教育オピニオン
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これだけは押さえたい体育授業の基礎・基本
自分の身体に自信をもてる子どもに
東海学園大学人文学部発達教育学科岩井 邦夫
2011/6/2 掲載

 『低学年の頃、授業で「鉄棒」をやりました。鉄棒の数が少なく、23人のクラスで約4人ずつに分かれて行いました。形式は、「前回り〜、次は何〜」と先生が言っていき、それを行うといったものでした。「次、逆上がり」と言われると嫌でした。なぜなら、できないことを皆の前でしなくてはならないからです。いくら強く蹴っても、どうしても腕が伸びてしまい、体を曲げるタイミングがつかめず、どうしてもできませんでした。当時人一倍負けず嫌いだったので、できる友だちにコツを聞いたりしましたが、強く蹴るだとか、腕を曲げるだとか言われるだけで、そのうち鉄棒の授業も終わり、悔しかったけど、もうそんな姿をさらす必要がないと思うと安心して、それからは一度も鉄棒に近づいていません。だから、今でもできないと思います。』(大学2年生・M男)

 これは、大学の教職課程の科目「体育科研究」の授業の事前調査『逆上がりの思い出』で語った男子大学生の声です。
 当初、小学校教員養成課程の大学2年生、30名中5名(男子4、女子1)の者は、逆上がりができないと答えました。その後の練習で、M男を含め男子大学生の4名は、全員すぐに逆上がりができるようになりました。
 あと1名の女子大学生は、もう少し練習すればできるのですが、誘ってもあまり挑戦しようとしません。彼女は、小学生の頃に練習の途中で鉄棒から落ちてしまい、それから怖くなって、今でもやりたくないと語っています。
 鉄棒の逆上がりは、できない姿を皆の前でさらすテストのためにあるのでしょうか。できないことが嫌でやりたくないと逃げ出す体育嫌いの子どもを育てるためにあるのでしょうか。逆上がりができないことで小学校時代の苦々しい思い出とだけはしたくないです。
 体育の授業は、子どもたちに、自分の身体についての自信を与えるために、様々な運動と対峙させることが目的であるはずです。運動能力テストをして、運動能力に対する自信を失わせ、体育の授業を嫌いにさせているような例が、まだまだすこぶる多いように思いませんか。本末転倒です。
 体育の授業では、運動のでき不できや上手下手、合格不合格というような成績で上下を決めないで、まず多種多様な動きを子どもが見つけ、友だちと工夫し合って、お互いに楽しく体を動かすことの面白さや喜びを味わわせてやりたいものです。
 鉄棒もまずは面白いと思わせ、自分に自信を失わせることのないようにしたいものです。

楽しい体育の授業2011年6月号より転載

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