教育オピニオン
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保護者連携のキーワード「3つのK」と連携の進め方の実際
子どもが大きく伸びる保護者との効果的連携
新潟大学教育学部教授長澤 正樹
2011/8/17 掲載

1 ある母親の願い

 筆者が特別支援学校の教師をしていたときのエピソードである。ことばによるコミュニケーションが困難な自閉症の中学生をもつ母親が、特別支援学校でことばの学習をしてくれないことに不満を訴えていた。当時この学校の中学部は領域・教科をあわせた指導中心のカリキュラムで、自立活動の時間を特設しての個別指導の時間は確保されていなかった。訴えてもいっこうに変わらぬ学校の姿勢に業を煮やし、母親は学校を休ませて言語聴覚士のいる病院へ通院するようになった。中学部の教師らは母親の行動を自分勝手だと批判していたが、担任はあきらめずに親身に話を聞いていたようであった。やがて思いがけない事実が判明した。この母親は担任に次のように語ったという。
 「私も効果がないことはわかっています。本日病院の先生に、病院ではなく学校に行くように言われました。でも、一度でいいから『おかあさん』って、呼んでもらいたいんです」
 この事実に中学部の教師は一同沈黙し、今までの教育方法を見直すようになったことは言うまでもない。私は親と連携し、親の願いを感じ取る場面になると、いつもこの事例を思い出す。

2 保護者連携のキーワード:3つのK

 自閉症の子どもをもつ保護者と連携し、一緒に子どもを育てるときに大切にしたいことを「3つのK」であらわしてみた。まずは「協働」のK。保護者の願いと教師の願いが一致しないことは珍しくない。確かに教師は自閉症の教育の専門家かもしれない。しかし保護者は自分の子どもについて最もよく知る「子どもの専門家」なのである。どちらの言い分が正しいかをジャッジするのではなく、子どもを伸ばすために教師、保護者それぞれがお互いの専門性を生かし何をすればよいのか、話し合うことが大切である。2つ目のKは「共感」。考えや意見が違っていても、相手の考えや感情を受け止め、理解しようとすることである。よりよい話し合いのためには、まずお互いの考えを知ること、認めることから始まる。最後は「個別計画」のK。話し合いの結果合意できた内容を書面にまとめること。書式にこだわらず、何をいつまでに実行するのかを具体的に決めて書面にまとめ、お互いが所有すること。
 協働、共感、個別計画という3つのキーワードを大切にし、連携していただきたい。

3 保護者とかかわる教師の姿勢

 ここでは、保護者との話し合いをするときに心がけたい教師の姿勢について述べる。
 @保護者の話をじっくり聴くこと。気持ちを受け入れ共感する態度が大事である。A訴えていることを理解すること。教師は保護者に積極的に質問し、何を望んでいるのかを具体的に知ること。疑問に感じていることや考えの違いを曖昧にしないこと。B願いを明確にすること。不満や要求などを聞いているときには保護者の話を整理し、子どもにどうなってほしいのかを明らかにすること。保護者の了解を得てメモをとりながら、メモを示しながら進めてもよい。C「それはできない」と安易に否定するのではなく、「どうすればできるか」という姿勢を示すこと。お互いが知っている情報を共有し、少しでも実現の可能性のある対応を一つ一つ丁寧に検討する。Dできることとできないことを分けて説明すること。学校側ができることは積極的に提案し、できないことは理由を述べてはっきり断ること。重要な点を曖昧にしないことである。最後は、E合意できた内容を個別の指導計画などの書面にまとめること。

4 継続的支援の在り方

 教師と保護者との話し合いが1回で終了することはまれである。曜日や時間を決めて定期的に話し合いを継続することで、子どもへの支援が行き届き、お互いの信頼関係が構築される。ここでは話し合いを継続するときに教師が心がけるポイントを述べる。
 @定期的に話し合いの機会を設定すること。保護者の都合を聞きながら、お互いが無理なく参加できる時間帯を決定する。A今まで実行した成果を確認すること。話し合いのときには、実行したこと、実行できなかったこと、子どもができるようになったこと(変化したこと)、いまだ実現が難しいことなど、個別の指導計画に基づいて客観的に評価すること。このとき、子どもの全体像を総合的に評価するのではなく、目標として決めたことを一つ一つ確認し、できたこととできないことをしっかり整理して評価することが大切である。少しでもできるようになったことは積極的に認め、喜びを共有すること。B親のがんばりを評価すること。学校に来て教師との話し合いに望む保護者は、それだけ意欲がある証拠である。仮に実施した結果が思わしくなくても、親のがんばりを必ず認め、評価すること。このことは親の姿勢を尊重することを意味する。C次回までの対応を決めること。残された課題を整理し、次回までにお互いがすべき支援について確認し、次回のスケジュールを決める。そして、D常に親の悩みに答える姿勢を示すこと。学校はどんなときでも親の味方であり、担任だけではなくすべての教師が支援者であることを随時伝えるようにすること。

5 まとめ

 自閉症の子どもの特性や支援方法については、教師も保護者もだいぶ知識や理解が深まっていると感じる。しかし、一人一人の子どものニーズは、同じ自閉症でもだいぶ違う。一人一人の子どもが何を望んでいるのか、話し合いを大事にして、子ども中心の支援をしていただきたい。ICTの普及・発展により情報入手や情報交換が便利になったが、一人一人の子どもについての意思決定は、やはり教師と保護者が実際に会って、直接話し合うことが最も大切だと考える。メールや電話、アンケート用紙などで済ませることのないようにしたいものである。

自閉症教育の実践研究2011年8月号より転載

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