教育オピニオン
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教育エッセイ(第12回)
デジタル教科書時代の到来
横浜国立大学教育人間学部教授府川 源一郎
2011/3/31 掲載

 いよいよ日本でも、電子書籍の時代が到来したというニュースが飛び交っている。いくつかのメーカーが、デジタル情報をディスプレイに自在に表示できるような装置を販売したり、類似の商品を近日中に市場に供給すると予告しているからだ。我々は将来、紙に印刷した活字を読むのではなく、もっぱら電子装置に頼って、読書活動を展開することになるのかもしれない。

 もちろんこれまでも、パソコンやケータイ、あるいは電子辞書などを使えば、紙媒体ではない文字情報を読むことはできた。新聞の最新ニュースはネット経由で読んだ方が最新情報を獲得できるので、新聞の定期購読をしていない家庭も多くなってきている。百科事典の代わりに、パソコンの検索機能を使うのは、もはや一般的な情報収集活動となった。次々と更新される情報は、その量といい、新鮮さといい、紙に印刷された書籍を、はるかに凌駕する。
挿絵

 ほかならぬ国語教科書も、全面的にデジタルに移行することが想定される。子どもたちは、ランドセルに重い各教科の教科書を背負って通学するのではなく、薄いディスプレイを持ち運ぶのだ。

 目の悪い子どもには、活字の大きさを自在に変えられる機能や文章の読み上げ機能が有効だろう。また、肢体不自由の子どもは、軽いディスプレイが読書行為を積極的なものにしてくれるかもしれない。そのほか、子どもにとって、紙の教科書で難しかった新しい教科書の使い方が生まれてくる可能性がある。

 また、学習指導も変わるだろう。文章の冒頭から結末までを線上的に読んでいく読み方だけではなく、特定の単語を拾い出したり、文末表現だけを調べたりするような横断的な言語学習ができる。外部の情報をを調査して、そのまま自分の作文活動に取り入れることも可能である。あるいは、そうした情報探索の仕方そのものを考えたり、そこでのルールを教えることもできるだろう。

 デジタル教科書の登場は、従来の受動的な学習が、主体的で能動的な学習へと大きく転換するきっかけになるかもしれない。まずは、その可能性を探ることが、今日の私たちの立場でなくてはならない。

府川 源一郎ふかわ げんいちろう

1948年東京生まれ。横浜国立大学大学院教育学研究科修了。川崎市立小学校で、普通学級、障害児学級(ことばの教室)を担任。横浜国立大学教育学部附属鎌倉小学校教諭を経て、現在、同大学教育人間学部教授。〈著書〉『文学すること・教育すること―文学体験の成立をめざして―』(東洋館出版社)、『「ごんぎつね」をめぐる謎―子ども・文学・教科書―』(教育出版)、『読解力UP!小学校全体で取り組む「読書活動」プラン』(明治図書)ほか。

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