教育オピニオン
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障害児の読み書き指導どこに注目するか
特別支援教育の専門性に注目―つまずきの原因に応じた指導を―
元愛媛大学教授上岡 一世
2011/9/27 掲載

教育の原点の理解

 特別支援教育は教育の原点だと言われています。これはだれもが知っていることです。しかし、教育の原点がどれだけ日々の教育活動に生かされているかとなるとあまり生かされていないのが現状です。
 教育の目指すべき目標やねらい、教育の本質は障害があるなしで変わるものではありません。では、何が変わるのか。個々の実態や特性により指導内容、指導方法が違ってくるのです。特別支援教育は通常教育の指導内容、指導方法をより掘り下げた基礎、基本を追求している教育であるからこそ、教育の原点と言われるのです。
 今、授業のユニバーサルデザイン化が叫ばれています。全国各地でその取り組みが行われています。これは、まさに上述した原点を生かす教育が始まったと言えます。特別支援教育を取り入れた授業をすれば、児童生徒の授業への興味、関心や理解が高まり、学力も向上するのではないかという取り組みです。これこそが教育の原点の実践です。特別支援教育を取り入れた授業を行うとは、特別支援教育の授業の形を取り入れることではありません。教育の基礎、基本を追求した効果的な支援の方法や対応の仕方を個々に応じて授業に取り入れるのです。あくまで、個々のニーズに応じて授業を展開しなければ、教育の原点が生かされたとは言えません。個々のニーズに応じるとは、個々に応じてわかりやすさを追求することです。わかりやすさは発達的視点に立った指導が基本です。このことを読み書き指導についても重視する必要があります。

原因探求が基本

 障害を持つ子の保護者が教師に「もっと学校で文字を教えて欲しい。文が書けるようにして欲しい」と訴えました。教師はそれに応えて、子どもに一生懸命文字を教えました。宿題も出し、家庭でも努力するよう働きかけをしました。一ヶ月が過ぎ、三ヶ月が過ぎましたが、一向に書けるようにはなりません。覚えたと思って安心していると次の日には忘れているのです。結果の出ない焦りからか、教師は指導が足らないと思いこみ、文字の指導に一層力を入れました。保護者もそれに追随したことは言うまでもありません。ところが、教師の熱意が高まれば高まるほど子どもは無気力になっていったのです。
 文字が書けない子どもに文字を教えれば文字が書けるようになるのではないことは、だれもが理解できています。しかし、何を、どのように教えれば文字が書けるようになるかという発達の順序性にそった指導となるとなかなかにむずかしいのが実情です。ここに教育の原点と言われる特別支援教育の専門性を生かす必要があります。
 文字が書けるようになるためにはレディネス技能が必要です。例えば弁別力、形の認知、注意力、集中力、手先の巧緻性、目と手の協応動作などです。こうしたレディネス技能が備わっている子どもに文字を教えると効果が出ますが、そうでない子どもには、いくら熱心に指導しても結果は出せません。発達的視点に立たない指導は子どもにとってはストレスが溜まるだけです。文字が書けない原因を見出し、その原因を一つ一つクリアしていく基礎、基本を重視した指導を行うことが必要です。指導は発達やつまずきに応じて無駄なく効率的に行ってこそ意味があります。
 読みについても同様のことが言えます。子どもの発達段階や障害により、読みの実態は違ってきます。まったく読めない子、読めても文として読めない子、文が読めても書いてある意味がわからない子、文の直接的な意味はわかるが、伝達機能としての意味理解ができない子などさまざまです。文字よりも原因は多様で、その把握も複雑です。画一的で、一律的な指導では効果がないことは言うまでもありません。構音能力に問題はないのか、文法の規則を用いる能力はどうか、意味を理解したり、生み出す能力はあるか、直接的な意味理解でなく、意図を読み取る能力はどうかなど、一つ一つつまずきの実態を把握し、その子自身の課題を確実にクリアしていく指導が必要です。
 原因探求に応じた指導が特別支援教育の専門性です。是非、特別支援教育に学ぶ指導を行って欲しいと思います。

国語教育2011年10月号より転載

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