが「未然防止」である。この言葉は、現在、各地域での生徒指導に関わる研修会等で頻繁に登場している。

 「未然防止」とは、読んで字のごとく、問題を未然に防止するということであるが、その概念が必ずしも統一されて捉えられているとは限らない。
 例えば、誰でも頭痛や寒気がしたり、微熱が出たりしたときなどは、「普段よりも厚着をする」、「いつもよりも早めに床につく」、「市販の薬を飲む」、「念のため医者に行く」…などと、早期対応(未然防止)をするだろう。また、「帰宅時には手洗いやうがいをする」、「早寝早起きをする」、「睡眠時間を十分に取る」、「朝ご飯をしっかりと食べる」…など、日常的に風邪を引きにくくする行動は早期対応の前段階である予防(未然防止)と言えることである。

 このことは、学校教育にも当てはまる。「子どもが3日間連続して欠席したら家庭訪問をする」、「子どもの身体に痣などが見られれば、個別に話を聴く」など、問題の兆候が見られた場合に早期に対応することはもちろん大切なことである。しかし、「集団におけるルールやマナーを守る」、「話し合い活動をする」…など、日頃から健全な集団生活を営むことは、問題が起こりにくい魅力ある学校づくりに結びつくことである。「未然防止」には、治療的な予防(早期発見・早期対応)と健全育成的な予防の2つの意味があり、「生徒指導提要」では、特に後者を重視している。

 ある中学校では、学校生活に関する生徒へのアンケート調査結果を分析したところ、「学校が楽しい」と回答した生徒は「授業がよくわかる」や「みんなで何かをするのが楽しい」とも答えている。同様に、「授業がよくわかる」と回答した生徒は「みんなで何かをするのが楽しい」や「係や委員会活動に積極的」と答えている。授業と学校生活に相関関係があることを再確認したことから、教職員全員で、生徒が主体となるような「授業改善」を試みたり、「学級での集団活動」を重視したりしたところ、不登校の新規出現率が前年度同時期に比べて大幅に減少したという。

 「未然防止」とは、問題の悪化を防ぐための「早期発見・早期対応」のみではない。授業を含めた、日々の教育活動を充実させることは、「学校生活がすべての児童生徒にとって有意義で興味深く、充実したものになることを目指しています。」という生徒指導の本来の意義に相当することである。
 子どもの成長を促すためにも、改めて、すべての子どもを対象にした日々の教育活動を充実させたい。

*文部科学省「生徒指導提要」p.1

藤平 敦ふじひら あつし

国立教育政策研究所 生徒指導研究センター 総括研究官
20年間の公立高等学校教諭を経て平成19年4月より現職。研究課題は、「児童生徒の規範意識」、「中間リーダーを軸とした校内生徒指導体制の在り方」、「個別支援システム」、「高等学校中途退学問題」など。「学校で役に立つものを作るには学校現場へ足を運ぶ」をモットーに、全国の実践事例を積極的に収集・集約・分析をしている。
主要論文 
・「公立高等学校を段階的に見た生徒指導論の必要性」『教育経営研究紀要第11号』平成17年3月
・「初等中等教育現場に配置されている心理専門家の役割、養成課程等の日米比較における考察」『国立教育政策研究所紀要 第138集』 平成21年3月 
・「生徒指導の本来の趣旨を踏まえた教育活動の推進」『学校教育研究26』日本学校教育学会編 平成23年7月

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