教育オピニオン
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音楽、楽ありゃ苦もあるさ!
聖徳大学音楽学部音楽総合学科准教授松井 孝夫
2011/8/8 掲載

音楽って楽しければOK?

 「楽しくなければ、音楽じゃない!」。これは、音楽科教師の誰もが日頃から思っていることではないでしょうか。ところが今や、「楽しいだけでは音楽の授業じゃない!」というのが新・学習指導要領における音楽科の重要課題となっています。つまり、楽しい活動の中で生涯にわたって音楽とつきあっていける、その基礎力を子どもたちにきちんと身につけさせていくこと。それが大事であるということを教師がきちんと認識した上で、指導しなければならないということです。
 これはたやすいようで案外難しいことです。たとえば、中学校2年生や3年生であれば、週に1回、1年に35回しかない音楽科の授業。その限られた時間の中で、いわゆる西洋のクラシック音楽だけでなく、我が国の伝統音楽や諸民族の音楽も取り扱い、歌や楽器の演奏とともに、鑑賞や創作活動もバランスよく行わなければならないのです。子どもたちにとって充実した音楽の時間を演出できるよう、日夜、授業の効率化、指導内容の厳選に力を注いでいる先生方も多いことと思います。
 今回改訂された学習指導要領では、充実した学習の展開を支えていくための手がかりとして、〔共通事項〕というものが新設されました。この事項を上手に活用しながら、子どもたちの音楽に関する概念形成を地道に確かなものへと積み重ねていくことこそが、私たち音楽科教師の使命と言えるでしょう。

中学教師だったからこそ生まれた「マイバラード」

 私が中学校の教師だった頃、子どもたちと過ごす中で、折にふれて中学生向けのクラス合唱曲を作ってきました。どの曲においても、作曲するときのスタンスとして常に持っていたものがあります。それは、「子どもたちの持つ瑞々しい感性から発信されたものを精一杯受け止め、その素晴らしさに応答し、やがては子どもたちへと還元していきたい!」という思いです。教員になって初めて手掛けた曲「マイバラード」は、目の前にいる子どもたちが、なんとかして心を開いて、歌うことの楽しさに気づいてもらいたいという願いから生まれました。子どもたちへの思いを子どもたちの目線に合わせて表し、子どもたちの心の琴線にふれる作品としてまとめることができた、私の記念すべき第1作目となりました。
 学習指導要領に示されているような、「音楽を形づくっている要素を知覚・感受し、思考・判断し表現する」という一連の過程も、ちょっとした工夫次第で多くの学びが得られるものと感じています。たとえば、歌って踊れる合唱曲。これは、子どもたちの情動をくすぐり、感性を揺さぶり、創意工夫を促す要素をたくさん含んでいます。私の作品の中では、その典型的な曲として「笑顔を忘れてしまった君に」「Refrain Regrets」「Let's begin」「未来へのステップ」などがあげられます。これらの作品は共通して、アップテンポでリズミカルで歯切れのよい曲になっています。そして、子どもたちが喜んで歌っているうちに、自ら音楽を求め、主体的に創意工夫を試みてみようとする力がついていくのです。

どんなときにも音楽は素敵な学校生活をつくる!

 子どもたちと共に汗を流し、試行錯誤する中で見つけ出したものは尊いもので、音楽科の目指す「生きる力」の育成に必ずやつながっていくことでしょう。百聞は一見にしかず! まずは、松井孝夫作品を聴いて、そして演奏してみて、その世界を味わう中で、音楽の楽しさと学びを探してみてはいかがでしょうか。「マイバラード」で歌われる歌詞のごとく、どんなときにも仲間とともに、音楽が奏でられる、そんな素敵な学校生活をすべての子どもたちに過ごしていってもらいたいものです。

松井 孝夫まつい たかお

1961年 東京都生まれ。東京学芸大学D類音楽科(作曲選修)卒業。同大学院音楽教育研究科修了。東京都公立中学校、東京学芸大学附属大泉中学校、附属国際中等教育学校教諭を経て、現在、聖徳大学音楽学部音楽総合学科准教授。主な合唱作品は、「マイバラード」「そのままの君で」「はばたこう明日へ」「流れゆく雲を見つめて」「自分らしく」「つばめのように」ほか多数。また、「旅立ちの日に」「we are the one」などを編曲。教育現場にいる中で、折にふれて平易な合唱作品を手がけ、現在に至るまで全国各地の小中学生に歌われ、多くの子どもたちや教員から共感と支持を得ている。

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